>>>犬の鉤虫症とは?
犬鉤虫(Ancylostoma canium)は1cm弱~2cmの大きさで、頭部に「鈎(かぎ、こう)」のような構造を持った消化管内寄生虫です。小腸に「鈎を引っかけて」宿主から吸血しながら寄生します。大量に寄生した場合には結腸(大腸)にも見られます。
都市部ではほとんど診断する機会のない寄生虫であり、当地千葉県船橋市でも同様です。当院では過去に、ご近所で同じ生活圏をもつ複数の室内犬から鉤虫が検出されたことがあります。感染地域が船橋市海神地域、海神山周辺の一部にあるのではと思われます。
なお、犬鉤虫は船橋市などでも動物愛護センターや船橋市郊外の屋外で保護された犬では時折見られる寄生虫です。
>>>犬鉤虫症の感染は?
鉤虫感染は他の線虫類と同様に糞便を介した経口感染を起こします。便中に出た虫卵が孵化して感染力を持つ子虫の状態になったものが新たな感染を起こします。鉤虫は食道、胃、小腸に至り、そこで成熟して虫卵を排泄します。
鉤虫は経皮感染という感染経路ももっており、感染力を持つ幼虫が皮膚から体内にち直接侵入して鉤虫感染を引きおこします。経皮感染を受けたものは血液などで運ばれ、肝臓から心臓、いったん肺に侵入して咳で排出されたものがまた口から入り、経口感染と同様に小腸に至ります。
さらに鉤虫は妊娠出産時には母親から胎盤感染や、乳汁感染を起こします。
一部の鉤虫は小腸内ではなく体内に残り、それが小腸への持続的な感染源となります。つまり、駆虫しても数か月~数年間は体内で再感染を生じてしまうという仕組みを持っています。
>>>犬鉤虫症の症状は?
下痢などの消化器症状とともに出血がみられることもあります.上部消化管の小腸からの出血ではタール便がみられ、それよりも下部からの出血では赤色の血便となります.
長期の消化管内出血や消化吸収不良、慢性下痢によって鉄欠乏性貧血や血液中のアルブミンや総タンパクの低下が見られることがあります。こういった症状は仔犬で重症化しやすく、命に関わることもあり得ます。
>>>犬鉤虫症の診断は?
糞便検査による顕微鏡検査で虫卵を見つけることで診断されます。鉤虫は大量の虫卵を排泄するため、比較的発見しやすい消化管内寄生虫のひとつです。
下の4枚の写真はいずれも鉤虫卵ですが、虫卵内容が成熟度合いに応じて1個~32個程度と、外観上はその他の線虫類の寄生虫よりも見かけの変化に富む虫卵です。
>>>犬鉤虫症の治療と予防は?
無症状や軽い症状であれば駆虫薬のみ、下痢などの消化器症状があればそれに応じた対症療法で治療を行います.
駆虫薬としてフィラリア予防薬として知られるミルベマイシンや抗線虫・条虫合剤のドロンタールプラス錠(プラジクアンテル、パモ酸ピランテル、フェンバンテル合剤)、線虫駆虫薬のフェンベンダゾールなどが使用されます。
慢性感染や大量寄生によって重度の貧血、低タンパク血症や低アルブミン血症を起こしている場合には輸血が必要になることもあります。
鉤虫は駆虫されても、腸以外の組織に隠れていた鉤虫が小腸に供給されて再感染を起こすため、さらに予防的駆虫を行う必要があります。こういった再感染は数か月~数年に及びます。また、生活環境の清掃を行って幼虫の再感染を予防します.
>>>犬鉤虫症の人間への感染は?
虫卵が排泄された後1週間以内の犬鉤虫の幼虫がヒトの皮膚から侵入して感染を起こすことがあります。この際に一時的な皮膚炎や皮膚の痒みが引き起こされることがありますが、人間にはそれ以上の病害性を及ぼすことはありませんのでご安心ください。
ご参考までに、人間にももちろん鉤虫症があります。ご興味のある方は次のリンクをご参照ください。
ー>人の鉤虫症、メルクマニュアル家庭版
———————————————-
文責:あいむ動物病院西船橋 院長 井田 龍