>>>エンセファリトゾーン症とは?
エンセファリトゾーン(Encephalitozoon cuniculi)と呼ばれる寄生虫(原虫)が引き起こす脳炎を特徴とする寄生虫病です。
エンセファリトゾーンは母親から胎盤感染で胎児に垂直感染を起こすほか、感染しているウサギが尿中に排泄する胞子を口から摂取することとで経口感染が成立します。体内に侵入した胞子は消化管から全身に広がり、脳や腎臓などに肉芽腫性(にくげしゅせい)の炎症を引き起こします。
ご参考までにkの「肉芽腫性炎症」というのは何らかの細菌や寄生虫、異物など、体の免疫仕組みによって排除ができない場合にその周囲を肉芽組織という「防壁」で隔離しつつ、生体を守ろうとする炎症反応のひとつです。
>>>エンセファリトゾーン症の症状とは?
ほとんどのウサギが無症状で経過しますが、他の病気や老化、ストレスをはじめとする免疫に及ぼす何らかの悪影響によってエンセファリトゾーンを抑え込むことができなかった場合に発症します。
症状は数時間から数日で生じる、肉芽腫性髄膜脳脊髄炎による運動失調、斜頸や眼振(眼球の振とう)などの神経症状が主症状で、重度の場合には歩行や立つことさえできなくなることも多く、重症度に伴って元気や食欲の低下や廃絶がみられます。
急性期を経過した後にも歩行不能や起立困難が長引いた場合には、筋肉量の著しい低下や関節の「こわばり」や拘縮(こうしゅく)、さらに骨や関節の変形などを生じます。また、挫創(床ずれ)や排せつ物による皮膚炎などが長期にわたって継続し、飼育管理上の大きな問題となります。
母親からの胎盤感染の場合には若齢期に水晶体破砕性のブドウ膜炎をはじめとするさまざまな眼疾患が引き起こされれます。
>>>エンセファリトゾーン症の診断は?
エンセファリトゾーン症の診断は、診察室内でみられる臨床症状から行われることがほとんどです。血清学的検査として血液中のエンセファリトゾーン抗体価を測定することができるため、その陽性反応は診断のサポートにはなり得ますが、神経症状がエンセファリトゾーンによるものかどうかは脳などの病理組織学的診断が必要なため生前診断は難しいのが現実です。
脳炎の存在をMRI検査によって診断できることもありますが、犬猫の医療環境とは若干異なり、まだそれほど一般的な検査法ではありません。
>>>エンセファリトゾーン症の治療は?
エンセファリトゾーン症が疑われる場合には、フェンベンダゾールなどのベンズイミダゾール系駆虫薬などの投与、肉芽腫性脳炎を抑制するためのデキサメサゾンなどの副腎皮質ステロイド製剤、細菌性髄膜脳炎、中耳炎等による末梢性前庭疾患なども考慮したエンロフロキサシンなどのキノロン系抗菌剤やテトラサイクリン系抗生物質の使用が一般的に行われます。
起立困難により繰り返す転倒、体を軸にする絶え間ないローリングにより、排せつ物にまみれたり、眼や爪の損傷、挫創(床ずれ)はじめとした外傷を起こしやすいため、こういった外傷を極力少なくする配慮や体表面の排せつ物などの汚れに対する配慮が必要があるでしょう。
起立困難や絶え間ないローリングにより、水を飲んだりや食事を採ることが不可能な場合も多く、栄養失調を回避するために食事の介助や強制給餌、脱水を防ぐための輸液療法をはじめとする支持療法を積極的に行い、さらなる衰弱を防止します。
若齢期に見られる水晶体破砕性ブドウ膜炎には点眼をはじめとする副腎皮質ステロイド製剤を用い、通常のブドウ膜炎に対する治療に準じて行います。
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文責:あいむ動物病院西船橋 病院長 井田 龍