開院から10年弱使用してきた待合室の「音響設備」を刷新いたしました。
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音響の追求などというものは、オーディオ好きの方以外には気になる部分ではないかもしれません。さらに医療器具、機械でもありませんから獣医療の質にはまったくと言っていいほど関わらない代物です。
動物病院の内装工事では音響設備の優先順位は当然低く、特に要望しなければ最低限のコストと品質のやっつけ仕事で設置されます。さらに壊れない限り使い倒されるような設備ですので、設置後の設備投資など考えることもない案件です。
当院の音響設備も御多分に漏れず貧相なものでした。。。
日ごろから”天井スピーカーがもうチョットいい音で鳴らないかなぁ?”と気になっていたこともあり、いっそのこと、動物病院における望ましい音響とは?ということを目標に院内環境の改善のひとつとして一から作り直してみることにしました。
オーディオ好きであれば、リスニングルームで様々な機器の組み合わせが作り出す音場(おんじょう)とか音像定位(おんぞうていい)とかいわれるものを詰めていく作業を行うと思います。
これはスピーカーやアンプの種類や相性だけでなく、スピーカーケーブルやプラグ類の細部に至るまでの組み合わせや調整の果てしない?試行錯誤を行うことであり、いわゆるオーディオマニアのこだわりをこじらすと車を買う、さらに家を建て替えるほどの大変な出費になるとかよくいわれます。。。。
ところで、そうしたマニアの世界感はちょっと横に置いておいて、動物病院の待合室で目指すべき音響環境とはどういったものなのか、考えてみました。
動物病院には予防から病気、短時間の診察から診断に時間を要する検査を受けたり、時には一刻を争う緊急状態まで、その切迫度が異なる飼い主さんや動物達が滞在時間もさまざまに出入りいたします。
つまり、患者さんの出入りに伴う喧騒、待合室内外からの動物の鳴き声、機械音などの雑音だけではなく、周囲の会話やひそひそ話など低レベルの雑音などによって、待合室は多種多様なノイズで溢れかえってしまうことになります。
こうした様々なノイズは滞在する方に幾重にも襲いかかってきます。動物病院を利用される方は様々なレベルのストレス状態にあると思われますが、その悪化要因の一つであるのは疑う余地がありません。
一方で、単に静かでさえあればよいというものでもなく、多くが滞在する場所で他人の静かな会話や吐息が聞こえるような環境であれば、逆に緊張を強いられるものです。
動物病院というのはさまざまな種類の喧騒による音的なストレスの強い場所というだけではなく、喧騒から無音に至るまで、その変化の激しい場所と言えるでしょう。
また、当院では大型車両もひっきりなしの交通量の多い国道14号線に面し、そうした外部からの騒音も考慮に入れなければなりません。
さらに、受付では患者さんごとのセンシティブ情報も扱うため、そのような小さくとも周囲が敏感に反応する音源によるノイズも多く発生します。静かな待合室内での会話やひそひそ話なども含まれますが、こうしたいわば心理的なノイズと言えるものへの対処も重要です。
つまり、動物病院待合室では人や動物達による喧騒などの大きなノイズだけではなく、無音~静かな環境で周囲に影響する低レベルの心理的なノイズも併せて、環境音とBGMによって無意識的または意識的に傾聴を促すことで周囲と音響的な切り分けを行うという考え方が大切ではないでしょうか。
このようなことを考えていくうちにですが、オーディオ好きのこだわりには到底及ばないとは思いますが、その方向性とは異なる別な切り口の音響環境を作ることもなかなか正解の出難い作業だと気づかされました。
書きたいことは他にもあるのですが、よりよい音的環境をつくるために今回はプロにお願いすることにいたしました。もちろん、動物病院の事情はよく説明して、こちらの要望をできるだけ反映させて頂いたつもりです。
通常はできるだけ「音」の存在感を押し出さないというのが滞在者のリラクゼーションが求められるような、変化の少ない静かな部屋で目指すべき環境です。
一方で、動物病院はどうあるべきかということを考えた結果、今回は待合室のどこにいても騒がしくなく、かといってその存在感を強くアピールするような音場感を目指しました。
結果、今までは天井で細々と鳴っていたスピーカーが頭上1メートルほどのところに降りてきたような感じになりました。
待合室内にいらっしゃる方は無意識にでも頭上にある音に集中することによって周囲の雑音から遮断されやすくなるため、煩わされにくくなったようにみえます。(今のところは個人的感想の域を出ていないかもしれませんが。。。)
もちろん”音”としての品質向上に関しては言うに及ばず、”モゴモゴ”、”もやもや”して聞こえなかった低域のドラムや高音のハイハットの音がきれいに聞こえるようになりました。ストリングスの空気感というか臨場感も申し分ありません。
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設置したスピーカーは、誰にでも分かりやすい「メリハリのよい音」を奏でる定番メーカー「BOSE」の大型天吊りスピーカー「DS100F」という製品です。
設置しやすさと軽さが重視される店舗用天吊りスピーカーというのは重くとも1Kgに満たない「皿に盛ったライス」のような形状ですが、このスピーカーは重さ約6Kgとヘビー級、幅と奥行がそれぞれ30cmくらいの巨大な代物です。
言うなれば6リットルの”水が満たされた取っ手の外れたバケツ”そのもの。
すごく重いです。(笑)
当然、当院の天井高にはオーバースペックな製品で、納品された箱の大きさにビックリ、こんな大きなものを石膏ボードの軽天井にのせられるのだろうかと心配しておりましたが。。。
下の写真に写っている人物は今回の一連の作業を請け負っていただいた宮下さんです。
この”どでかい”スピーカーを前にして、”やるぞ!”という雰囲気が滲み出ているように見えませんでしょうか。とにかく、延べ3日もかけてこれらを6つも天井に上げて設置していただきました。
当初、スピーカー重量と大きさが予想していた天井強度と設置スペースを上回ってしまったため、メーカー指定の補強材料と施工方法では設置が難しいという状況になってしまいました。
安全かつ音に問題が起きないようにするためには想定外の天井補強が必要になってしまい時間がかかりましたが、作業中にはプロの意地とプライドを随所に見せていただきました。
ご来院の際には待合室でちょっとだけ注意を向けていただいて、しばし流れゆくBGMに耳を傾けていただければと思います。
皆様のご意見をお待ちしております。
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文責:あいむ動物病院西船橋 病院長 井田 龍