しっぽ

動物愛護法について

動物愛護を規定している法律があるということ自体をご存知の方は多いと思います。
今回のテーマは動物愛護とそれを取り締まる法律についてちょっと掘り下げてみました。何とも堅いお話かもしれません。。。

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現在の我が国における犬猫等、飼育動物の動物愛護を規定する法律は「動物の愛護及び管理に関する法律」です。

この法律は「動物愛護法」や「動物愛護管理用法」もしくはやや古い呼び名の「動管法」など、この法律に関わる動物愛護、行政、ペット産業など、法律を見る立場によって異なる名称で呼ばれています。(当ブログでは動物愛護法とします)

そもそも、この法律の前身となった「動物の保護及び管理に関する法律」はその特徴として各種産業や行政に対しての規制を行うための「産業法」としての性質を持っており、現在の動物愛護法にもその特徴が色濃くみられます。

つまり、動物愛護法は初めから”動物愛護ファースト”の法律として生まれたものではありませんでした。

我が国における動物愛護法は、動物の管理や規制に重きを置く既存の法律に、時代が求める動物愛護の精神を加えつつ、順次改正を重ねてバージョンアップしてきた法律であるという歴史があります。

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動物愛護法は基本原則として、すべての人が「動物は命あるもの」であることを認識し、みだりに動物を虐待することのないようにするのみでなく、人間と動物が共に生きていける社会を目指し、動物の習性をよく知ったうえで適正に取り扱うことを求めています。

また、飼い主はその責任として、動物の種類や習性等に応じて、動物の健康と安全を確保するように努め、動物が人の生命等に害を加えたり、迷惑を及ぼさないこと。
みだりに繁殖することを防止するために不妊去勢手術等を行うこと。
動物による感染症について正しい知識を持ち感染症予防のために必要な注意を払うことなどを定めています。

さらに、動物が自分の所有であることを明らかにするための措置を講ずること、動物の所有情報を明らかにするためにマイクロチップなどの装着を推進しています。
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>動物愛護管理法の概要について

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冒頭にも書いた通り、動物愛護法は1973年に成立した「動物の保護及び管理に関する法律」を元にしていますが、当時はまだ現在のような動物愛護への意識の高まりや議論が成熟していない時代でもあったのでしょう。
法律の趣旨は動物愛護に重きをおいた国民意識の向上というよりも、むしろ、行政などが動物をどう管理し、扱うかという実務面に主眼が置かれていたようです。

昭和のバブル景気の第一次ペットブームを経て、時代の変化とともに飼育動物は愛玩動物(ペット)から伴侶動物コンパニオンアニマルと呼ばれるようになってきました。
これは飼育動物への向き合い方がより深く多様化して、人生における伴侶や家族、かけがえのない友人という位置づけで、人と共生する飼育動物のあり方が定着してきたという変化の表れといえるでしょう。

動物愛護の概念の変化による時代の要請を受け、さらに”国際的にも通用する法律”を目指して1991年に改正された法律が現在の「動物の愛護及び管理に関する法律」、すなわち動物愛護法なのです。

また、各地方自治体でもこの動物愛護法の成立を受けて「動物の愛護及び管理に関する条例」が制定されているのはご存知でしたでしょうか。
当院のある千葉県でも2016年に「千葉県動物の愛護及び管理に関する条例」が施行されており、各自治体レベルでの動物愛護に関する規定と罰則を設けています。

>千葉県動物の愛護及び管理に関する条例

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動物愛護法では第44条に「動物の所有者」は適正飼育と保護など、動物の適正な取り扱いに努めなければならないと規定されています。
また、愛護動物をみだりに殺し、傷つけたものは最高で2年以下の懲役、または200万円以下の罰金、様々なネグレクト等の愛護動物の保護、管理の放棄やその他虐待、遺棄に対しては100万円以下の罰金が科されることになっています。

また、我々獣医師に対しては第41条では、業務上、みだりに殺されたり傷つけられた、もしくは虐待を受けたと思われる動物を発見した時には都道府県知事やその他関係機関への通報を促しています。

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念願の動物愛護を前面に謡う法律は施行されました。法律を実効性のあるものとするためには、しかるべき行政の「関係機関」に執行を委ねなければ十分な効力を持たせることはできませんが、ところがこれが早々に問題となりました。

つまり、どこがこの法律を執行するのか?ということです。
法律が機能するためには法律にある通報すべき「その他関係機関」とはいったい”どこ”で、通報者が”どのように”手続きを踏めばよいのかという手順が明らかになっていなければなりません。

当然、わが国には「動物保護監督署」なんてものはありませんから、こうした法律違反を懲罰ないし逮捕権を持って取り締まることができる「署」は警察署だろうと容易に想像できるのですが、法案成立直後しばらくは警察との連携がうまくいっていたとはお世辞にも言えない状況だったようです。

警察以外ではどこでしょう?国、地方自治体に関わらず「〇〇所」という組織があまり期待できないのはご想像のとおりです。

法律はその執行の手順があいまいなままだといわゆる”ザル法”になってしまいますが、広い意味でも狭い意味でもわが国にはそのような法律があらゆる分野に見られます。
よく例に出される政治資金規正法売春防止法、パチンコなど賭博関係の無法状態など挙げればきりがありませんし、動物関係であれば狂犬病予防法がそうした法令に該当するかもしれません。

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2012年の動物愛護法改正では、こうした点も考慮してか、警察との連携がようやく盛り込まれました。
これに伴って法律の執行に関して警察庁から各道府県警察警視庁に通達が出されているようですが、それでも残念ながら実際には現場では事件や犯罪として扱われることもなく、文書にさえ残らないという問題が生じていました。

その後、再び2016年に動物の殺傷、虐待、遺棄などが考えられる場合の 警察の対応を求めるための指針「愛護動物の対応要領」が警察庁から各都道府県警察宛てに出ています。
警察の現場レベルでは動物愛護法違反は犯罪であるという認識がまだ薄いというのが現実ではあるのですが、警察の統計資料では動物虐待事犯の「検挙事件数」に関しては統計がある平成22年以降、確実に増え続けているようです。
平成29年(2017年)に68件という数字はまだまだ不十分なものかもしれませんが、今後のより適正な法の執行を期待できるデータであろうと思います。下記に「警察庁生活安全局」の統計資料を示します。

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愛護動物の対応要領」では、下記に該当するような事例があった場合に、警察がどのように対応するべきかが分かりやすいチャート形式になっています。動物虐待が疑われるような個々のケースにおいてその対応が警察官に十分に周知されていない場合、警察が執行すべき業務の基本事項として提示できるのではと思います。

警察庁から各都道府県宛てのお達しですから警察官に職権を行使していただく上で、ある程度の効力を期待できるのではないでしょうか。

愛護動物の対応要領.jpg

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我が国はいわゆる「法治国家」です。
しかしながら、行政が直面するさまざまな問題や利害関係などへの”忖度”による不作為、ないし作為による法律の不適切な運用が残念ながら様々な分野でまかり通ってしまっているのが公然の事実ではないでしょうか。

こうした行政のヤル気、状況次第による法律の運用はその在り方として望ましいとは到底言えませんが、こうした状況の改善を当事者の行政任せにしても何の解決にもなりません。

一般市民の方々はもちろん、動物愛護法に通報の努力が明記されている我々獣医師などの関係者は特に無関心であってはならないと思います。それが直ちに物事に変化を与えるものではないにしても、こうした問題に対して関心を持って見守っていく、という姿勢を常に忘れてはならないでしょう。

動物愛護法で謡われている理念や決まり事、罰則が十分機能せず、ただ条文に書いてあるだけの「放置国家」ではあってはならないと思うのですが、皆様いかがお考えになるでしょうか?

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文責:あいむ動物病院西船橋
病院長 井田 龍

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