当院の内視鏡システムについて
人間の消化器内科などで行われる(消化管)内視鏡検査はその検査部位によって、いわゆる”胃カメラ”や”大腸検査”などと呼ばれています。
内視鏡検査はさまざまな”がん”や消化器病の診断や治療を行う上で、現代医療において欠くことのできない検査手段です。
ところで、その消化管内視鏡でしすが、動物病院では人の医療とは若干異なるかたちで使用されているのをご存知でしょうか?
人の方では街の消化器内科などでの胃がんや大腸がんなどのを見つけるための健康診断の印象が強いかと思うのですが、動物医療ではやや趣が異なります。
実は動物病院にとって消化管内視鏡とは異物摘出のための重要な道具であり、”おもちゃ”や骨、衣類など犬猫が誤って飲み込んで消化管内異物となったものを上部消化管(主に食道や胃)から取り出すためにはなくてはならない医療器具という位置付けです。
ヒトの小児では同様な用途があるのですが内視鏡の用途の一部でしかありません。一方で動物病院では消化管内視鏡の大部分は異物摘出のために使用されていると言っても過言ではありません。
もちろん、人のように消化器病やがんなどの診断・治療にも使用されることもありますが、犬猫での異物誤食があまりにも多いため内視鏡=異物摘出のためという図式が成り立ってしまっています。
——————————————
消化管内視鏡は消化管に直接挿入して操作・観察するためのビデオスコープ※が内視鏡システムの主役であり、手足とも言える装置です。
ビデオスコープの先端には超小型で高精細なCCDカメラが搭載されており、撮影された画像データはリアルタイムで内視鏡システムに伝えられ、画像処理の後にディスプレイに表示されます。
また、スコープの内部には細く長い、鉗子(かんし)などを通すための”トンネル”があり、観察だけではなく、さまざまな器具を用いて異物の摘出や組織を採取、電気メス装置などを併用してポリープなど腫瘍などの摘出をすることもできます。
ビデオスコープは術者が内視鏡を操るための操作部を介して、先端には体に入れるカメラに、もう一方の端を光源装置や、内視鏡の操作を補助する(ポンプで空気や水の出し入れを調節する)装置につながっています。
スコープから送られてくる画像はプロセッサー装置と呼ばれる画像処理のための装置を経由してディスプレイ表示される仕組みです。
※内視鏡スコープの写真
——————————————
実は消化管内視鏡が世に出てから「内視鏡装置で作られる光源に照らされた対象を内視鏡スコープの先端に付いているカメラで観察する」という基本的なしくみ自体には変化はありません。
消化管内視鏡の性能はこの10年ほどでの画質の向上には目を見張るものがあります。
超音波検査装置やレントゲン装置が代表的な例になりますが、医療用画像の向上とはまさに”デジタル化”や”画像処理能力”の向上によるものといえます。
参考までに例えば、レントゲンは放射線の一種(X線)を対象物に照射して、その”吸収の違い”を画像化しますし、超音波検査装置は文字通り超音波を照射して対象物の”反射の程度”の違いを画像化するものです。
内視鏡の仕組みはと言うと、内視鏡スコープの先端から可視光の光源を照らして対象物空の光の反射を画像化する装置ですので、しくみはビデオカメラと同じで単純、見えているものをそのまま画像化する装置です。
では、何が進歩なのかというと、暗く画素数が少ない画面がクッキリ明るい高画素のハイビジョンになったという、”見せる画質”の向上はビデオカメラの進歩とほぼ同じです。
加えて内視鏡画像ではどのような光を当てれば検査の目的に最適な映像を作り出せるかという観点から、光源が進歩したことが大きいでしょうか。
内視鏡光源の進歩をはまさに車のヘッドライトとの進化と一致しています。
昭和から長らくハロゲン電球がヘッドライトの光源として使用されていました。消費電力のわりに暗く、幅広い波長の集まった光ですので、ボーっと照らすというイメージです。
ハロゲンランプの後継とし平成になって一気に普及したキセノンランプ(HIDランプ)により消費電力に比べて明るさと見やすさにおいて劇的な変化がありました。
現在では、より効率が良く高輝度のLEDへ進歩して、さらに一部の高級車などではレーザー光を光源とするヘッドライトが市場に出てきています。
各々目的はまったく異なりますが、光源と視認性の追求は車のヘッドライトや内視鏡に大きな進歩をもたらしています。
従来の内視鏡検査は車のヘッドライトと同様に“ハロゲン”やその進化系の“キセノン”など、つい最近まで、長らく自動車のヘッドライトなどでお馴染みの”ランプ光源”を使用した観察が主流でした。
近年、人の医療の内視鏡検査における問題点として、そのような”ランプが放つ光”を使った観察では内視鏡画像の“見え方”において粘膜などの”微細な変化”をとらえることが不十分であることが指摘され、光源をどうするかが解決すべき課題とされてきました。
——————————————
当院の内視鏡システムは、旧来の“ランプ”による単一光源ではなく、波長の異なる2種類のレーザー光「白色光観察用レーザー」と「狭帯域光観察用レーザー」を様々なパターンで照射して観察することができます。
白色用レーザーにより従来の単一の光源よりも観察しやすく質の高い、自然な内視鏡画像を得られます。さらに、もうひとつの狭帯域光レーザーという特殊な波長の光を光源として組み合わせることで、観察部位の粘膜表面の微細な血管やわずかな粘膜の凹凸などのコントラストを強調して画像を明瞭に映し出すことができます。
漫然と観察するのではなく、目的に応じて対象物の異常を切り分けて炎症や“がん”などの判別の難しい病変の見易さにおいて旧来の内視鏡検査では判別の難しい早期のがんや炎症を起こしている部位の変化を画像※として捉えることに、大きなアドバンテージを持つ次世代のハイビジョン内視鏡システムです。
当院ではこの内視鏡システムに用いるレーザー光源専用のスコープを2種類用意しています。
ひとつは人の消化器内科でのいわゆる“胃カメラ”検査の主流となっている”鼻からの挿入が可能”な径5.8mmの極細径タイプと、もうひとつ“大腸内視鏡検査”に用いられる拡大観察が可能な9.9mmの標準サイズのスコープです。
動物医療では人のような部位による使い分けだけではなく、患者動物の大きさによってスコープを使い分けています。子犬や子猫、超小型犬から大型犬に至るまで、様々な動物種や大きさのバリエーションに対応が可能です。