陰睾丸・停留睾丸(精巣)

>>>猫の陰睾丸(停留睾丸)について

精巣はもともと雌の卵巣と同じ起源を持つ組織です。猫では胎児のうちに精巣男性ホルモンの影響で陰嚢を目指して卵巣の位置から下降をはじめて陰嚢内へと移動します。生後1~2か月以上たって片方もしくは両側の睾丸がみられない場合には陰睾丸であるとか停留睾丸(精巣)と診断されます。

精巣の下降がストップしてしまった部位がお腹の中であれば腹腔内陰睾(こう)、お腹から出て鼠径部(そけい)の皮下まで移動したものであれば皮下陰睾(こう)とよばれます。犬では陰睾丸の原因は遺伝性と考えられますが、猫での陰睾丸の発生率は犬と比べて非常に少なく、遺伝的な関与は疑われますが詳細はよく分かっていません。

陰嚢に下降していない精巣は正常な機能が期待できません。本来、睾丸陰嚢の中でなければ正常に機能できません。これは陰睾丸の存在する場所が陰嚢よりも体温が高いためで、精子の生成機能の面では明らかに劣ります。機能低下は皮下陰睾よりも周囲の体温の高い腹腔内陰睾ではより顕著です。ただし、高体温下でも男性ホルモンは分泌されますので性欲は通常は正常に見られます。

猫でも犬と同様に下降していない精巣は正常なものと比べて腫瘍の発生が高くなると考えられます。正常な精巣での精巣腫瘍の発生率は猫での高い去勢手術の実施率によって見かけ上はその発生率が極めて低いものです。しかしながら、何らかの理由で中高齢期まで摘出されない停留睾丸腫瘍が発生した場合にはその発見と治療は遅れがちになるため、猫では寿命に影響する大きなリスクとなり得ます。

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精巣腫瘍生殖細胞腫瘍である精上皮腫(セミノーマ)生殖細胞を支持する組織性索性腺間質)の腫瘍であるセルトリー細胞腫間質細胞腫(ライディッヒ細胞腫)の3種類が知られています。

猫での停留精巣の発生は少なく、その結果として中高齢以降にみられる精巣腫瘍はいずれの精巣腫瘍もかなり稀ですが、不幸に精巣腫瘍が発生した場合、特にお腹の中の陰睾丸の場合にはかなり大きくなるか、何らかの症状が出ない限りは見つかることはないでしょう。発見時には既に転移していたリ、過剰な性ホルモンによる肝臓骨髄などに問題を起こしていることがあるため注意が必要です。

 

>>>猫の陰睾丸(停留睾丸)の診断は?

猫の陰睾丸のほとんどは若齢時の結構診断で片方もしくは両方の睾丸が正常に陰嚢内にないことから発見されます。猫は鼠径部脂肪が厚く、陰睾丸も小さいため、鼠径部皮下陰睾であっても触診で容易には診断ができません。このため、正常に陰嚢内に見つからない陰睾丸がどこにあるのかの判断が難しく、確定診断のためには超音波検査が必須になります。

超音波検査を実施して、発見しにくい鼠径部皮下の陰睾丸、または腹腔内陰睾丸診断してその位置を確認することができます。陰睾丸のある位置は必ずしも一定しませんので超音波検査によりその位置や大きさを事前に把握しておくことは手術時間の短縮につながります。

下の写真は猫の片側性の停留睾丸手術時の写真です。黄色丸で囲んだ陰嚢内の正常な位置に睾丸が入っていないのがお分かりかと思います。もう一方の陰睾丸はお腹の中にありました。

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>>>猫の陰睾丸(停留睾丸)の治療は?

若いうちにもしくは少なくとも腫瘍が発生しやすくなる中高齢期までに片側であれば去勢手術と同時にお腹の中や皮膚の下にある陰睾丸摘出手術を行う必要があります。

左下の写真は、鼠径部(そけいぶ)皮下の深い部分から、陰睾丸を摘出しているところです。(黄色矢印先)
手術方法片側陰睾丸であれば健康側の去勢手術に加えて、こういった鼠径部の深い部位からの摘出や腹腔内からの摘出を行わなければなりません。右下写真が摘出後睾丸です。黄色丸で囲んだ側が陰睾丸で、健康なものよりも小さくなっているのがお分かりになるかと思います。

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文責:あいむ動物病院西船橋 病院長 井田 龍

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