>>>おやつに対しての意識の変化(人間側のはなし)
近年、健康志向のおやつとして、ドライフルーツを食べる方が増えているようですね。
人間が食べる”おやつ”といえば、誰しも”人工的な甘みが強い”であるとか”嗜好性や習慣性の高い”ポテトチップス等の(超)加工食品が思い浮かぶと思います。
一方で、近年ではおやつに対しても「自然志向」を求める層が増え、”プレミアム感の追求”による「無添加」や「砂糖不使用」、「スーパーフード」であるとか「腸活」などといった機能食品的な側面を求める価値観が広まっているようです、こうした背景もあり、以前は専門店でしか購入できなかったような素材由来の製品が入手しやすくなりました。ナッツやドライフルーツ等をおやつとして常備するご家庭も増えてきているのも頷けます。
>>>ドライフルーツ素材として「デーツ」の割合が増えている?
ところで、こうしたドライフルーツのひとつとして近年「デーツ」を見聞きすることが多くなったという印象はないでしょうか?
今回はそのデーツ(乾燥ナツメヤシ果実)に関してちょっと掘り下げたいと思います。デーツは”天然の甘味料”として近年になって食品メーカーが積極的に使用してきており、その背景には「天然由来の糖質」とか「食物繊維やミネラルが豊富」であるという安心感とサプリ的な側面が強い素材です。
また、下の図のようにさまざまなおやつ形態として多様化し、罪悪感の少ない健康スイーツ化が進んだことにより、ドライフルーツ界の主役に躍り出ている勢いある果実の一つといわれています。
>>>犬の「誤食事故」(大量摂取)につながる可能性
人間社会でのこうした「ドライフルーツ」に無条件に抱く“健康的で安全”という印象はかなり根強くみられます。それが転じて、犬に対しても「果物だから。まあ大丈夫だろう。」という安易な認識につながりやすくなっているかもしれません。
そもそもドライフルーツは犬にとって嗜好性がとても高いという条件が揃っており、与えればいくらでも食べ続けてしまいがちな食品です。それはワンちゃんにとって“適度に弾力性があり噛みやすく、水分が抜けて香りと糖が濃縮されている”まさに犬の嗜好を強くソソる特徴を持つためです。
また、袋ごと破って食べやすい包装のため一袋丸ごとという「一気食い」につながりやすく、目を離した隙の”短時間での大量摂取”となってしまう危険性が高い食材ともいえます。
>>>おやつとしてデーツを犬にあげる際の注意点は?
現在のところ、犬においてデーツが”問題のある食材”であることを示す情報はネット上でもあまり見当たりません。食べすぎないように”少量ずつ”節度を守って与える分には問題ないとされています。
他のドライフルーツ、例えばレーズン(干ぶどう)やプルーンでみられるような特定の有害性が指摘されているわけではありませんが、そうした連想から「デーツをたくさん食べてしまったけれど大丈夫なのか?」というお問い合わせは今後、増えてくるのではないかと感じています。
デーツに限らないことですが、一般的には人に対して健康的な食品でも、犬には向かない場合が時折みられますし、その摂取量や条件によっては事故につながる可能性もあるため、安全とされている食材であっても、与える量によっては注意が必要なことがあります。
犬に対しては問題が少ないとされているデーツですが、乾燥により糖質(果糖やブドウ糖)や食物繊維、カリウム、鉄、マグネシウム等のミネラル分が高濃度化している特長が、むしろ逆に犬の消化管への刺激や負荷となって消化器症状を引き起こす可能性も考えられます。
※犬はヒトよりも腸内で糖質を分解する能力が低いとされ、糖質(果糖)の大量摂取は消化不良や嘔吐、軟便や下痢などの消化器症状を引き起こします。子犬や高齢犬、持病がある犬では特にリスクが上がるため与える量には注意が必要です。
※体格の小さな犬では、チョコレート中毒に見られるように、摂取量に対する体重比が大きくなりがちなため、何かあった場合に症状が顕在化しやすい点には注意が必要です。
※上写真は実際に「デーツ一気食い」に至った小型犬が破いた”乾燥デーツ”の外袋です。”茶碗一杯分ほどのデーツ”を食べ尽くし”お腹がパンパン”の状態での来院でした。(下段の胃拡張の説明に該当します。)
>>>実際に、デーツを大量摂取すると何が起こり得るのか?
◆胃拡張
大量のデーツを”一気食い”した場合、胃の中に急に”乾いた塊”が詰め込まれた状態になります。特にドライフルーツは乾燥しているため、さらに胃液によって膨らみ胃の処理能力を奪ってしまうポテンシャルが高い食材です。
実はこの現象はドライフルーツに限ったことではなく、犬では例えばドライフードを極端に食べすぎた場合や一気喰いの後に起こりやすく、その結果として犬では胃拡張を起こす危険性が増大します。
◆小腸で生じるさまざまな消化器症状
小腸での吸収能力を超えた糖質が腸管内に流入し、それが吸収されないことにより腸内にとどまり続けて強い消化器症状(下痢や嘔吐など)が生じ得ます。その仕組みは以下のとおりです。
”高濃度の糖質”による小腸内での浸透圧の急上昇が起こると、体はそれを解消するしくみとして、体内から腸内への水分を移動させるという反応を起こします。
この反応が過剰になって腸内の正常な機能が失われ、またその後に糖質の腸内発酵が加わるなど、結果的に軟便〜下痢、嘔吐、腹部の張り、腹鳴(お腹がゴロゴロ鳴る)、流涎(よだれ)、不快感による落ち着きのなさや苦悶状態などが生じる可能性が高まります。
※「空腹時の大量摂取」、「小型犬」、特に消化機能の弱い「若齢や高齢犬」、「消化器症状を起こしやすい体質」であるとか「消化器の病気を持っている場合」にはこうした有害反応がより激しく出る可能性があります。
>>>デーツの大量摂取が体のしくみに及ぼす影響
胃でうまく処理されても、次に考えなければならないのは過剰な糖質負荷による消化管内の代謝の変化による問題です。
デーツは”乾燥させた果実”のため重さに換算しての”糖濃度”がかなり高く、たくさん食べた場合には小腸での急速な糖質(ブドウ糖)の吸収による血糖値の急上昇リスクが高まります。
健康であれば通常は体内のインスリン応答により大きな問題にならないことが多いと考えられますが、食べた量や特定の条件がある場合(上段の※)には、体への負担が大きくなる可能性があります。
特に糖尿病、慢性腎臓病、膵炎などの消化器疾患を持っている場合には注意が必要です。
また、デーツは本来は膵臓への負担が問題視されるような高脂肪食ではありませんが、大量摂取による小腸への大きな負担や刺激による腸内の急激な代謝変動を引き起こします。こうした腸内環境の激変に続くような膵炎症状を発症する可能性もあります。
このため、繰り返す嘔吐、腹痛、食欲廃絶、著しい元気消失などがみられる場合には、単純な胃腸障害ではなく、膵炎やその他の重大な消化器疾患も含めて評価する必要があります。
>>>デーツの危険性の見逃されやすい重大ポイント
また、デーツの”果実としての大量摂取”の問題とはやや論点がずれますが、”デーツの種”も同時に(特に複数)飲み込んでいるかどうか、これが果実そのものの病害性よりも大きな問題を引き起こす可能性があります。
それは種によって小腸で起こりうる、消化管閉塞などを代表とする異物性障害で、数日から1週間以内に”生命に関わる重大な問題”を引き起こす可能性が増大します。
”種”は犬の消化管内では消化されずに幽門部(胃から小腸への出口)、小腸で停滞・閉塞を起こす可能性が高くなります。(胃に残留し続け、長期に消化管閉塞へのリスクとなり得ることにも注意しなければなりません。)
デーツの種など、何らかの異物を飲み込んだ後にくりかえす強い嘔吐、食欲廃絶、腹痛、排便減少、活動性低下のなどが数時間から数日、場合により数週間以上かけて出現することもあります。
特に小腸の径が狭い超小型〜小型犬ではより注意が必要であり、状況によっては早期に内視鏡的除去や外科手術を検討しなければならなくなる可能性が生じます。
>>>もしも、ワンちゃんがデーツを大量に食べてしまったら?
ご家庭でデーツの誤食が判明した場合には、「どのくらい食べたか?」に加えて「種が含まれているか?」また「食べてからの経過時間」、危険性予測のために「体重および持病の有無」を明らかにして、動物病院に問い合わせを行うことが重要です。
特に「大量に食べた場合」や「種有りの場合」には要注意ですので、直ちに動物病院を受診していただくことをお勧めいたします。
比較的体調が落ち着いており、すぐには動物病院に来られないなど、自宅で経過を見る場合には、嘔吐などの消化器症状がなければ水は通常どおり自由に飲ます(ただし飲み過ぎには注意)とし、食事、おやつを制限して自然回復を待って下さい。
自己判断による催吐処置や食塩、牛乳などを飲ませるなどの”民間療法的な行為”は症状の悪化や別の危険性を生じますので行わないでください。
———————–——––
文責:あいむ動物病院 西船橋
代表獣医師 井田 龍