>>>犬鞭虫症とは?
犬鞭虫(Trichuris vulpis)は大きさが6cm前後で虫体が「鞭(むち)」のようにみえる特徴を持った吸血性の消化管内寄生虫です。通常は盲腸に寄生しますが寄生数が増えるに従って結腸(大腸)にもみられるようになり、下痢などの消化器症状を発症します。
都市部ではあまり診断されない寄生虫ですが、当地千葉県船橋市では時折見られます。当院周囲に広がる農地には感染域が点在しており、主に屋外生活の犬に発生します。虫卵に汚染された土壌はこういった感染域となり、環境中から感染源を取り除くことが難しくなるという特徴があります。
なお、この寄生虫は船橋市などでも動物管理センターや船橋市郊外で保護された犬ではよく見られますが、室内犬ではもともと鞭虫自体の糞便検査での検出率が低いこともあり、犬鞭虫症を診断することは稀です。
>>>犬鞭虫症の感染は?
感染は犬の糞便中に含まれる寄生虫卵が経口感染のみによって起こります。口から摂取された寄生虫は食道、胃、小腸を経て盲腸に達して成熟します。糞便とともに排泄された虫卵は2-4週間で感染能力を持ちます。
>>>犬鞭虫症の症状は?
少数の寄生では症状が見られないこともありますが、多数寄生すると下痢、血便、排便時のしぶり等、慢性再発性を示す大腸性下痢の症状がしばしばみられます。
鞭虫感染に気付かず慢性化した場合、診断・治療の難しい慢性腸炎や炎症性腸疾患(IBD)等の慢性腸疾患でみられるものと同様な慢性下痢、脱水、削痩(さくそう)、腸管からの出血による貧血、タンパク漏出による低タンパク血症などがみられるようになります。
つまり、原因のよく分からない慢性腸疾患の一部に犬鞭虫症が原因で生じた慢性下痢が含まれると考えらるため、長期にわたって原因のよくわからない慢性再発性の下痢を起こしている場合、都市部であっても犬鞭虫症を考慮に入れる必要があるでしょう。
>>>犬鞭虫症の診断は?
糞便検査による顕微鏡検査で虫卵を見つけることで診断されます。犬鞭虫卵は下の写真に見られるように、褐色でレモン状の形をを持ち、両端に特徴的な卵栓と呼ばれる「栓のような構造」を持つのが特徴です。
糞便検査での検出率は低く、数多く感染していても糞便検査では見つかりにくい寄生虫として知られており、疑いのある場合には何度も糞便検査を行う必要があります。
>>>犬鞭虫症の治療と予防は?
無症状ないし軽い症状であれば駆虫薬のみ、下痢などの消化器症状があれば駆虫に加えて対症療法で治療を行います.
駆虫薬としてフィラリア予防薬として知られるミルベマイシンや抗線虫・条虫合剤のドロンタールプラス錠(プラジクアンテル、パモ酸ピランテル、フェンバンテル合剤)、線虫駆虫薬のフェンベンダゾールなどが使用されます。
鞭虫は糞便検査による発見が難しい寄生虫です。原因のよくわからない慢性再発性の下痢に対しては念のため鞭虫の駆虫を行った方がよいでしょう。
犬鞭虫症の予防のためには鞭虫卵に汚染された環境の清掃が重要ですが、土壌環境では感染源を取り除くことが難しく、鞭虫は再感染を繰り返します。犬鞭虫の駆虫を行った後もおおよそ3ヶ月毎の定期的な駆虫を行う必要があります。
>>>犬鞭虫症の人間への感染は?
虫卵排泄後10日以上の感染力を持つ犬鞭虫の成熟卵を口から摂取して感染し、腸で成熟する可能性があります。しかし、世界的にも発生数は少ないとされています。
人間にはヒト鞭虫症があります。ご興味のある方は次のリンクをご参照ください。
>>>人の鞭虫症について
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文責:あいむ動物病院西船橋 院長 井田 龍