>>>ウサギのイエダニ症とは?
ウサギに寄生する皮膚外部寄生虫としてのダニにはツメダニ、ウサギミミダニ、ウサギズツキダニ、マダニ、ヒゼンダニ類などが知られていますが、ウサギにはこうしたダニ以外に中気門類(中気門亜目)のダニによる感染が稀にみられます。ウサギに感染して、病害性を生じる可能性のある中気門類のダニとして、イエダニをはじめとしてさらに頻度の少ないと思われる、鳥類に感染するワクモ、トリサシダニなどが知られています。
中気門類のダニ類はその大きさが0.3~2mmに満たない程度の大きさで、家屋や動植物上、地面(土壌中)などで自由生活をする他、さまざまな動物に寄生して病害性を生じるものなど多種多様な種類を含みます。
このうちイエダニ(Ornithonyssus bacoti)は「長い卵型」で吸血性であり、通常は褐色調の乳白色ですが、吸血したものは赤色、「あずき色~暗赤色」です。特にネズミ類に寄生しますが、ネズミが出入りする環境や大量発生した場合などにはネズミから離れて、人間や他の哺乳類で吸血被害を引き起こします。人間で生じる病害は、「イエダニ刺傷」として知られています。人間のイエダニ症の情報は以下のサイトをご覧ください。
ー>「イエダニ刺傷」、健康情報サイト、大日本住友製薬株式会社
本記事で「イエダニ症」としている原因の中気門類のダニの種別は、吸血性であるということと、その形態上の特徴からイエダニと推定しております。当院での診断にはバイエル薬品株式会社、動物医薬品事業部、学術担当部署のご協力を頂いております。
ー>バイエル薬品株式会社 動物用薬品事業部
>>>ウサギのイエダニ症の症状は?
中気門類のダニ刺傷ではそれによる痒みなどの不快感が考えられますが、大量寄生の場合には小さなウサギでは貧血やそれに伴う全身症状を生じる可能性もあります。下の写真のダニが採取されたウサギの体の表面には大量のイエダニがみられました。また、ダニの感染との因果関係は不明ですが症状は元気食欲がなく、強い脱水があり腎不全を併発しておりました。
下の写真は採取した大量寄生のダニの一部です。それらの多くが吸血しており、包血していました。
>>>ウサギのイエダニ症の診断は?
下の写真がウサギの体表面でのイエダニです。右上のボールペンのペン先の黒っぽい粒が吸血した虫体です。少々見えにくいですが、その左上10時方向に吸血していない小さいイエダニが見えます。中気門類のダニは1ミリ前後と、肉眼でその形態を確認確認することは困難ですので、その分類と診断は顕微鏡検査で行います。
下の2枚の写真はウサギの体表から採取したイエダニと診断されたダニの顕微鏡写真です。イエダニは通常は褐色調の乳白色ですが、吸血をすると赤色調となります。写真では血液が充満したダニの腹部が明瞭に観察できます。左が吸血をして消化管に血液が充満している包血成ダニと思われる写真、右が包血若ダニと思われる個体です。
>>>ウサギのイエダニ症の治療と予防は?
イベルメクチンの注射や経口投与、滴下型のセラメクチン(レボリューション、ゾエティス)での駆虫や、さまざまなピレスロイド製剤での殺虫・忌避効果が期待できます。また、可能であれば全身のシャンプーを頻繁に行うことにより体に付着している虫体を大幅に減らすことができます。
予防は屋内に侵入するネズミ類の防除や、屋外飼育であればウサギを屋内生活にさせるなど、感染源と考えられるネズミ類との接触を断つことが重要です。また、使用しているケージやトイレ、敷物などの身の回りの環境の消毒、清浄化と周囲環境へのピレスロイド系薬剤やその配合剤などのスプレー剤や噴霧剤等の使用は一定の効果があるのではないでしょうか。
最後に、イエダニはウサギと生活する飼い主さんに対してもイエダニ刺傷を引き起こすため、ネズミ類が保有する、未知なものを含めた様々な病原体による重大な人獣共通感染症の感染源となる可能性があり、そこには潜在的な脅威が存在します。ダニによる人間への健康被害はイエダニに限らずあらゆる種類のダニで生じる可能性がありますので、こうした事例が発生した場合には充分な注意が必要と思われます。
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文責:あいむ動物病院西船橋 獣医師 井田 龍