>>>ウサギの膀胱炎(下部尿路感染症)とは
膀胱と、その下流に続く尿道を「下部尿路」とよびます。この部位の細菌感染によって生じる膀胱炎や尿道炎などを引き起こす下部尿路感染症は大腸菌や緑膿菌が原因となることが多くみられます。
下部尿路は尿道口が肛門近くに開口していることもあって、常におびただしい細菌の侵入を受けています。健康であればこういった細菌を排除する効率的な仕組みが働くため、この部位に細菌感染症が生じることはほとんどありません。下部尿路感染症は何らかの原因で細菌の排除が妨げられることによって引き起こされます。
高カルシウム尿症や尿路結石症をはじめとして正常な尿路の機能に悪影響を与えたり、排尿を妨げる何らかの併発疾患や、肥満などからの運動不足、不衛生なトイレなど、生活習慣や環境にによって生じる不完全な尿の排泄が大きな要因となります。
>>>ウサギの膀胱炎の症状は?
軽度のものから排尿困難に至る排尿障害、頻尿、血尿、トイレ以外での不適切な排尿が典型的です。経過が長くなると陰部周囲の汚れや皮膚炎、尿やけなどが生じます。排尿時の不快感により元気、食欲の低下など一般状態の悪化がみられることもあります。
下部尿路疾患を悪化させる併発疾患として高カルシウム尿症や尿路結石症がある場合には排尿障害がより増悪して、排尿時の不快感はよりひどくなる傾向があります。血尿など下部尿路疾患の諸症状に伴って白色調の砂粒状~泥状尿」がみられることがあり、小さい結石が排泄されることもあります。
>>>ウサギの膀胱炎の診断は?
診察室での状態や身体検査や飼い主さんの訴えによって予想します。
レントゲン検査を行うことによって膀胱結石や尿道結石、高カルシウム尿症の存在を明らかにできますし、超音波検査では検査の際に膀胱から採尿することができますし、膀胱粘膜の評価を含む膀胱の評価や膀胱結石があればその数や位置関係、膀胱から尿道への影響を明らかにすることができます。
膀胱炎は多くが細菌感染による炎症であって、その起炎菌には抗生物質に対して特に耐性菌をとなり易い性質を持つ大腸菌や緑膿菌に対しての治療なる可能性があるため、細菌培養を行って、効果のある抗生物質を選択する薬剤感受性試験を行っておいた方がよいでしょう。
>>>ウサギの膀胱炎の治療は?
抗生物質は膀胱炎の起炎菌として可能性の高い大腸菌や緑膿菌に対しての効果が期待できるエンロフロキサシンなどのニューキノロン系のなどの抗生物質が第一選択薬として選択されます。
抗生物質に合わせて、炎症を抑えて膀胱炎の不快感を軽減するためにメロキシカムなどの非ステロイド系抗炎症薬やトラネキサム酸などを合わせて使用いたします。排尿痛が強いことが予想される場合にはさらにブプレノルフィンなどの中枢性の鎮痛薬が使用されることもあります。
抗菌剤や消炎剤など一般的な治療に反応しない場合や慢性再発性の膀胱炎に対しては、補助療法として高カルシウム尿症などで濃縮尿を薄めて希釈尿にして積極的に排泄させるために皮下輸液を行ったり、利尿効果を持つ漢方薬の猪苓湯(ちょれいとう)が有効なこともあります。
膀胱炎に併発して高カルシウム尿症がある場合には適切な鎮静剤を用いて、尿道カテーテルを用いて繰り返し膀胱洗浄を行い感染を増悪させる原因を積極的に排除することが必要です。
同様に難治性の下部尿路疾患に膀胱結石や尿道結石が関わっている場合には尿路閉塞のリスク低減や膀胱炎の長期的な管理、さらにウサギの「生活の質」を維持する上で膀胱結石を外科的に摘出する必要があるかもしれません。
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文責:あいむ動物病院西船橋 病院長 井田 龍