しっぽ

皆既月食

2018年1月31日夜、「皆既月食」としてはおおよそ3年ぶり、近年に発生した月食の中でもかなりいい観測条件で日本全国で見られました。
ということで、またまた全く動物病院とは関係ない話題です(汗)。。。
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今回の皆既月食は翌日にはテレビのニュースなどでも頻繁に取り扱われておりましたのでご存知の方はかなり多いのではないかと思います。
実際、今回の皆既月食をご覧になった方は地味でマイナーな印象を免れない天体現象としてはもちろん、月食というなじみ深い現象に限ってもずいぶん多かったのではないでしょうか。
我が家の周りでは、人通りもなくいつもは静まりかえっている寒い夜のはずでしたが、その日だけはあちこちで月食を見ている家族の団欒の声が聞こえていました。
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ところで、今回の皆既月食の何がそんなにいい条件だったかというと。。。
まず、月食の初めから終わりまでがおおよそ21時から3時間、月が赤銅色に染まる「皆既食」がおおよそ22~23時の間と、まだ多くの方が”起きている時間帯”に起きたことです。
月食が深夜から明け方にかけて起こるような場合も多いのですが、確実に翌日に響きますので、かなり気合の入った人しか見ることはないでしょう。何時に始まり何時にに終わるかというのは実は大きな問題です。

また、今回の「皆既食」は1時間17分も続いたため、夕食後にのんびりとその時間帯に空を見上げれば見ることができるという、観察のための時間調整があまり苦にならない皆既月食だったということもあるでしょう。
ちなみに前回2015年の皆既食は今回よりかなり短い12分でした。千葉県船橋市では厚い雲に阻まれて見えませんでしたが、もし晴れていたとしても”ちょっとトイレに行っている間に終わっていた”、などという残念なシチュエーションも充分に考えられます。

さらに、今回の皆既食がちょうど空を見上げるような高さで起きたため、お月様を遮るような障害物に邪魔されずによく見えたことも幸いでした。
月食が低空で起きた場合には建物などが多い場所では観察しにくいものです。
特に月が欠けたまま地平線から出でてくる「月出帯食(げつしゅつたいしょく)」や、欠けたまま沈む「月入(げつにゅう)帯食」など、情景的にはなんとも美しいのですが、都市部で建物が少なく地平線がよく見える場所を探すのはなかなか。。。

つまり、今回の皆既月食はテレビ番組に例えれば”皆既月食”の視聴率が高くなるようなゴールデンタイムに起きたということと、その他にもお手軽に見やすい好都合な条件が整っていた月食だったというところでしょうか。

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ところで最近、何かと満月に対して”〇〇〇ムーン”という何か特別感を醸し出すようなネーミングで伝えるということが、様々なメディアで流行っています。

それに倣えば今回の皆既月食はいつもより大きな満月、”スーパームーン”、かつ1月中の二度目の満月、”ブルームーン”、皆既食による赤い満月、”ブラッドムーン”が重なった35年ぶりのレアな満月という現象となるため、話題性にも事欠きませんでした。
皆既月食という特別な天体現象が時流に乗ってレアな”満月の一形態”に分類されてしまうとはなんとも複雑な気持ちですが。。。

まあ、「スーパー・ブルー・ブラッドムーン」見たぜ!などとSNSで盛り上がって楽しむような、皆既月食という天体現象とはやや趣の異なる裾野の広がりも、またアリなのかもしれません。

本題に戻りますが、下の図が今回の皆既月食の月の位置とその移り変わりを示すものです。
(※)このブログに挿入している写真以外の図や動画は国立天文台、天文情報センターのサイトから転載させていただきました。

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>1月31日皆既月食
国立天文台Youtube(動画)

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ところで、「月食」とは何でしょうか?

お月様はだいたい27日くらいで地球の周りを回っています。
この間に地球から見た太陽との位置関係で月の満ち欠けが起こるのですが、満月のとき、つまり「太陽→地球→月」の並びになった時、たまたま月が地球の陰に入ってしまうことがあります。
つまり満月なのですが、太陽の光が地球が作り出す影により月に当たらなくなってしまう限られた時間に起こる天文現象が「皆既月食」です。(下図)

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>月食とは?(動画)

地球が作り出す影は太陽の反対側に長く伸びています。上図のように、この影は薄い半影と濃い本影からから成っていますが、月が本影に完全に入り込んで隠されてしまう現象が皆既月食と呼ばれる現象の正体です。

月食にはいろいろなタイプがあり、月が本影には入るものの完全に入り込まずに一部が欠けるだけの「部分食」、本影の外側にある淡い半影にしか入らないため、一見欠けていることすらほとんどわからない「半影食」なんていうマイナー現象もあります。

やはり世間やメディアが注目するには、”最低でも皆既月食”でしょうか。。。

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ところで、今回の皆既月食では月が下の図のように地球の本影に入りました。
皆既食の時間が長く観察しやすかったのは、お月様がこの本影の中心に近い部分までそれなりに入ったためで、陰の中心へ入り込む度合いが大きいことを食分が大きいといいます。逆に皆既食が短い場合には食分は小さくなります。

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下の4枚の写真は1月31日、私が千葉県船橋市で撮影したものですが、2時間近く適当に200枚くらいとった中からピックアップした皆既食の最初から最後までの経過、ざっくり4枚です。

まず、左下から段々と欠けてきた部分食がもう間もなく月を隠そうとしている写真です。月の陰になっている部分が次第に赤っぽく見えるようになってきました。
1.JPG

月が完全に本影の中に入って皆既食が始まりました。まだ右上に月の明るい部分が残っています。
2.JPG

皆既食真っ最中、皆既食の最大からやや経過した時点の月で、赤銅色といわれる美しい月の色が何とも言えない変化を見せてくれています。この後、次第に下側が明るくなってきます。
3.JPG

皆既食が終わった直後、月の明るい部分が覗いてきました。この後、月は急速に満月の明るさを取り戻していきます。
4.JPG

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ところで今回、たくさん撮った写真を後で見てみると、そのうちの何枚かに何やら青色の帯のようなものが月の明るい面と赤い地球の陰の間に見えるじゃありませんか。ちょっとブレてしまいましたがおわかりでしょうか。。。下写真の黄色矢印の先)

この青いのは一体なんだろうかとネットで調べてみると、どうやらこれは近年ターコイズフリンジと呼ばれるようになった現象が映り込んだもののようです。

ターコイズフリンジ.jpg 

”ターコイズ”とはトルコ石の”鮮やかな青空色”を表す言葉で、フリンジとは”房飾り”が転じて?この場合には”周辺”とか”外縁”という意味合いでしょうか。

実は、近年のデジタルカメラの普及によって撮影されたデジタル画像においてこのターコイズ・フリンジが頻繁に観察されるようになり、その神秘性も相まって注目される現象になってきたということです。
当初はデジタル画像の処理に伴うものだとかフェイク画像だという指摘もあったようです。その後、2008年にNASAによってその現象が提唱され、ターコイズに例えられる光のスペクトル分析によって実際に起こっている現象であるということが検証されたということです。

ターコイズ・フリンジ現象の原因は地球大気の高層にあるオゾン層を太陽光が通り抜ける際に赤色が吸収された後の青い光が月面に達し、地球の陰を囲むように淡い帯状に見えると説明されています。

実際には地球の青空の色がそのまま投影されている訳ではありませんが、皆既食の一瞬に、”地球の青で月の大地が染まる”というのはとても美しい情景ではないでしょうか。
月面から見ると、地球によって太陽が完全に隠される直前に青から緑、次第に赤色で周囲が満たされていく美しい光景が広がるのではと想像します。。。

デスクの上に、たまたまですが随分前から飾ってあったトルコ石がありましたので撮影してみました。ターコイズブルーとは、このとてもキレイな青空色のことです。

ターコイズ.jpg

次回の皆既月食はなんと約半年後、今年の7月28日だそうで,、明け方の西の空で皆既食のまま月が沈んで日の出を迎える「月入帯食」になるようです。
今回と比べると観察難易度は寒さ対策以外には随分と高くなりそうですが、皆様いかがでしょうか。。。

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文責:あいむ動物病院西船橋 病院長 井田 龍

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