しっぽ

分子標的薬「パラディア」

分子標的薬という医療用語を聞く機会が増えてきているのではないかと思います。人の医療分野では、次世代の治療薬として世界的な製薬企業がこぞって開発を進めている分野でもあります。それにつれてメディアなどでの扱いが増えており、実際、分子標的薬を使用している患者さんの増加もあり、特にがん治療での有用な薬として一般的になりつつあります。

この分子標的薬動物用として、「犬の肥満細胞腫治療薬」として認可されて利用できるようになってまいりました。ところで、分子標的薬ということをよく耳にするようにはなったものの、それがいったいどんな薬なの?ということに関して世間での認知度はまだまだであると思います。

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以下はちょっとややこしい話になりますが。。。
腫瘍細胞の一部にはその増殖をコントロールする、KIT(キット)と呼ばれるたんぱく質の鍵穴を持っているものがあります。動物医療では肥満細胞腫GIST(消化管間質細胞腫)という腫瘍が該当いたします。

数ある腫瘍の中で肥満細胞腫は犬の「皮膚がん」として、発生頻度の高い悪性腫瘍です。手術による治療が大前提ですが、手術後の再発が多くみられ、それにより多くの犬が命を落としてきました。分子標的薬は手術後の腫瘍の再発を抑え、わんちゃんのQOL(生活の質)を維持し続けるためにの有力な選択肢となるだろうと考えられます。

正常な鍵穴としてのKIT蛋白は細胞外からの「増殖指令」を受けて、それを細胞内に伝達するいわば「スイッチ」の働きをもっています。「増殖指令」がないのに増殖を促す刺激を続けてしまう遺伝子異常(変異)によって、肥満細胞GISTの原因となる腫瘍性の増殖の引き金が引かれると考えられています。
下図がその模式図です。(ノバルティスファーマ株式会社、「グリベックなび」より転用)

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こういった細胞表面などに存在する「スイッチ」を何とか調節できないか?という研究から生まれた一連のグループの薬を分子標的薬といいます。現在、多種多様な分子標的薬が人の医療分野で積極的に使われるようになっており、既存の治療のあり方を変えるほどの影響を医療現場に与えつつあるのは冒頭で述べた通りです。

トセラニブやそれ以前に肥満細胞腫の治療に用いられてきた、イマチニブ(グリベック)マシチニブ(キナベット)(日本未発売)を総称して、チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)と呼びますが、いずれもKIT蛋白の異常による腫瘍「増殖スイッチ」を「OFF」にして肥満細胞腫を治療することができます。

下の写真は犬の肥満細胞腫に対する画期的治療薬として認可を受けた、分子標的薬「パラディア錠」(トセラニブ)です。このパラディア錠は旧来の抗がん剤と比べて副作用も少なく、飲み薬による簡便な投薬が可能です。いわば「飲む抗がん剤」として在宅での治療を可能としたユニークな治療薬といえるでしょう。

最近では、承認されている、犬肥満細胞腫への使用のみならず、その他固形がん悪性黒色腫(メラノーマ)などの他の腫瘍への使用報告例があがり始めており、腫瘍治療補助療法として有望な選択肢となりつつあります。

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