しっぽ

真夏の湿疹 ~ホットスポット

梅雨も明けて、夏本番ですね。。。

気温も連日のように30度を超え、35度を超えるような日も珍しくありません。
昨今は夏の気温上昇のテンポもそうですが、日本国は名実ともにあらゆる変化においてまるで皆茹でガエルのような状態ともいえなくはありません。

巷で言われる気候変動の影響なのか、今まで温帯気候だったはずが着実に亜熱帯かそれ以上のような未体験ゾーンに近づいているようにも見えます。

人間はもちろんしんどいでしょう。
しかし、その傍らに寄り添うわんこ達は夏でも脱ぐことのできない厚い毛皮と脂肪のコートをまとっていますから、ヒトが感じるより遥かに過酷な季節を過ごしています。。。

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ところで、犬には気温、湿度の上昇とともに増えてくる風変わりな皮膚病急性湿疹があることをご存知でしょうか? それは。。。

急性湿性皮膚炎、別名ホットスポットとも呼ばれる皮膚病です。
人間ではこう言う皮膚病に該当するものがないようですが、同じく夏の風物詩、汗疹(あせも)のさらに数段上を行く”急性の皮膚病”といえば想像ができるでしょうか。。。

ワンちゃんを飼われている方なら、もしかしたら一度や二度は耳にされたこともあるかもしれません。

「ホットスポット」とは?、近年ではWi-Fiがらみの用語として使われることが多いように思いますが、本来は局地的に何かの値が高かったり、何らかの活動が活発な地点・場所・地域のことを指さすための用語です。
例えは悪いですが、もうずいぶん前になってしまいましたが、福島の原発事故で放射量が高い場所が盛んにそのように呼ばれていた、なんてのもそのひとつです。

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動物医療で使われる場合の「ホットスポット」急性湿性皮膚炎、化膿性外傷性皮膚炎とも呼ばれる、いわゆる急性湿疹のことを指します。
ホットスポットと呼ばれる理由は、皮膚の一部のエリアに突然激しい症状とともに、特徴的な外見上の変化が起きるためでしょう。

この場合の飼い主さんの訴えの特徴としてはあるパターンとして。。。

”朝起きたときは何ともなかったのに、昼過ぎにこんなコトになったんです!!!”

のように突然でびっくりという雰囲気を診察時によく感じるものです。

急性湿性皮膚炎はおおよそですが、なんと数時間、少なくとも一日以内の期間で急に発症します。
「痒い」というよりむしろ「痛み」に近い症状がみられ、”しきりに舐めたり”、”地面に擦りつけたり”しますので、患部の損傷はより大きくなってしまう傾向があります。
痛みなどの不快感が高いため飼い主さんが触ろうとしてもなかなか見せてくれない、なんていうこともしばしばです。

来院時の状態は症状も含めて様々ですが、通常は激しく舐めるために周囲の被毛には唾液とホットスポットから出る血液滲出液(滲み出る体液)などが固まってカピカピにこびりついていることが多くみられますす。
これは皮膚が広範囲に激しく炎症をおこしていることを示しており、その上の被毛はそれに伴って根こそぎごっそりと抜けてしまうことも少なくありません。

実際ホットスポットの具体的な症状ははどんなものなのか?

文章では分かりにくいので、まず下の4つの写真をご覧いただければと思います。

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次の写真は中年齢のゴールデンレトリバーです。
半日も経たずにこの状態になりました。ホットスポット上の被毛は完全に抜けてしまっており、体液と血液が周囲の被毛を濡らしています。

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次の写真は若いシーズーです。
トリミング中の急性発症です。この間わずか数時間で、あまりに急でしたのでトリマーさんが代理で来院しました。表皮は体液で濡れており、相当掻いたようで、それに一致してホットスポットが広がっています。

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次の写真は老齢のパピヨンです。
前日の夜は何ともなかったようですが、尻尾の付け根を噛んでグルグル回るということで昼前にいらっしゃいました。写真は体液でべったりくっついていた被毛を治療のために除去したところです。

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次の写真もパピヨンです。
やはり前日には何もなかったとのことですが、急に尻尾を噛みだして出血しているということでいらっしゃいました。尻尾の周り全周に渡り血液の混ざった体液が全体に付着しています。

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ホットスポットはあらゆる犬種で見られますが、アンダーコートが密生している犬に多い傾向があり、ゴールデンレトリバー柴犬、シベリアンハスキーなどではよく見られます。
発症原因は明確ではありませんが、いくつかの要因が重なり合って発症するといわれています。発症の引き金としては何らかのアレルギー、例えば食事性アレルギーノミやダニなどの外部寄生虫により発症するアレルギーや、アトピーなどが考えられています。

アレルギーなどで生じた皮膚炎の痒みなどの刺激により、舐めたり引っ掻いたりすることで皮膚損傷がさらに広がって表皮バリア機能が破たんします。すると、そこに普段から存在するブドウ球菌などの細菌が侵入、二次感染を起こして広範囲に化膿を生じます。

夏季での発生が多いこと、被毛が密に生えている犬に多く見られることから、高い気温湿度などにより表皮の代謝が変化したり、蒸れやすくなって皮膚環境が悪化することが発症要因と考えられます。冬場でも暖房の行き届きすぎた環境でもみられるようです。

ホットスポットの病変にはブドウ球菌などの細菌が観察されることが頻繁にありますが、これは主原因ではなくもともと皮膚に常在する細菌の二次感染といわれています。
人の黄色ブドウ球菌感染で見られるようなとびひ伝染性膿痂疹)のように、他の犬はもちろん、人にももちろん感染しませんのでご安心ください。
局所では激しい炎症を生じますが、全身への波及は通常みられません。

治療は二次感染の原因となっている細菌感染のための抗生物質アレルギーを原因とする強い痛みや痒みに対する抗炎症薬副腎皮質ステロイドホルモン製剤等)の投薬を行います。
病変が唾液や体液で汚れていたり、滲出液(にじみ出てくる体液)が多い場合には、毛刈りを行いホットスポット表面の清潔を保てるようにして消毒薬薬用シャンプーなどの外用薬を継続します。同時に、舐める、噛むなどの自己損傷を防ぐためにエリザベスカラーは装着したほうがいいでしょう。

経過が順調であれば、数日で次第に細菌感染炎症が軽減し、一週間弱で痂疲化(カサブタになること)して数週間程度で被毛が生えそろいます。
ホットスポットはシーズンごとに繰り返すことも多く、このような場合には夏季では室温を下げたり、被毛を短く保つ、シャンプーの回数を増やすなどの生活環境の改善が必要なこともあります。
また、アレルギーの低減のために皮膚疾患に大きくかかわるノミダニなどの外部寄生虫の予防を行うことや、場合によっては食事性のアレルギーに配慮された食材に変更するということも必要になるかもしれません。

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梅雨から夏季にかけて、動物たちを取り巻く環境は我々人間が感じる以上に大きく変化しやすいものです。

暑い夏といえば、あちこちで緊急疾患熱中症がクローズアップされがちですが、いわゆる気象病※としての体調不良や特に基礎疾患がある場合などで、例えば心臓病腎臓病などの内科系疾患の悪化など
気象病とは気温や天気、気圧の変化などの自然現象などの外的な環境の変動が、何らかのメカニズムで体調不良から病気に至るまでの体の異常のことです。人間の医療では、例えば台風や前線の通過などに伴って生じる疾患として認識されています。

つまり、この時期に注意すべきものは今回取り上げたようなホットスポット熱中症などの分かりやすい、トピック的なものばかりではないということです。

夏はただ暑く、不快なだけではありません。
近年では夏の昼間の外出に制限が出るほどですから、特に病気を持っていたり高齢動物とともに生活している方は注意深く様子を観察してあげてくださいね。もちろん飼い主さん自身もくれぐれもお気をつけください。。。

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文責:あいむ動物病院西船橋
   井田 龍

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