>>>皮膚にできるリンパ腫とは?
リンパ球とはウィルスなどの病原体や腫瘍などの異物を攻撃する白血球の仲間です。リンパ球は過去に体内に侵入した病原体などの異物の情報を記憶して、再びそれが侵入したときにその記憶により素早く排除する能力を持っています。
これが免疫反応といわれるものですが、リンパ球系細胞にはB細胞、T細胞、NK細胞(ナチュラルキラー細胞)などがあり、これらが互いに協力することで体を感染や腫瘍から守っています。
これが免疫反応といわれるものですが、リンパ球系細胞にはB細胞、T細胞、NK細胞(ナチュラルキラー細胞)などがあり、これらが互いに協力することで体を感染や腫瘍から守っています。
リンパ腫とは、リンパ球系細胞に由来する悪性腫瘍です。動物におけるリンパ腫の分類法はさまざまですが、腫瘍の発生部位によって多中心型、前縦隔型(胸腺型)、消化器型、皮膚型、白血病型、その他の孤立型(眼、腎、中枢神経などを侵すもの)に分けられています。
その中でも皮膚リンパ腫は犬猫ともに稀な疾患であり、他のリンパ腫に比べると遭遇する機会は多くありません。
>>>皮膚リンパ腫の分類は?
動物の皮膚リンパ腫は、病理組織学的にみた腫瘍性リンパ球の増殖のしかたの違いから「上皮向性(じょうひこうせい)」と「非上皮向性」に大別されます。前者は上皮という分類をされる表皮、毛包上皮、腺上皮の内部での増殖を特徴としますが、進行すると真皮や他の組織にも浸潤していきます。後者は真皮やその下にある皮下組織での増殖を主とし、表皮などにはあまり浸潤しません。
皮膚リンパ腫の大部分は上皮向性リンパ腫であり、猫では稀な疾患ですが犬では比較的よく遭遇します。以下は皮膚リンパ腫で典型的な上皮向性リンパ腫について述べていきます。
>>>上皮向性リンパ腫の進行は?
他の部位に発生するリンパ腫に比べて緩やかなことが多くみられます。初期症状は他の皮膚炎と区別が難しいため皮膚リンパ腫を疑いにくいため診断が遅れてしまう傾向があります。そのため、皮膚リンパ腫であると確定診断される頃にはすでに進行してしまっていることが多く、診断後の進行は速い可能性があります。
他の部位に発生するリンパ腫に選択される、抗がん剤、放射線療法などあらゆる内科的治療に対して反応が乏しく、診断後の経過は数か月から長くて2年程度といわれています。
他の部位に発生するリンパ腫に選択される、抗がん剤、放射線療法などあらゆる内科的治療に対して反応が乏しく、診断後の経過は数か月から長くて2年程度といわれています。
下の写真は犬の上皮向性リンパ腫の下腹部の写真です。広範囲に皮膚のびらんや潰瘍がみられており、一見して重度の皮膚病のように見えます。
>>>上皮向性リンパ腫の症状は?
初期には皮膚の赤身(紅斑、こうはん)、鱗屑(りんせつ、フケのこと)、脱毛など皮膚疾患でよくみられるような症状があります。また、黒い鼻が脱色するなどの色素脱失が起こることも見られます。上皮向性リンパ腫の好発部位として粘膜や粘膜と皮膚の境界(皮膚粘膜移行部)が含まれますが、そこに色素脱失が認められることがあります。この場合、他の色素のある部分(眼周囲、口唇、肛門周囲、肉球など)にも症状がみられるようになります。
例えば、下は典型的な色素脱出の写真ですが、最初は黒かった犬の鼻(鼻鏡)がだんだん色素が抜けてピンク色になっていきます。
例えば、下は典型的な色素脱出の写真ですが、最初は黒かった犬の鼻(鼻鏡)がだんだん色素が抜けてピンク色になっていきます。
病状が進行すると、より明瞭な局面(※)や結節性の病変を形成していくことが多いため、腫瘍性病変であることが初期よりもわかりやすくなります。
犬の上皮向性リンパ腫では体幹、四肢、頭部などに発症しやすいですが、猫では顔面での発症が多く、口腔粘膜などの発生は少ないと言われています。また痒みの程度は様々で、ほとんどないものから非常に痒がる場合など多岐にわたります。
皮膚の変化以外に患者さんにみられる症状としては、元気や食欲の低下、「体の表面にあるリンパ節が腫れる」、発熱などがあります。
※局面(きょくめん)とは?
皮膚から平らに盛り上がった小さな隆起(丘疹)の集合体で、直径が約1㎝以上の皮膚病変を「局面」と言います。
皮膚から平らに盛り上がった小さな隆起(丘疹)の集合体で、直径が約1㎝以上の皮膚病変を「局面」と言います。
>>>上皮向性リンパ腫の診断は?
上皮向性リンパ腫は、患者さんにみられるさまざまな症状と皮膚生検の病理組織学的検査により確定診断されます。病理検査では上皮内で増殖する異型リンパ球などの存在が確認されます。しかしながら、病期が早すぎる時期には特徴的な病理所見に乏しい場合もあるため、こうした場合には時期をずらして複数回の皮膚生検を行う必要があるかもしれません。
>>>上皮向性リンパ腫の治療は?
残念ながら、上皮向性リンパ腫に対する効果的な治療方法は確立されていません。副腎皮質ステロイドホルモン製剤や一部の抗がん剤、インターフェロン製剤などが一定期間の効果を示す場合もありますが、治癒は無論のこと寛解(かんかい)を期待する治療には常に困難が伴います。ある種の抗がん剤と角化症に対する治療薬の組み合わせが有効であるとの報告もありますが確固たる治療法はありません。
皮膚リンパ腫の発生部位が限られている孤立性病変の場合は、外科手術による摘出が効果的とされています。
皮膚リンパ腫はあらゆる内科的、外科的治療への反応が充分でない場合が多く、数か月から2年の経過で進行すると考えられています。無治療の場合は約6か月程度と言われています。
皮膚リンパ腫の発生部位が限られている孤立性病変の場合は、外科手術による摘出が効果的とされています。
皮膚リンパ腫はあらゆる内科的、外科的治療への反応が充分でない場合が多く、数か月から2年の経過で進行すると考えられています。無治療の場合は約6か月程度と言われています。
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文責: あいむ動物病院西船橋 宮田 知花