診療Column

真夏の湿疹 ~犬のホットスポット

梅雨も明けて、夏本番。気温も連日のように35度を超えるようになってきました。人間はもちろんですが、夏でも脱ぐことのできない厚い毛皮と脂肪のコートをまとったわんこ達にとってはヒトが感じるより、遥かに過酷な季節でもあります。

ところで、犬には気温、湿度の上昇とともに増えてくる皮膚病急性湿疹があることをご存知でしょうか? それは。。。

急性湿性皮膚炎、別名ホットスポットとも呼ばれます。ワンちゃんを飼われている方なら、もしかしたら一度や二度は耳にされたこともあるかもしれません。

「ホットスポット」と聞くと、近年では、「放射線量の。。。」とか、「無線LANの。。。」という意味で使われることが多いのですが、本来は局地的に何かの値が高かったり、何らかの活動が活発な地点・場所・地域のことを指さすための用語です。

動物医療で使われる場合の「ホットスポット」はこの、急性湿性皮膚炎、化膿性外傷性皮膚炎とも呼ばれる、いわゆる急性湿疹のことを指します。ホットスポットと呼ばれる所以は、皮膚の一部のエリアに突然、外見上の激しい変化が起きるためだからでしょうか。

この場合の飼い主さんの訴えの特徴としてはあるパターンとして。。。

”朝起きたときは何ともなかったのに、昼過ぎにこんなになったんです!!!”

という、突然でびっくりした」という雰囲気を診察時によく感じるものです。

急性湿性皮膚炎はおおよそ数時間から一日以内の期間で急に発症します。皮膚病で「痒い」というよりむしろ痛みに近い症状が見られ、しきりに舐めたり地面に擦りつけたりしますので患部の損傷がより大きくなります。痛みなどの不快感が高いため飼い主さんが触ろうとしてもなかなか見せてくれないこともしばしばです。

来院時の状態は様々ですが、通常は激しく舐めるために周囲の被毛には唾液とホットスポットから出る血液滲出液(滲み出る体液)などがこびりついていることが普通です。これは皮膚が広範囲に激しく炎症をおこしていることを示しており、その上の被毛はそれに伴って根こそぎごっそりと抜けてしまうことも少なくありません。

ホットスポットの具体的な症状ははどんなものなのか?文章では分かりにくいので、まず下の4つの写真をご覧いただければと思います。

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次の写真は中年齢のゴールデンレトリバーです。半日でこの状態になりました。ホットスポット上の被毛は完全に抜けてしまっており、体液と血液が周囲の被毛を濡らしています。

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次の写真は若いシーズーです。トリミング中の急性発症です。この間わずか数時間で、あまりに急でしたのでトリマーの方が代理で来院しました。表皮は体液で濡れており、相当掻いたようで、それに一致してホットスポットが広がっています。

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次の写真は老齢のパピヨンです。前日の夜は何ともなかったようですが、尻尾の付け根を噛んでグルグル回るということで昼前にいらっしゃいました。写真は体液でべったりくっついていた被毛を治療のために除去したところです。

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次の写真もパピヨンです。やはり前日には何もなかったとのことですが、急に尻尾を噛みだして出血しているということでいらっしゃいました。尻尾の周り全周に渡り血液の混ざった体液が全体に付着しています。非常に痛みが強いので、今後の尾への自己損傷が心配です。

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ホットスポットはあらゆる犬種で見られますが、アンダーコートが密生している犬に多い傾向があり、ゴールデンレトリバー柴犬、シベリアンハスキーなどではよく見られます。発症原因は明確ではありませんが、いくつかの要因が重なり合って発症するといわれています。発症の引き金としては何らかのアレルギー、例えば食事性アレルギーノミやダニなどの外部寄生虫により発症するアレルギーや、アトピーなどが考えられています。

アレルギーなどで生じた皮膚炎の痒みなどの刺激により、舐めたり引っ掻いたりすることで皮膚損傷がさらに広がって表皮バリア機能が破たんします。すると、そこに普段から存在するブドウ球菌などの細菌が侵入、二次感染を起こして広範囲に化膿を生じます。

夏季での発生が多いこと、被毛が密に生えている犬に多く見られることから、高い気温湿度などにより表皮の代謝が変化したり、蒸れやすくなって皮膚環境が悪化することも、発症要因としては大きいと考えられます。

ホットスポットの病変にはブドウ球菌などの細菌が観察されることが頻繁にありますが、これは主原因ではなく二次感染ですので人のブドウ球菌感染で見られるような「とびひ伝染性膿痂疹)」のように、他の犬はもちろん、人には感染しませんのでご安心ください。局所では激しい炎症を生じますが、全身への波及は通常みられません。

治療は二次感染の原因となっている細菌感染のための抗生物質アレルギーを原因とする強い痛みや痒みに対する抗炎症薬副腎皮質ステロイドホルモン製剤等)の投薬を行います。病変が唾液や体液で汚れていたり、滲出液(にじみ出てくる体液)が多い場合には、毛刈りを行いホットスポット表面の清潔を保てるようにして消毒薬薬用シャンプーなどの外用薬を継続します。同時に、舐める、噛むなどの自己損傷を防ぐためにエリザベスカラーは装着したほうがいいでしょう。

経過が順調であれば、数日で次第に細菌感染炎症が軽減し、一週間弱で痂疲化(カサブタになる)して数週間程度で被毛が生えそろいます。ホットスポットはシーズンごとに繰り返すことも多く、このような場合には夏季では室温を下げたり、被毛を短く保つ、シャンプーの回数を増やすなどの生活環境の改善が必要なこともあります。
また、アレルギーの低減のために皮膚疾患に大きくかかわるノミダニなどの外部寄生虫の予防を行うことや、場合によっては食事性のアレルギーに配慮された食材に変更するということも必要かもしれません。

梅雨から夏季にかけて、動物たちを取り巻く環境は大きく変化しやすいものです。暑い夏といえば、あちこちで緊急疾患の熱中症がクローズアップされがちですが、いわゆる気象病的な体調不良から心臓病腎臓病などの内科系疾患の悪化に至るまで、夏季に生じる異常は多岐にわたります。
つまり、この時期に注意すべきものは今回取り上げたホットスポット熱中症などの分かりやすいトピック的なものばかりではないということです。夏はただ暑く、不快なだけではありません。病気を持っていたり高齢動物とともに生活している方は注意深く様子を観察してあげてください。。。

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文責:あいむ動物病院西船橋 病院長 井田 龍

耳の痛い話 ~ 犬の耳血腫

今回のコラムの話題は、「とても痛い耳血腫」のお話しです。

耳血腫は動物病院では比較的ありふれた、おもに犬の病気ですが、猫でもわずかにみられます。犬ではビーグルや、ゴールデンレトリーバーなどの比較的大きな垂れ耳を持ち、よく外耳炎に悩まされるような犬に生じやすい傾向があります。
この耳血腫、日常生活では人で同様な異常が起こることはあまりないため、特にひどい急性の耳血腫が起きた場合、飼い主さんはいったい何が起きているのか想像できず、その様子にびっくりして来院されることが多いものです。

余談ですが、耳血腫(耳介血腫)は人では柔道などの格闘技や、ラグビーなどの頭部に激しい刺激を繰り返し起こすスポーツによって生じる「スポーツ外傷」としてよく知られていますので、こういったスポーツをされる方にとっては身近なものかもしれません。

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犬の耳介は「自由に動かせる集音装置」であり「コミュニケーションの道具」、「車のラジエーターのような放熱作用」や「耳道鼓膜を保護する働き」など、人よりも多彩 な機能を持っていて、その機能を担うためか、耳介軟骨の周囲はたくさんの管が存在します。

この豊富な血管がなんらかの外部の刺激により破たんして、耳介軟骨皮膚の隙間をじわじわと押し広げながら溜まった血液耳血腫の正体なのです
ご参考までに、下記に耳血腫の仕組み下図に示します。

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【耳血腫の模式図】(アニコム損害保険、どうぶつ親子手帳、「耳血腫」から引用)
ー> ワンちゃんの病気、耳血腫
 

耳血腫の原因は耳介への反復する激しい刺激なのですが、ワンちゃんの場合はもちろんスポーツなどではなく、その原因は後ろ足によって激しく掻く、もしくは頭部を激しく擦りつけたり、振ってバタバタさせることによる耳介への打撃によって生じます。

急性耳血腫の中身は出血したばかりの血液血餅です。血腫が小さければ自然に吸収することもありますが、ワンちゃんは我慢できず自ら悪化させてしまうため、いったん耳血腫を生じるとそのままでは元通りになるような自然治癒はほぼ見込めません。

耳介に反復する激しい刺激が起こる原因としては外耳炎、中耳炎などの耳の病気や耳介やそれに近い部位の皮膚病外傷腫瘤外部寄生虫など多岐にわたりますが、よく見られるのは強い痒みの刺激を伴う外耳炎を原因とする耳血腫です。

以下、耳血腫のワンちゃんを3例、ご紹介したいと思います。いずれも耳介の先端から根元まで至る大きな耳血腫を生じています。
写真で耳介がぶ厚く膨らんで、パンパンに腫れているのをご覧になれるかと思いますが、こういった状態になると、痛みが強くなり、不快度がとても高くなります。さらに、耳血腫によって重たくなった耳介は頭部や周辺に鞭のように勢いを増して打ちつけられるようになり、痛みや損傷などがさらにひどくなります。

下の写真は外耳炎での来院が数回ある程度の老齢のパグです。耳を掻き始めてから数日でこのようになってしまいました。耳垢には大量のマラセチアがみられました。

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次の写真は慢性外耳炎、中耳炎をもつ、中年齢の雑種犬です。アトピーに関連すると思われる長期の外耳炎(中耳炎)耳介その他の部位にも脂漏症による皮膚炎を日常的に起こしています。耳垢には大量のマラセチアブドウ球菌が見られました。

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次の写真は高齢のフラットコーテッドレトリーバーです。過去にも耳血腫を繰り返し起こしています。耳の汚れが常にみられるために外耳炎を発症し易く、耳垢からは常に大量のマラセチアが検出されています。

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ところで、上記の耳血腫はいずれもマラセチアが関与する外耳炎に続発したものでした。マラセチア感染はワンちゃんの耳に強い痒みを引き起こす外耳炎の原因として最も頻度が高いもので、耳血腫の発生にも大きな影響を与えます。

原因となっているこのマラセチア(Malassezia pachydermatis酵母様真菌というカビの一種です。同じカビではありますが、人で強い痒みを起こす水虫のカビ(糸状菌)とは違うグループに属します。下の顕微鏡写真で「紫色のピーナッツ」のように見えるのがマラセチア酵母です。

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マラセチアは実は健康な外耳道皮膚には常在菌として少数存在して、通常は問題を引き起こすことはありません。ところが、マラセチアが好む湿度温度、栄養とする脂分が多い環境では異常に増殖して、正常な皮膚の環境を壊してしまうのです。
この条件がそろいやすいのが耳道、耳介皮膚であり、さらにアトピーであったり脂漏症などの皮膚バリア機能が低下した条件ではより拍車がかかります。

マラセチアが引き起こす痒みが強いのはなぜでしょうか。これには2つの理由があります。
まず、マラセチアは酵母の一種ですから、皮脂発酵させていろんな代謝産物(ゴミ)を排泄します。これが皮膚に対して強い刺激となること、またマラセチアの菌体そのものが強いアレルギーを引き起こすために、そこに生じる皮膚炎もまた強い痒みの原因となります。

耳血腫の治療はどうする? ----------------------------------------------

さて、貯まってしまった血腫はどうしたらよいでしょう?
耳血腫の大きさにもよりますが、まず行われるのが、血腫に針を刺して注射器で抜くことでしょうか。この方法はワンちゃんが協力的であれば容易ですので、最初に行われることが多いと思います。ちょっと太い針を刺しますので我慢は必要ですが、パンパンに張った血腫を抜くだけでワンちゃんはかなり楽になります。

が、しかし、その効果も数日で元通り、耳を”ぶんぶん”振って再来院ということが多いものです。このため、血腫を抜いた後に耳介周囲に圧迫包帯を巻いたりするのですが、血腫体液の出る圧力というのはとても強いもので、生半可な圧迫耳介軟骨皮膚がくっつこうとする働きを上回ることが多く、しばしば再発します。。。その場合は。

下の写真は鎮静処置を行った後に血腫に沿って縦に切開を加え、血腫内容を除去したものです。広い切開によって血腫内容が常に排泄され、耳血腫内の圧力を減らし続けることができますので包帯を週に数回交換しながら、耳介軟骨皮下組織の接着を待つことができます。

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上記の処置でもなお、出血体液をコントロールできずに再発を繰り返す場合があります。その場合には全身麻酔下での手術となります。手術によって、血腫内容のさらなる排出と血腫内のデブリードマンdebridement: 治癒を邪魔している不要な壊死繊維化した組織などを除去して、患部を清浄化すること、ドイツ語に由来)耳介軟骨皮下組織皮膚のより強い接着を目的に縫合を行います。。

外耳炎などによる耳の痒みは動物医療において、どんなワンちゃんにも起こりうるごくありふれた病気です。しかしながら、それが時に耳血腫の引き金となって、場合によっては外科手術を要するような予想外の一大事を引き起こす可能性があるのです。

ワンちゃんがしきりに耳を掻いているのを見つけたら、もしかしたら耳血腫の前触れかも?と、耳の中をちょっと観察してあげてください。。。耳が汚れている場合にはさらに次の段階へ悪化する前に、お近くの動物病院へぜひ相談してください。

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文責:あいむ動物病院西船橋 病院長 井田 龍

歯の伸び過ぎご注意~ハムスター編

「顔から何か棒みたいなものが出ているんですけど。。。」

という訴えで、若いハムスターさんが来院いたしました。

診察室内では、随分痩せて脱水しているように見えたハムスターさんでしたが、元気に動き回っています。確かに、飼い主さんがおっしゃるように一見すると棒のようなものが鼻の左側(オレンジ矢印)から出ています。しかし、動きが激しくてよく見えません。

なんですかね。これは。。。?

そこで、しっかりと押さえて診てみると。。。どうも門歯のようですが。

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さて口を開けて中を見てみると。。。えっ!?

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どうやら、上あごの門歯が伸びすぎて口の中で一周して、そのまま口の粘膜と皮膚を貫通して先端が鼻の左から飛び出しているようです。。。

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上の拡大写真のように、ハムスターの門歯は真っ直ぐに伸びていくのではなく、コイルのようにグルグル回りながら伸びてしまうのがお分かりになるかと思います。

このため、このケースでは外からは口はしっかり閉じられており、一見して歯が異常に伸びているようには見えませんでした。飼い主さんの観察では、なんとなく噛みにくく、食欲がないくらいの印象だったようです。

ハムスターさんはこうなると食事をうまく食べられないばかりか、さらには必要な水分さえ採れなくなってしまい、衰弱していきます。こういった原因での食欲低下は意外に多いのですが、外から見て門歯の伸び過ぎが分からないことが多く、病院に来て初めて指摘されるケースが多く見受けられます。

当日は歯をカットして、抗生物質の投与と点滴を行い、お帰り頂きましたが、その後数日で元気、食欲ともに元通りになったそうです。今回は門歯が皮膚から飛び出なければさらに発見は遅れたと思われますが、とりあえず一件落着です。

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上記の例はやや極端なものでしたので、下の写真に通常みられる過長歯の写真をご覧になっていただければ身近な問題としてご覧いただけるのではないかと思います。

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ご自宅のハムスターが食欲を失ったら、まず口を開けて歯のチェックをしてみてください。もしかしたらご自宅でも異常が見つかるかもしれません。。。

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文責:あいむ動物病院西船橋 病院長 井田 龍

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