マイクロチップ登録義務について
ニュースなどで既にご存知の方も多いかと思いますが、いわゆる改正動物愛護法(正式には動物の愛護及び管理に関する法律)によって、飼育動物(犬・猫)へのマイクロチップ(以下MC)の装着が義務(努力義務も含む)となりました。
MCに係る法律は、このMCの義務化をはじめとする様々な施策により動物愛護の向上を図る目的で2019年に国会で改正されたものです。
本年度(2022年)はその改正動物愛護法の猶予期間(3年)が終わり、施行の締めくくりとなるマイクロチップ(MC)の装着義務化が始まる年度です。
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法律の施行に伴い、令和4年6月1日よりブリーダーやペットショップ等の生体販売業者には犬・猫へのMCの「装着義務」と「登録義務」、購入した飼い主さんに対しては譲渡に伴いMC上の「情報変更登録」などが義務化されます。
なお、MCの登録事項の変更に際しては「登録証明書」※が必須となります。
譲渡の際の登録証明書をやりとりする仕組みこそが、今回のMCの義務化のキーとなる方法であり、ブリーダーなどは販売業者に、販売業者は必ず新しい飼い主さんに”証明書の譲渡”を行う義務があります。
証明書が作られ、所有者が移動する先に順番にそれぞれの義務が生じていくという仕組みです。
※「登録証明書」のサンプル
>>>PDF原本はこちら(環境省HP)
犬・猫を販売業者等を介して入手する場合に生じる義務に関してはMCの情報登録先(環境省データベース)を所管する環境省から以下のように図解されています。
誰がどのような義務を負うの?という点は、この図でなんとなくイメージできるのではないかと思います。ただ、ネットやニュースなどで”マイクロチップが義務になる”ということは聞いたけれど現在犬猫と一緒に生活している自分にはどうなの?
それに対する行政の姿勢やメディアの扱いは、飼い主さん視点においてはさまざまなパターンで発生する義務に関して、説明が不十分であると言えなくもありません。こうした点は環境省などの広報活動の弱さだったり、地方行政の動物病院への周知の問題(当院所在地の船橋市からの通知は施行前日)なども重なっているように思うのですが、まあそれは置いておきましょう。
今回の法改正は”生体販売業者への義務化”、といういわば”販売規制”という点に焦点が当たっているように感じます。
改正の主旨としては”まさにその通り”なのですが、実はそれが一般の飼い主さんとのズレを引き起こしている大きな原因です。(法律と飼い主さんの見ている方向性が違うためです)
実際、皆さんが困っているのは「飼い主さん」や「飼い主さんになろうとする方」の視点での義務がどの程度に及び、実際に何をしなければならないのか?という点ではないでしょうか。
こうした背景とMC装着義務に関する当院へのお問い合わせも増えてきたため、その整理のために法律施行後(令和4年6月1日以降)の義務が生じる条件と内容を関係を以下にまとめてみました。(譲渡に伴う義務に関しては青色、譲渡後のものは赤色でまとめています)
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●販売業者から入手する場合
新しい飼い主さんとして生体販売業者を介して販売経路で入手する犬・猫は、既に”MC装着済み”で「環境省データベース」に登録あり、登録証明証明書を持っています。(いずれも販売業者名義のもの)
新しい飼い主さんには、所有者が変更した時点でMC上にあった販売元の登録情報をご自身へ名義変更(登録変更)する義務が生じます。
売買契約時に生体販売業者から下記のような「登録証明書」の譲渡を受けて「登録変更」の説明に従って手続きを行う必要があります。
●販売経路以外から入手する場合
保護団体や個人間(本改正ではMC装着そのものの法律的義務がない、努力義務)からの譲渡、所有者不明のものを自ら"保護する”などがあります。
販売をされていない犬・猫を入手した場合、譲渡を行った団体や個人は実は、法的なMC設置、登録義務を負ってはいません。(努力義務はあります)
つまり、譲渡する側が”自ら行うべきこと”に対する裁量権がある程度あり、何を行って何を行わないか選択ができますから、それに応じて新飼い主さんが果たすべき義務が変わります。
(以下の3通りが規定されています。※)
・”MC装着済み”で「環境省データベース」に登録がない場合には、新飼い主さんにはデータベースへの登録義務はありません(任意)。
・MC装着済みで「環境省データベース」に登録がある場合でも、登録証明書がなければ新飼い主さんにはデータベースの登録変更の義務はありません(任意)。
・MC設置済みで「環境省データベース」に登録があり、登録証明書がある場合には、新飼い主さんは登録変更の義務を負うことになります。(販売経路と同様の場合)
※ただし、譲渡を受けた犬・猫に自身でMCを装着した場合には、上記の要件にかかわらず、新飼い主さんに「登録義務」が生じます。本来、努力義務のはずの新たなMC設置においては設置者が例外なく登録の義務を負います。
例えば、”設置はしたものの、気が変わったので登録しない”というのは「登録義務」違反です。
●飼い主さんが譲渡する側の場合
MC装着済み、「環境省データベース」への登録があり、登録証明書を持っている場合には登録証明書の譲渡が義務となります。(新飼い主さんには登録変更の義務を生じます。)
●飼い主さん自身の”変更事項”の届け出の場合
所有者氏名、連絡先(住所、電話番号、メールアドレス)、犬猫の所在地、呼び名、毛色などの特徴など、環境省の定める登録事項の変更が生じた場合です。
例えば、結婚、引っ越し等の生活上で該当事項に変更があった際には「変更届」の提出が義務となります。
●動物が死亡、もしくはMCの除去※を行なった場合
「環境省データベース」に登録がある動物からMCを取り外した場合やその動物が亡くなった場合には速やかに「死亡等の届」を提出をする義務があります。
※設置されたMCの取り外しは原則禁止ですが、獣医師がMCを取り外す必要があると判断した場合は取り外しが認められます。(装着部位周辺の診療、MRI画像診断を行う必要がある場合など)
ご参考までにですが、そもそものMC設置に対する例外規程として、装着部位周辺に重大な疾患がある場合等、犬、猫の健康および安全の保持上支障が生じるおそれがあると獣医師が判断した場合にも、免除されるという規定もあります。
実際に、最も多くの飼い主さんが当てはまる条件、すなわち法律施行前から犬・猫を飼っているという多くの飼い主さんにはMC設置の義務はなく、MC設置済みで既にAIPO等民間データベースへ登録している場合にも新たな「環境省データベース」への登録は「任意」です。
つまり、法律による”義務化”という雰囲気から想像するよりも、現在進行形でワンちゃんネコちゃんとお付き合いいただいている飼い主さんへの義務化による影響はほぼない、ということが分かります。
この法律が規定している「義務」は新たに犬・猫を入手する飼い主さんにターゲットが向いています。愛護団体や個人から入手される場合には多少ややこしく見えるかもしれませんが、いずれの場合でも譲渡の際に登録証明書があれば、新しい飼い主さんは登録変更の義務を負う、という基準で考えればスッキリするのではないでしょうか。
まとめとして、義務の程度とその対象の区分を示します。飼い主さんにおよぶ義務に関しては太枠内をご覧になって下さい。
(四日市市のHPより引用)
※表中並び文中にある法律用語としての「義務」、「努力義務」、「任意」ですが、曖昧なのが努力義務かと思います。
努力義務とは、法律の条文で「~するよう努めなければならない」などと規定された義務のことです。即ち「努力をすること」自体が義務となります。(努力の程度は問われません)
努力義務に違反したとしても法的な制裁はありませんが、当事者の自発的な行為をうながすという目的で用いられます。
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最後に、大事な注意点などをいくつか。。。
しばしば登録そのものに関する誤解が起こっているようですが、まず今回、法的な登録義務となるMC情報は環境省へ登録することが必須となります。
ところが、登録先となる「環境省データベース」の状況はというと、現時点ではさまざまな民間事業者(Fam/JKC/AIPO等)が個別に実施してきたMC情報登録のしくみにさらにもう一つ、国家管理のデータベースが加わったということに過ぎません。
環境省が既存の民間データベースを取りまとめるようになったわけでもありませんので、今まで通り各々のデータベースはまったく別なものとして運用されます。(将来的な再編や消滅はあるかもしれませんが)
つまり、日本獣医師会のAIPOも含めて、既存の民間登録サイトから自動的に「環境省データベース」へ移行手続きがされることはありませんので、移行ないし登録作業は必ず所有者自身で行う必要があります。
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ちょっと脇にそれますが。。。
現時点で問題なのは、「環境省データベース」が今まで動物病院等で公的なデータベースとして案内されて莫大なデータを管理しているAIPOのデータベース(農林水産省が間接的に管轄)との連携がどうやらなされていないことです。
本来、公的なデータベースであれば当初よりAIPOとの相互運用が想定されて然るべきですが、環境省への登録は、長期的にはともかく現状ではあくまで”法律的義務”を満たすためという状況になってしまっています。
一方で、AIPOからの「環境省データベース」への移行が”手数料無料”(令和4年6月末まで)を謳って強めに誘導されているのは少々荒っぽいかなという印象です。
長らく動物病院で公的なデータベースと説明されてきたAIPOには全国規模のデータ(280万件程度)が蓄積されており、現在各所で稼働中でもあります。
MCの本来の目的となる災害時を含めての遺棄・迷子動物の検索のためにはAIPOへの登録を当面維持しておく必要がありそうですが、この辺りは環境省からの説明がとにかく不足しています。
実際に、MCの登録先は環境省への義務的登録以外に、その用途に応じて複数行うことが当の環境省や地方自治体など公的機関からも推奨されております。
何を言っているのかわからないという感覚は当然あることと思います。
異なる?目的で作られた公的なデータベースが2つ同時に存在して、当面存続するというのは何故なのか。
運用方法が異なっている上に相互のデータのやり取りができない状況なのですから、これぞお役所仕事のまさに”縦割り行政”(農水省と環境省の力学)の賜物などと、勘ぐられないような仕事の熱量は必要ではないでしょうか。。。
好意的に見れば、犬猫の寿命も考慮してしばらくはデータベースの仕組みや義務関係の統合を先送りしても、長い視点で法律の目的は達成できるという判断もあるとは思いますが。。。
法律施行前に既にAIPOへの登録をお持ちの方で、「環境省データベース」への登録義務がない方にはAIPOでできることを上回ることがないなど、急いて移行する合理性がやや不明瞭な点もあります。
ぜひ、ご自身でよく考えた上で手続きを行ってください。
まだまだ紆余曲折はあると思いますが、飼い主さんや現場の動物病院にとって利用価値のある”仕組み”へと変貌してくれることを祈っております。。。
>>>PDF原本はこちら(環境省HP)
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※当ブログの内容は上記の環境省HP、ならびに船橋市をはじめとした各市町村の公開データを参考にまとめたものです。
内容に関してはその出展をもとに書き起こしておりますが、情報の正確性において不十分な点、分かり難い点がある場合、以下に必ずお問い合わせをお願いします。
環境大臣が指定した指定登録機関により「犬と猫のマイクチップ情報登録」制度のウェブサイト及び専用コールセンターが開設されております。
○HP: https://reg.mc.env.go.jp/
○コールセンター:03-6384-5320
(8:00~20:00、土日祝日可)
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文責:あいむ動物病院 西船橋
井田 龍