>>>犬の膣ポリープとは?
「膣にできるポリープ」は子宮~膣を発生源とする生殖器の有茎腫瘤(発生元と茎状の組織でつながった腫瘤)のことです。生殖器にできるポリープは同時に複数の病変が膣や子宮から多発的に発生していることも珍しくありません。
膣ポリープは膣内、特に膣前庭での発生が多く、ゆっくり大きくなるため、ポリープが小さい時には皮膚などの体表面にできる腫瘤のように目につくことがありません。こういった膣内型の良性腫瘍は、大きくなって膣の外へ飛び出てきてはじめてその存在に気付くことができます。
不妊手術を受けていない雌犬に発生することから、女性ホルモン(エストロジェン)などの卵巣ホルモンが何らかの形でかかわっている病変と考えられています。
以下に膣ポリープの例をいくつか掲載いたします。
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【ケース1】 高齢の不妊手術をしていない小型犬
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【ケース2】 高齢の不妊手術をしていない、中型犬
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【ケース3】 高齢の不妊手術をしていない、小型犬
>>>膣ポリープの症状は?
無症状のことが多いと思われますが、膣内で大きくなるため、その大きさにより「いきみ」や「しぶり」等何らかの異常を訴えているはずですが、気付かれないことが多いと思われます。腫瘤が尿道出口付近に達した場合には様々な程度の排尿障害を起こすことがありますし、それが大きなものであれば排便に影響することもあるかもしれません。また膣ポリープが「栓」となって膣を閉塞することもあり、膣内に粘液などを蓄積することもあります。
膣ポリープはある日突然に表面化します。排便、排尿後や何らかの「いきみ」の後に飛び出すことが多く、その外見から、”脱腸した”という訴えで来院するケースをよく経験いたします。
>>>膣ポリープの診断は?
手術前の細胞診では充分な細胞数が取れないことが多いため、確定診断は摘出した後の病理検査で行います。膣ポリープの多くは良性で、線維性ポリープ、ポリープ状腺腫、線維平滑筋腫、平滑筋腫などに分類されますが、少ないながら平滑筋肉腫などの悪性腫瘍の場合もあります。
また、膣ポリープがみられている雌犬が屋外などで自由に交尾できる生活であるならば、雌犬での可移植性性器肉腫(TVT:Transmissible Venereal Tumor)との鑑別診断が必要となることもあります。この「交尾で感染する腫瘍」は現在、国内では非常にまれではありますが、雌犬では外陰部にポリープ状の似たような腫瘤を形成することもあります。
>>>膣ポリープの治療は?
治療は良性か悪性かを問わず、外科手術による摘出をおこないます。ポリープは膣奥の付着部まで数cm以上の有茎であることが多く、さらに狭い膣内の様子は外からは確認できないことも多いため、必要に応じて会陰切開を行って手術野を確保します。
外科手術では尿道開口部を損傷しないように、電気メスなどで止血しながらポリープを切除し、周囲に同じような病変がある場合には同時に切除するようにします。腫瘍が良性であり切除できればその後は良好に経過しますが、膣ポリープが尿道口を巻き込んでいるような場合には尿路の造瘻術(ぞうろうじゅつ、違う場所に出口をつくること)が必要になるかもしれません。
>>>膣ポリープの予防は?
良性の膣腫瘍には性ホルモンが関わっており、2歳までに不妊手術を終えれば発生しないという報告もあります。同様な理由で膣ポリープ摘出後の再発を防ぐために、できるかぎり同時に卵巣子宮摘出術をに実施します。その場合、卵巣に腫瘍や嚢腫(のうしゅ)があったり、子宮にも同じようにポリープ(下写真)をはじめとする異常がみられることが多いため、注意を要します。
子宮内の病変も膣と同様の理由で発生するものと考えられます。このポリープは黄色矢印で子宮内腔に「栓」をするような状態になり子宮水腫の原因となっていたものです。そのすぐ下にも小さな病変が確認できます。
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文責:あいむ動物病院西船橋 病院長 井田 龍