>>>犬の子宮水腫・子宮粘液症とは?
子宮水腫(水症)、子宮粘液症とはそれぞれ無菌性のさらさらした体液のような漿液やより粘度の高い液体が溜まって子宮が拡張した状態を表します。子宮水腫と子宮粘液症の違いは貯留液に含まれる粘りの元となるムチンという物質の量の違い程度であって、ほぼ同じものであろうと考えられています。
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ムチンとは糖タンパクと呼ばれる蛋白質の一種で、あらゆる粘膜から分泌される粘液の主成分です。ムチンを含む粘液は粘膜を乾燥や摩擦から守り、病原体の感染を防ぐなど、粘膜の機能を維持する上で重要な役割を持っています。
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こういった無害性の液体の貯留はしばしばみられ、不妊手術を行っていない雌犬の一割超で発生するようです。また、中高齢以降の子供を出産したことのない雌の小型犬での発生が多いとされています。さらさらした漿液を貯留する子宮水腫がほとんどを占め、ムチンの多い子宮粘液症はあまりみられません。
子宮水腫・子宮粘液症と似たような疾患で、同じように子宮内に貯留液(膿)を蓄積する致死的な疾患として子宮蓄膿症があります。子宮蓄膿症は黄体期での黄体ホルモン(プロジェステロン)の影響によって生じますが、子宮水腫・子宮粘液症は黄体期を含めたすべての発情ステージで生じるため、発症要因としてのプロジェステロンをはじめとする性ホルモンの関わりは不明です。
>>>子宮水腫・子宮粘液症の症状は?
子宮水腫の犬のほとんどは無症状に経過します。子宮内に大量の液体が溜まり、腹部が膨満することで生じる外見の変化、運動性の低下や腹部膨満に伴う不快感などの諸症状がみられることがありますが、この病気のほとんどは健康診断や別の病気を疑って偶然に超音波検査で発見されます。また、健康な犬での不妊手術(卵巣子宮摘出)の際に子宮水腫が発見されることもあります。
>>>子宮水腫・子宮粘液症の診断は?
なんらかの病歴や症状がなく、超音波検査により、子宮内に無エコー性の貯留液による子宮の拡張があればまず、子宮水腫を疑います。
ところで、子宮水腫はこの疾患を迅速かつ確実に診断するという意味においての重要性はあまり高くありません。この病気を確実に診断する重要性は超音波検査やレントゲン検査などで区別の難しい、より緊急度が高く致死的な子宮蓄膿症を確実に診断ないしは除外するというところにあります。
つまり、子宮水腫は、はっきりとした病歴や症状がなく、レントゲン検査や超音波検査で偶然みつかった子宮蓄膿症との区別が難しいことがあるということです。
こうした場合には血液検査を実施して白血球数と同時に白血球(好中球、リンパ球、好酸球、単球などが含まれます)を検査して好中球に強い炎症の証拠があるかどうかを評価します。また、CRP等の炎症マーカーの測定を行い、炎症性の所見の有無から子宮蓄膿症かどうかを精査する必要があります。通常、子宮水腫では血液検査においてなんらかの異常を起こすことはありません。
あまり実施されることはありませんが、判断が難しい場合にはさらに血液中の黄体ホルモン(プロジェステロン)濃度の測定を行い、その値が低ければ子宮水腫、高値であれば子宮蓄膿症の可能性が高まります。ただし、黄体期には子宮水腫、子宮蓄膿症どちらも発生する可能性があり、それらを区別することはできませんので、その他の検査と合わせて総合的に判断いたします。
>>>子宮水腫・子宮粘液症の治療は?
子宮水腫・子宮粘液症の治療に際して有効な薬物治療はありません。子宮内にあまり液体が溜まっていない場合にはこれといった症状もなく、子宮蓄膿症のように短期間に致死的な経過をとる危険性も低いため、定期的な超音波検査を行い経過観察を行うこともあります。
子宮水腫は卵巣子宮摘出術によって治癒いたしますので、将来的に子宮内の液体貯留が進行してしまう前に、また、その他の新たな子宮疾患の発生を予防するために外科的な治療が推奨されます。
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文責:あいむ動物病院西船橋 獣医師 井田 龍