>>>犬の脂肪腫とは?
脂肪腫は脂肪組織をかたちづくる脂肪細胞の良性腫瘍です。中高齢の犬で多くみられ、メスでの発生率がオスの2倍程度というパターンを示します。あらゆる犬種に発生しますが、国内での飼育頭数の多いラブラドール・レトリーバーで若干多くみられる傾向があります。
脂肪細胞を原因とする腫瘍は大部分を占める良性の脂肪腫の他に、周囲に腫瘍が浸潤しながら増殖する浸潤性脂肪腫、頻度は低いものの悪性度の高い脂肪肉腫などが存在しますが、今回は良性の脂肪腫に関してご説明します。
脂肪腫をはじめとする脂肪細胞の腫瘍は体のあらゆる部位に発生しますが、脂肪腫は胸部、腹部、四肢、腋窩(脇の下)の皮下によくみられます。皮下組織での発生が主ですが、筋肉内や「体の深い部分」、時には体腔内にできることもあります。脂肪腫の外見は薄い被膜に包まれた滑らかな表面を持ち、柔軟性に富む下写真のような「脂肪の塊」のように見える形状をしています。
よくみられる脂肪腫は周囲に薄い被膜を形成して境界を保ちながら周囲を圧迫しつつ、ゆっくりとその大きさを増していきます。その大きさはさまざまで1cm前後から「握りこぶし」程度、さらに大きなものでは「子供の頭」程度に達するものもあります。
>>>犬の脂肪腫の症状は?
脂肪腫は周囲を圧迫しながら大きくなりますが、体表面に近い場所にできることが多く、また非常にゆっくりと大きくなるため、そのほとんどが無症状ですが、筋肉内や「体の深部」にできた脂肪腫ではその圧迫による不快感や痛みを生じる可能性があります。
体表面の脂肪腫でも、極端に大きくなったものはその大きさと重さによって生活上の大きな問題となることもあり、特に腋窩(脇の下)に発生した大きな脂肪腫は前肢の動きを邪魔するために運動性の低下が起こることがあります。(下写真)
同様に、鼠径部(内股)の皮下に発生した大きな脂肪腫を下に示します。この脂肪腫は「犬座り」したときに陰部にかぶさるように移動するためかなり煩わしいということと、排尿時に尿が付着して不衛生となって皮膚病を起こしやすくなっていました。
また、頻度は少ないですが脂肪腫が体腔内に発生した場合にはその周辺の内臓や神経や筋肉などを圧迫するため、痛みや不快感、臓器の機能障害が起こる可能性があります。
>>>犬の脂肪腫の診断は?
脂肪腫の疑いを持つことは身体検査で容易に行うことができますが、診断のためには細胞診が必要です。
細い針を用いて脂肪腫と予想される腫瘤から脂肪が吸引されたり、それを顕微鏡で観察してたくさんの脂肪滴がみられた場合にそれと診断いたします。脂肪腫をかたちづくる組織はそのほとんどが蓄積された大量の脂肪により成り立ってており細胞成分に乏しいため、脂肪細胞を観察することができないことがしばしばです。つまり、細胞診のみでは注意を要する浸潤性脂肪腫との区別が難しいという問題があります。
〇浸潤性脂肪腫とは?
浸潤性脂肪腫は腫瘍の善悪の分類上はよくある脂肪腫と同様に良性腫瘍ですが、その増殖の仕方に特徴があります。それは通常の脂肪腫のように周りの組織との間に被膜をつくって増殖するのではなく、周囲に沁み込み侵入しながら浸潤増殖するため、通常の脂肪腫のような摘出方法では取りきることができないためです。
つまり、浸潤性脂肪腫は例えば四肢に発生して、充分な切除ができないと判断される場合には断脚術(足の切断術)や手術後の放射線療法まで視野に入れなければならない過酷なものです。
つまり、浸潤性脂肪腫は転移を起こすような悪性腫瘍ではありませんが、浸潤性に増殖するという特徴から治療の上では常に悪性腫瘍として対処する必要があります。つまり最初の手術で浸潤性脂肪腫を取りきれない場合には再発して根治が難しくなる可能性があります。
>>>犬の脂肪腫の治療は?
脂肪腫が体の機能や運動性を低下させているような場合には手術による摘出を考慮します。脂肪腫の塊が大きくなって周囲を圧迫したり、何らかの生活上の障害となる場合や飼い主さんにとって脂肪腫の存在が外見だけでなく管理上も含めて非常に煩わしい場合には外科手術による切除の対象となります。その他、胸腔内や腹腔内で大きくなったものや、骨盤腔内に発生したものも手術により摘出いたします。
下の4枚の写真は腋窩(脇の下)にできた脂肪腫摘出の際の画像です。この脂肪腫はワンちゃんが患肢の動きに違和感を訴えていたものです。上二枚と左下が手術前後の様子、右下が摘出した脂肪腫です。(刺激的な画像は調整して彩度を落としています。)
脂肪組織が関係する腫瘤性疾患についてやや専門的にはなりますが詳しく紹介したサイト(有限会社パソラボ、パソラボ通信)がありますのでご興味がおありの方は下記をご覧ください。
ー> 脂肪組織の腫瘤性疾患について その1
ー> 脂肪組織の腫瘤性疾患について その2
ー> 脂肪組織の腫瘤性疾患について その3
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文責:あいむ動物病院西船橋 病院長 井田 龍