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爪下の悪性メラノーマ

今回のテーマは「皮膚がんとしてのメラノーマ」に関して、以前に当院のコラムで取り上げたものの続編になるものです。以下のリンクをクリックしてご参照ください。

>>>「皮膚がんとしてのメラノーマ」

以前のテーマのをお読みでない方はそのまま下記をご参照ください。冒頭文章には重複している文章がございます。

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はじめに。。。

悪性黒色腫(メラノーマ、malignant melanomaはヒトでの苛烈な悪性腫瘍としてのイメージから、急性白血病と並びドラマ的な題材とされることの多い代表的腫瘍であり、誰しも一度は小説やメディアなどでその名前を聞いたことがあるのではないかと思います。

この腫瘍は人間だけではなく、もちろん犬にも存在します。診断上は悪性腫瘍の扱いを受けますが、その悪性度のパターンはヒトのものとはやや様相が異なります。

人間のそれでは、突然できた、もしくは大きくなってきた黒子(ホクロ)というものが悪性黒色腫を連想させますが、犬でも人と同様に皮膚、爪周囲、眼、口腔内(口の中)と発生する場所は多岐にわたり、いろいろなタイプの腫瘤を形成します。また、その悪性度は発生部位により大きく変化します。

では一般的に、「口腔内メラノーマは悪性」とか、「皮膚メラノーマは悪性の可能性はむしろ低い」というパターン認識が獣医師の間では比較的共有されています。ワンちゃんの皮膚メラノーマにおいては常に悪性ではなく、良性のことが多いということに驚かれる方も多いのではないでしょうか。

意外なことに犬では毛の生えている皮膚に発生するメラノーマの85%は良性であるとされています。人間のメラノーマのように悪性の挙動を示すようなものは急速に大きくなったり、腫瘤の表面が自壊して潰瘍となることも多く、大きさが直径2cmを超えることもあります。

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このような大きな腫瘤を形成した、皮膚がんとしてのメラノーマの1例が次の写真です。大きく隆起して大豆程度の腫瘤が5-6個くっついたようなカタマリを形成しており、長い方の直径は約4cmにもなっています。
皮膚メラノーマ良性のものが多いのですが、その中にはこういった極端に悪性度の高いものも含まるため、特にその診断治療には細心の注意が必要です。

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ところで、通常は良性のものが想定される皮膚メラノーマですが、そのパターンの当てはまらない例外の場所があります。そのひとつが爪下(爪床)から発生するメラノーマです。

爪下(爪床)のメラノーマは頻度こそ少ないものの、高頻度に悪性で、口の中にできる口腔内メラノーマ、皮膚がんとしての悪性皮膚メラノーマと並び、注意を要する悪性メラノーマのひとつです。

今回はその「爪下のメラノーマ」についての話題です。

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「前足のツメが折れて、指先が腫れて痛そうだ」、という訴えのお年寄りの小型犬が来院いたしました。

診察室では活発なワンちゃんでしたので、”痛そうだし、爪は折れているみたいだな”、という印象でしたが、なにやら患部の色調が変です。それに全く出血していません。。。
普通、「爪が根元から折れた」という訴えのわんちゃんには強い痛みと、なかなか止まらない出血を伴って来院することが多いものです。

よく見ると、爪は変形して周りの黒っぽいカタマリに囲まれてよく見えませんので、一見して折れてしまったように見えたのでしょう。爪ごと指をどこかに挟んで、内出血して腫れているのかなとも思いましたが、どうもケガの類とは違うようです。

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飼い主さんは、詳しい経過が分からないということでしたので、嫌がるワンちゃんには我慢していただき、針生検による細胞診を行いました。細胞診とは注射針で目的の組織をわずかに採取して行う簡便な検査法です。

細胞診の結果はメラニン顆粒を含む悪性度の高い腫瘍細胞が多数採取され、発生部位爪下であることから、この腫瘍が注意を要する悪性「爪下のメラノーマ」であると判断しました。同時に依頼した病理医による診断結果も同様の診断となりました。

悪性メラノーマは高い確率で周辺リンパ節をはじめとする他の臓器遠隔転移を生じやすく、発見時にはすでに肺転移していたということも充分にあり得る話です。手術は早期に腫瘍を体から隔離しなければなりませんが、こうした末端部の悪性腫瘍に対してはその手段として断脚術断指手術を選択します。
飼い主さんや、当事者のわんちゃんにとってはまさに「身を切らせて骨を断つ」、という選択となってしまいますが、脚の末端に発生した悪性腫瘍に対しては根治のためにこうした手術の提案が行われることはよくあることです。

手術腫瘍がある指の3関節目まで切断する断指手術を実施いたしました。爪下メラノーマに対しては断指手術は最低限必要です。断脚手術と比べると断指術は外観の違いは最小限ですし、患肢温存されますので、手術後にも以前と変わらない生活を送ることができるでしょう。

下の写真が、指の先から3関節目(末節骨、中節骨、基節骨)までを切除する、断指手術によって切除された病変部です。右上にの周囲を覆い隠すように黒い腫瘤が見えると思います。(画像処理はしていませんので、注意してご覧ください。)

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手術後の経過は順調で、患者さんは翌々日に退院することができました。その後は元通りの生活に戻ることができています。断脚手術ではこのような短期間の回復というわけにはいきません。元気なワンちゃんの姿を見ながら、できるだけ長期間無事に過ごしてくれることを祈るばかりです。

メラノーマ摘出後化学療法(抗がん剤治療)を行うことに関しては、人医療の分野も含めて不確実なところもあるのですが、今回は断指手術という手術方法なども考えて、抗がん剤カルボプラチンの投与を実施いたしました。また、長期間のメラノーマ再発抑制を期待して、メラノーマに対する効果の報告があがっている分子標的薬トセラニブ投薬を開始いたしました。

トセラニブに関しては次のリンクをご覧ください。

>>>「分子標的薬について」

爪下悪性メラノーマ遠隔転移による腫瘍死の可能性はおよそ半数近くに及びますが、このわんちゃんは手術後6か月を過ぎた時点で、幸いなことに再発もなく、肺をはじめとするその他臓器への転移は認められず、元気に生活してくれています。

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文責:あいむ動物病院西船橋 病院長
   井田 龍

犬のジスト”GIST"とは?

今回のコラムはジストと呼ばれる胃や腸などの消化管に発生するやや珍しい腫瘍のお話です。

この腫瘍、日本人では10万人に2人程発生する希少がんのひとつであるということですが、近年になって犬での発生が多く報告されるようになってきております。それは、病気が増えているというよりは、むしろ、今まで平滑筋肉腫神経鞘腫などという診断名をもらっていた腫瘍が実はジストに分類されるケースが増えているからです。

当然ですが、このジスト。。。人よりもまだまだ情報量が少ないものの、人のそれとは若干異なる性格を持つ腫瘍であることが分かりつつあります。ところで、ジスト(以下GIST)は日本語では消化管間質腫瘍と呼ばれ、英語表記では以下のように、

GIST:  Gastrointestinal Stromal Tumor というのが正式名称です。

人のGISTに関する情報として下記にリンクを張っておきますのでご参考になさって下さい。

がん情報サービス:http://ganjoho.jp/public/cancer/gist/

前置きが長くなりましたが、当院で、このGIST(消化管間質腫瘍)と診断し、外科的に摘出して、良好な経過を見たワンちゃんがおりましたので、このコラムで紹介させていただければと思います。

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”最近、なんとなく調子が悪く、食事を食べなくなってきて痩せてきました。よく嘔吐も見られます。”という訴えで、老齢のゴールデンレトリーバーが来院いたしました。診察室内で観察してみるとで確かに随分痩せて、毛づやも悪く脱水して、高齢であるということを加味しても見るからに何かありそうな状態です。

こういった場合には血液検査をはじめ、できるだけ細かい評価が必要になることが多いため、まず検査しましょう。ということになるのですが、身体検査の時点で既に異常が見つかりました。

お腹の中央部あたりで、指先に何やら固いカタマリのようなものが触れます。大きさは女性の握りこぶしくらいの腫瘤でしょうか。注意深く触診すると、つるっとスリップして腹腔内(お腹の中)を移動します。おそらく腸管、それも小腸腫瘤であろうことが予想されました。

詳しい全身評価のために血液検査レントゲン検査超音波検査を続けて実施いたします。消化管腫瘍が疑われるような場合、比較的長期間の栄養不良消化管内出血などが考えられ、血液検査での異常が見られることが多いものです。

血液検査ではやはり貧血と血液中の低たんぱく(低アルブミン血症)が見られました。どちらの異常も長期にわたる胃腸など消化器を原因とする慢性消耗性疾患に伴ってみられるもので、これから予想される開腹手術に際して、大きな障害、リスクとなり得る問題です。

お腹の中の腫瘍の診断とその評価には超音波検査が有効です。超音波検査機器の性能の向上により(パソコンの性能向上と同じレベルとお考えください)、腫瘍の発生元の臓器の特定やその周囲の臓器、リンパ節、血管分布、癒着などの評価を行い、手術計画まで立てることができます。

超音波検査の結果、腫瘤は小腸の筋肉の壁(筋層)に存在しておりましたが、既に筋層の大部分を置き換えて外側に大きく腫瘍化しており、同時に小腸内腔(小腸内容物の通り道)を圧迫していました。

貧血低アルブミン血症がその後数日でさらに進行したため、手術前に輸血を行った後、小腸腫瘤摘出を目的とする開腹手術を実施いたしました。

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下の写真は手術時のもので、小腸腫瘤を取り出しているところです。刺激的な写真のため、いつものようにやや色調を落としてありますが、注意してご覧になってください。

この腫瘤はまるでロールキャベツのように周囲に大網(胃の下方へエプロンのようにの全面に垂れ下がった腹膜のこと)、がかなり癒着しておりました。また、一部、穿孔(穴が開くこと)した跡が見られ、その部分に特に強い癒着があります。(右上やや赤い組織)

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下は、腫瘤を裏返したところですがここにも大網腸間膜との癒着があり、中央部に穿孔した跡らしい癒着が見られます。

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無事摘出した腫瘍のカタマリが下の写真です。腫瘤を形成して巨大化した小腸とその両端の正常な小腸をまとめて摘出します。その後、小腸の健康な部分を端々吻合(切り取った端どうしを縫い合わせて腸管をつなげること)を行い閉腹いたしました。写真で赤矢印で囲まれた腫瘤が左右の正常な小腸と連続しているのが分かります。

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次の写真は摘出した腫瘤を青線に沿って縦方向に半分に切断した写真です。黄色の線で囲まれたエリアが小腸内腔で、消化された食事の通る管になっています。写真中央部、乳白色の腫瘤本体によって圧迫され、左側、2/3が狭窄(狭く絞られること)しているのがよく分かります。

この写真をご覧になって、消化された食事が小腸を通過するのが困難なのが想像できますでしょうか?かなり苦しかったであろうことは想像に難くありません。

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摘出された腫瘤病理検査の結果、消化管間質細胞腫瘍(GIST)と診断されました。病理医には幸いなことに腫瘤完全摘出の判断を頂きました。

おおよそ一週間の入院を経て、このワンちゃんは無事に退院いたしました。術後しばらくは下痢嘔吐食欲不振に悩まされましたが、退院後には徐々に普段通りの生活を送ることができるまで回復いたしました。。。とりあえず一件落着です。

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人におけるGISTの概略は冒頭のリンクに挙げた通りですが、犬でのGISTはヒトのそれと若干異なるようです。まず、ヒトではでの発生が多いですが、犬では小腸での発生頻度が高い傾向があります。

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GISTは上の図のように、「がん」とは異なり、腫瘍消化管筋層に発生し、周囲への浸潤性増殖を示さないため、粘膜からの出血消化管閉塞をはじめとする症状を生じにくいのが特徴です。長期間経過して発見が遅れがちになるのは人のGISTと同じです。

犬のGISTは飼い主さんがその異常に気付いた時には既に、非常に大きな腫瘤として見つかることが多く、動物医療ではそれが「手遅れ」であるという判断により、外科手術がされないケースも残念ながら多いのが現状です。しかしながら、万難を排して手術を受けたワンちゃんはその「手遅れ」という判断に反して、完全切除できることが多いという特徴があります。現在のところ、犬でのGISTの治療の基本は最初の手術でできるだけ病変を取り去ることです。

GIST(消化管間質腫瘍)の原因とは?----------------------------------------------

胃腸などの消化管壁には筋層(筋肉の層)があって、それが伸縮することで食事を消化管内で運んでいきます。この筋層を構成する細胞の一部に、消化管運動ペースメーカーとなっている、カハ-ル介在細胞というものが存在します。

カハール介在細胞KIT(キット)と呼ばれる蛋白をその表面に持っており、正常なKIT蛋白は、細胞外からの「増殖せよという指令」を受けて、それを細胞に伝達するいわば「スイッチ」の働きをもっています。「増殖指令」がないのに増殖を促す刺激を続けてしまう異常によって、GISTの発生の引き金が引かれると考えられています。

つまり、GISTとは、このカハ-ル介在細胞遺伝子的な異常が起きて「スイッチ」が壊れ、その結果として無秩序に細胞が増殖し、制御できずに腫瘍化したものと考えられています。

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GISTはどう治療するか?----------------------------------------------

犬のGIST手術腫瘍を完全に取り除くことが必要です。

しかしながら、それが不完全な切除であったり、完全切除であっても、腫瘍悪性度によっては再発多臓器、リンパ節への転移を起こすことがあります。これは単純に悪性腫瘍転移する仕組みに加えて、「目に見えない微小な腫瘍が残存し、腫瘍の「増殖スイッチ」が入ったままになっている可能性があるからです。

こういった細胞表面などに存在するこのいろいろな「スイッチ」を何とか調節できないか?という研究から生まれた一連のグループの薬を、分子標的薬といいます。

現在、多種多様な分子標的薬が主に人のがん治療の分野で積極的に使われるようになっており、既存の治療のあり方を変えるほどの大きな影響を与えていることをご存知の方も多くいらっしゃるかもしれません。

近年、人の医療に続くように動物医療でも、このKIT蛋白の異常を起こす遺伝子(c-kit)の変異を検査することが商用の検査センターで可能になってきております。
動物医療で利用できるがん治療のための遺伝子検査分子標的薬の種類はヒトのものと比べるとまだ圧倒的に少ないものです。
この中でで多発する悪性腫瘍肥満細胞腫に対して、その遺伝子変異を調べ、ある種の分子標的薬が適応かどうかの遺伝子検査を一般の動物病院でも行う機会が多くなってきております。

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分子標的薬は犬の肥満細胞腫の治療を皮切りに、動物医療に広がりを見せてきています。
肥満細胞腫だけではなく、様々ながん腫瘍に対しての効果が段々と明らかとなってきており、本来の薬の効果効能外での使用ということにはなりますが、がん治療に幅広く使用されるようになってまいりました。

最近では米国ファイザー(現在はゾェティス)が発売した経口薬(飲み薬)の「トセラニブ(商品名パラディア)」が2014年度に国内で承認を受け、犬用として発売されるに至っております。(下写真)

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トセラニブや、それ以前に肥満細胞腫の治療に用いられてきた同じカテゴリーのイマチニブ(グリベック)マシチニブ(キナベット)(日本未発売)を総称して、チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)と呼びます。
これらの薬剤はいずれもKIT蛋白の異常による腫瘍「増殖スイッチ」を「OFF」にする作用を持つため、GISTに対しての効果も人と同様に期待されています。

なお、当コラムに使用させていただいた人におけるGISTの説明、イラストは。ノバルティスファーマ株式会社の「グリベックなび」より一部、引用させていただいております。

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文責:あいむ動物病院西船橋 病院長 井田 龍

犬の椎間板ヘルニア

今回のコラムのテーマは犬の「椎間板ヘルニア」についてです。

この「椎間板ヘルニア」はまるでダックスフント特有の病気かと勘違いをしてしまうほど、その発生は他の犬種と比較して群を抜いています。実際にダックスはなんらかの痛みを訴えた場合にはイコール「椎間板ヘルニア?」という「仮診断」をもらう機会が、動物病院においてかなり多いのではないでしょうか。そういったステレオタイプな連想は飼い主さんのイメージだけではなく、我々獣医師側にもみられるほど強いものです。

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余談ですが、「ヘルニア」という言葉はしばしば耳にする有名な?医学用語ですが、どうも言葉自体が独り歩きしているように思います。本来の意味ではなく、何か「背中に起きる痛いモノ」というイメージを持ってらっしゃる方が多いような印象です。もともと「ヘルニア」というのはラテン語で、「突出する」といった意味合いの用語です。つまり、何かが飛び出すことによって生じる病名には「~ヘルニア」という名前がつくことになります。

笑えない小話ですが、まだ飼い始めたばかりでワクチン接種に来たダックスフントに、「臍(さい)ヘルニアがありますね。」と飼い主さんに説明したところ、飼い主さんがびっくり憤慨して、”こんな若いのにヘルニアだなんて!全然痛くないのに嘘を言ってるんじゃないのか?”、と診察室の空気が一瞬凍り付いたことがあります。

おそらく飼い主さんはダックスフントに「ヘルニア」という大変な病気が多いということを知っていたのでしょうが、これはとんだヘルニア違いです。臍ヘルニアはへその緒が外れた後に腹膜が閉鎖せず、お腹の中の脂肪などが「飛び出た」もので、よくある緊急性の少ない異常ですが、このような飼い主さんとの認識のズレによる「ヘルニア違い」は程度の差こそあれよく経験するものです。。。

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ちょっと横道に逸れ過ぎましたので本題に戻ります。正常な椎間板は左下の図(※)のように椎骨(背骨)の骨と骨の間に存在し、中心にあるゼリー状の髄核と、この髄核を取り巻く線維輪で構成されており、背骨に加わる圧力を吸収するクッションの働きをしています。

(※)模式図はアニコム損害保険、「どうぶつ親子手帳」、「椎間板ヘルニア」から引用してあります。http://www.anicom-page.com/all_disease

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椎間板ヘルニアとは、この椎間板高齢や遺伝的な素因によって変性して髄核や繊維輪の一部が飛び出して、脊髄神経を圧迫したり、その際の出血や周囲の炎症のために激しい痛み痺れ、その神経の支配を受ける部位の知覚運動神経麻痺などの神経症状を生じる病気です。

首〜腰までのいずれの椎間板でも起こりえますが、約8割が胸部腰部椎間で発生します。特に、胸椎腰椎の中間付近(肋骨がなくなる辺りの椎間)で最も発生頻度が高くなります。犬種ではダックスフントでの発生が際立って多いのですが、その他、ペキニーズ、ビーグル、パグなどにもみられます。

ヘルニアというと痛いという連想が働きますが、代表的な症状としては様々な程度の歩行異常麻痺痛み排尿障害を生じます。

歩行異常は軽度のものから、知覚運動調節機能の喪失によって不全麻痺に至るまでの段階があります。軽度のものでは「段差を登れない」、「後肢のふらつきがある」、「ターンする時に後肢がよろめく」などの変化で異常に気づくかもしれません。重度のものでは起立不能に陥ります。

痛 みを示しているわんちゃんの表現方法は様々です。「ヘルニア」が起きた部位を、「触ろうとすると嫌がる」というのが分かりやすい症状ですが、「動きたがら ない」、「ふるえ」や、「筋肉の緊張」も痛みの症状のひとつです。どこを触ろうとしても鳴き叫んだり、抱き上げる際にどこかを痛がるような、いわゆる『抱 きキャン』といわれるような、痛みの部位がよく分からないことも多いものです。頸部の「ヘルニア」はその影響が四肢に渡り、より強い痛みを伴うことが多くみられます。

排尿障害は歩行異常によってトイレまで歩けなかったり、後肢が踏ん張れないために排尿姿勢が取れないなどの理由もありますが、尿意を意識せずに漏らしてしまう失禁尿が溜まっているにもかかわらず、排尿刺激が起こらず排尿困難をきたすものまで、様々な段階が見られます。特に排尿困難を伴い、痛覚を消失した不全麻痺はヘルニアの重症度緊急性が高いと判断されます。

椎間板ヘルニアを疑う患者さんが来院した場合には、その程度にもよりますが、レントゲン検査がまず最初に必要な検査となるでしょう。ところが、この検査では椎間板ヘルニア確定診断にはなりません。

それは「ヘルニア」はレントゲンに映り難く、診断精度が高くないためにその存在を疑うことはできても診断はできません。では、何でレントゲン検査をするの?と思われると思いますが、これは除外診断といって、同じような症状を起こす骨折脊椎炎腫瘍など椎間板ヘルニア以外の可能性はないかどうか確認するためのものです。

レントゲン検査の欠点を補う目的で、体の各部の刺激に対する反応を評価しながら系統的に行う、神経学的検査が実施されます。この検査で予想される神経的な異常部位とレントゲン検査の結果と合わせて病変の場所を予想します。

下の写真が椎間板ヘルニアのレントゲン写真です。黄色丸の中に「ヘルニア」があります。よく目を凝らしてご覧ください。

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いかがでしたでしょうか?何か見えましたでしょうか?実は何も見えていません。ところが、ここにはかなり重度の椎間板ヘルニアがあるということが分かりました。

椎間板ヘルニア確定診断外科治療を検討する際にかかせない検査MRICTです。これらの画像検査により、椎間板ヘルニアの診断と、その部位、脱出物の評価や脊髄神経にどのぐらいの障害を及ぼしているのかを正確に確認することができます。この検査によって正確な診断と適切な手術計画を立てることができます。

下の写真はのMRIでの椎間板ヘルニアの見え方の一例です。黄色丸の中にヘルニアを起こしている圧迫物質が「黒い影」として映っています。前後を走る白い棒状の脊髄神経を右下から重度に圧迫して、まるで押しつぶしているような画像が見られます。左写真がサジタル像(側面像)、右写真がコロナル像(水平の縦切り像)です。

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実は、上のMRIの画像は上に示したレントゲン写真と同じ患者さんの全く同じ部位を撮影したものです。どうでしょうか?MRIの特長がなんとなくお分かりになりましたでしょうか。。。

MRIではさらに、ヘルニアを起こしている部位の特定だけではなく、周囲の脊髄神経出血炎症の存在、腫瘍脊髄梗塞など、椎間板ヘルニア以外の病気の可能性を除外します。特にMRI神経を画像で評価する能力に優れており、炎症による障害の程度や椎間板ヘルニアに伴う致命的な脊髄軟化症の診断をすることができます。

では、椎間板ヘルニアの治療にはどういったものがあるでしょうか?

症状が軽く、レントゲン検査だけ、もしくは検査を行わずに「椎間板ヘルニア疑い」、という「仮診断」で、痛みや軽度の歩行異常がみられ、通院で治療が可能な場合にはまず内科的治療を実施します。こういった場合、プレドニゾロン等の副腎皮質ステロイド薬(炎症を抑え、神経の腫れを軽減させます)、や各種の非ステロイド系抗炎症薬を選択されます。

また、症状の程度により抗炎症作用を持つ薬剤と合わせて、痛みやそれによる緊張などを考慮して、ブプレノルフィンなどの中枢性鎮痛薬(脳内で痛みを遮断する薬)やジアゼパムなどの筋弛緩薬(痛みで緊張した筋肉を緩める薬)などを組み合わせて使用します。

痛みが慢性化したり、症状が繰り返し起こる患者さんには、いわゆる「神経障害性疼痛」を和らげる薬剤としてプレガバリントラマドールといった、慢性痛しびれを改善する薬剤を用いることもあります。補助薬としてビタミンB12を含む複合ビタミン剤を使用することもあります。

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急性経過のものでは不全麻痺の程度によっては入院による経過観察を行います。前述のステロイドをはじめとする抗炎症薬に加えて、炎症細胞による神経損傷を抑えて神経保護作用を持つシベレスタット(商品名エラスポール)を用いるケースがあります。特に症状が出て間もない場合に効果が高いとされている薬剤です。しかし、数日以内に改善が無い場合には早期の外科治療を考慮しなければなりません。

急性発症で最初から重症度が高いとか内科治療に反応しない場合、MRIなどの画像診断を経て椎間板ヘルニアを診断した後、できるだけ早期に手術を行います。手術の目的は脊髄神経の減圧(そこをカバーしている骨の除去)と原因となっている圧迫物質の除去です。これは背骨(椎弓椎体)を削り、脊髄を露出させて脊髄を圧迫している椎間板物質をできるだけ取り除くという結構大がかりな手術です。

手術方法にはいくつかの方法があり、最も多く行われるのが、背中側から圧迫物質を除去して減圧する片側椎弓切除術椎弓切除術頸部椎間板ヘルニアに対しては腹側(喉側)から行うベントラルスロット(腹側造窓術)が多用されます。いずれの方法も下の写真のように椎骨の一部に「窓」を形成して脊髄神経への圧迫を減圧して、飛び出した椎間板物質黄緑矢印)を除去するということを基本とします。

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下の写真は片側椎弓切除術(ヘミラミネクトミー)を実施した後の術中写真です。黄色矢印が、椎弓(背骨の一部)を切除して減圧された脊髄です。内部に見られる白い棒状のものが脊髄神経です。この写真では脊髄を圧迫していた物質は既に除去されております。

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下の写真が摘出された椎間板物質、3例です。固いものからゼリー状、液状までいろいろな形態をとります。色調も様々です。

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最近では手術後にはリハビリ針治療といった治療が付随して行われることが多くなってきました。動物病院によってはリハビリ用の施設を持つところも出てきています。。筋肉量の低下や関節拘縮などで運動能力が低下してしまうと治療後の治癒が遅れたり、障害が残ることもあり得ます。このため、手術後や長期治療が必要な場合、リハビリを含めて適切な管理をする必要があります。

椎間板ヘルニアの予防や再発防止は遺伝的素因を持つ犬種では難しい課題ですが、適切な体重の維持と過度な運動を避け、バリアフリーな環境を用意するなど生活環境の改善が必要かもしれません。日頃から適度な運動を行い筋力低下を防ぐ必要もあるでしょう。

文責:あいむ動物病院西船橋 太田 晶子、井田 龍

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