>>>ウサギのスナッフルとは?
ウサギにおける「スナッフル」とは、鼻腔から発生する細菌性の鼻炎さらに副鼻腔炎、その他に目、気管、肺、耳道へと波及する細菌による感染症を症状的に表現した用語です。このため、スナッフルは鼻炎というよりむしろ、鼻腔を中心として広がる一連の症候群としてとらえなければならない感染症です。
起炎菌(原因となる細菌)にはウサギの気道の常在菌であるパスツレラ、その他に黄色ブドウ球菌、ボルデテラ、緑膿菌など、様々な種類の細菌が関与します。これらの細菌は保菌していても無症状なこともあり、その発症にはウサギ個体の免疫力やストレスをはじめとする環境要因、併発疾患が大きく関係し、その経過をも大きく左右すると考えられます。
併発疾患としては歯根膿瘍など歯科疾患からの最近感染症の鼻腔への波及や、牧草のかけらなど異物の侵入や外傷、腫瘍などの鼻腔への影響などもあり得ます。原因の除去や緩和ができない場合、完治は難しく重篤度も高くなります。
>>>ウサギのスナッフルの症状とは?
「くしゃみ」や 鼻汁が典型的な症状です。鼻汁に伴い、鼻腔が閉塞することによる特徴的な呼吸音がみられます。鼻汁は粘液性、膿性で排せつが難しく「くしゃみ」を頻繁に起こします。鼻汁に伴い鼻孔周囲が汚れ、それを頻繁にぬぐおうとする結果、前脚が鼻汁で汚れ、乾いた鼻汁が付着して毛づくろいによって縮れたり、皮膚炎をおこしたりします。
鼻汁と頻発する「くしゃみ」、による呼吸障害や嗅覚の問題を生じます。こうしたことから充分な食餌量をとることができず、衰弱することがあります。
鼻腔からの眼に波及がみられた場合には、眼脂(目やに)や流涙がしばしば生じます。
気管支、肺へ波及した場合には気管支炎や肺炎を生じ、呼吸困難を生じる可能性もあります。耳道に達したものは耳の不快感に留まらず、斜頸(しゃけい:平衡感覚を失い首が傾いたままになること)がみられることもあります。
>>>ウサギのスナッフルの診断は?
経過や症状、診察室内での身体検査から「ウサギのスナッフル」の症状に合致すれば診断とします。同時に、鼻腔以外の目や耳、気管支や肺など下部呼吸器への波及がないかどうかを評価します。また、鼻炎症状に伴って食事量に問題が出ているケースも多いため、栄養状態や脱水の評価も重要です。
ウサギは鼻呼吸をする動物で、胸腔(肺や心臓を容れる胸部の空間)が狭いために呼吸器の余力が充分ではありません。ウサギの呼吸困難は一見正常に見えても即、生命の危機に直結する可能性がありますので、呼吸器を精査するために胸部レントゲン検査が必要な場合も多くみられます。
>>>ウサギのスナッフルの治療は?
スナッフルは鼻炎に留まらず広範囲に拡大した「呼吸器症候群」としての対処が症状の如何を問わず不可欠です。まず鼻腔に感染を起こしている起炎菌に効果が期待できる広域スペクトラム(広い範囲の細菌に効果が期待できる)の抗生物質の全身投与を行いますが、可能であれば鼻汁や病変部位からサンプルを採取して細菌培養を行い、抗生物質の薬剤感受性試験を実施します。
また、元気や食欲、食事量など、一般的な状態に問題のあるウサギには点滴療法や食事の介助、食欲や胃腸運動の低下を防いで衰弱を防止しながら治療を行うことが何より重要です。
スナッフルの原因疾患となる歯科疾患をはじめとする口腔内や鼻腔内の異常はその後の経過に大きく影響を与えます。また同時に、目や耳や呼吸器にみられる合併症のコントロールはスナッフルの治療を成功に導く上でとても重要です。
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文責:あいむ動物病院西船橋 病院長 井田 龍