しっぽ

水頭症(すいとうしょう)

>>>犬の水頭症とは?

水頭症という病名を聞いてどういった印象をお受けになるでしょうか?病名から症状を推測して一体どんな恐ろしい病気なのだろうと思う方もいるかも知れません。水頭症とはMRIやCTなどの画像診断の上では「脳室が拡大している」ということと同じ意味になります。病気の成り立ちとしては、脳室内の過剰な脳脊髄液が、出口を求めて脳圧が高まり脳室の拡大が生じます。その結果、脳の圧迫による障害や萎縮が生じるということです。

「頭の中に脳脊髄液が入っている」ということがピンと来ない方のために、ちょっと頭蓋内の構造と仕組みついて触れてみたいと思います。頭蓋骨の中には一体何が入っているのでしょうか?おそらく「脳味噌」という答えが直ぐに返ってくると思います。
いわゆる脳味噌はその構造として大脳+中脳+小脳+脳幹という部分からできており、各脳の周囲とその内部の空間を脳脊髄液が満たしています。「頭蓋内には一体何が入っているのか」という答えですが、それを構成する構造からいうと「80%の脳実質、10%の血管、10%の脳脊髄液」ということになるでしょうか。

も他の臓器と同じように血液から栄養酸素の供給がなければ生きていくことができません。もちろん代謝産物(ゴミ)も排出されます。また、最もデリケートな臓器のひとつで衝撃や振動に対しても弱いため、さまざまな仕組みでしっかりとした保護されている臓器です。

脳脊髄液は脳が生きるために不可欠な代謝産物の排出機能を持つだけではなく、脳を水で包んで衝撃から保護するという重要な機能をも担っています。脳脊髄液の循環経路は脳から脊髄まで広範囲にわたります。全身を流れる血液のように脳脊髄液は頭のてっぺんから尻尾まで脳と脊髄の周囲を循環しています。

その重要な脳脊髄液の量と圧力のバランスが崩れ、脳を圧迫して障害が及ぶ病気が水頭症なのです。

 

>>>水頭症の原因は?

水頭症とは脳室に過剰に脳脊髄液が貯留している状態を指します。なせ脳室にそのような変化が起きてしまうのでしょうか?その原因は大きく3つに分けられます。

①脳脊髄液が作られ過ぎる
②脳脊髄液の循環経路の詰まりがある
③脳脊髄液の吸収に問題がある

「脳脊髄液が作られ過ぎる」状態はの特殊な部分に出来る腫瘍に伴って起こることがありますが、これはあまり見られるものではありません。
先天的に、もしくは出産時の脳出血や炎症などが原因で「脳脊髄液の循環経路の詰まり」がある場合や、「脳脊髄液の吸収に問題がある」状況が起きることもありますが、成長後に脳腫瘍・脳炎・脳梗塞などによって発症するものもあります。
水頭症はすぐに症状が出るのではなく、徐々に脳圧の高まりと脳室拡大が徐々に進行して、脳障害の許容レベルを超えると症状がでてくることが多いのです。

 

>>>水頭症の症状は?

水頭症の症状には脳障害を起こしている部位と重症度によって様々なものがありますが、いわゆる神経症状が主体です。神経症状が多岐にわたるのは脳室拡大による脳圧の高まりよって脳のどこが圧迫されるのかが一定ではないからです。
よくみられる症状には、ふらつき・旋回運動・てんかん様発作・斜視・視力障害などがあります。攻撃性をしめすもの、あるいは沈うつを示すような行動異常が生じることもあります。

犬では脳室の拡大には様々な段階があり、無症状無治療で生涯を終えるケースもあり、水頭症は決して稀なものではありません。実は身近に水頭症のワンちゃんは飼い主さんも気づかないまま普通に生活しているかもしれないのです。

 

>>>水頭症の診断は?

脳室拡大を見つけるためにはどうしたらいいでしょうか?長らく、レントゲン検査によって水頭症の存在を予想する検査が行われていましたが、やや正確性に欠けるものでした。
最近では機器の進歩もあり、頭部の超音波検査による評価が一般的になってきています。骨で囲まれている脳に超音波検査が出来るのかと思われるかも知れませんが、先天性水頭症の犬は頭蓋骨の結合が緩いことが多く、その隙間から超音波検査が可能です。一般的に超音波で評価できるのは脳室の側脳室という部分になります。
この脳室の大きさを評価,する方法(脳室脳比: V/B ratio)が診察室内で負担も少なくできるため、若齢期での先天的水頭症の検査としてよく用いられます。

その他の画像検査としはCTやMRI検査があります。これらの検査のメリットは大きく、超音波検査では見えない全ての脳室の評価や、脳室拡大の原因として腫瘍、脳炎脳浮腫などの異常があるかを確認できますので、正確な診断を期待できます。また、同じような神経症状を起こす水頭症以外の脳の病気の診断も同時に行うことができます。
しかしCTMRIは検査できる施設が限られるということと、原則として全身麻酔を要する検査であるためにその煩雑さや医療コスト、患者さんの状態による検査に伴うリスクがあります。

 

>>>水頭症の治療は?

薬剤での内科療法手術による外科療法がその重症度によって選択されます。水頭症の症状が軽度であったり、初期治療の内科療法神経症状の緩和があれば治療継続となります。症状が重度であったり、薬物での対処が難しい場合には、外科療法が考慮されることもあります。

内科療法としてプレドニゾロンデキサメタゾンなどの副腎皮質ステロイド剤脳脊髄液の産生を減らして、周囲に起きている炎症浮腫を軽減することができます。またグリセリン製剤イソソルビドなど浸透圧利尿薬を用いることで脳圧低下が期待できます。その他に水頭症に合併するてんかん様発作などに合わせた抗けいれん薬などの治療が必要となることがあります。

外科療法として動物医療ではV-Pシャント術が一般的です。この手術はシャント(短絡)チューブ脳室腹腔内を繋ぎ、過剰な脳脊髄液腹腔内に逃がすという方法です。しかし脳が重度の障害を受けている場合にはこのシャント術を行っても脳は回復せず、むしろ悪化することがあります。またシャントチューブの詰まりや成長に伴うサイズ変更のための再手術が必要なことも考慮した上で外科療法を実施いたします。

———————————————-

文責: あいむ動物病院西船橋 太田 晶子

AIM ANIMAL HOSPITAL NISHIFUNABASHI
上部へスクロール