>>>犬糞線虫症とは?
犬糞線虫(Strongyloides stercoralis)は体長およそ0.3mmの第一期幼虫(ラブディティス型幼虫)と呼ばれる形態で糞便中に排泄され、この幼虫が 糞便検査で発見されます。排泄後に強い感染力をもつフィラリア型幼虫となります。(*この寄生虫は皆様ご存知の犬フィラリア症とは関係ありません。)
通常は感染して小腸粘膜に寄生し、そこで成熟、繁殖します。
都市部ではほとんど診断することのない寄生虫であり、当地千葉県船橋市でも同様です。環境の悪い密飼いのブリーダーや保護シェルターの犬舎でしばしば見られるため、飼い主の元に来たばかりの犬の健康診断時や下痢を起こして来院した仔犬に発見されることがある寄生虫です。
船橋市などの動物管理センターからの保護犬などに稀に見られることがありますが、室内飼育の成犬で犬糞線虫の診断をすることはほぼありません。
>>>犬糞線虫症の感染は?
糞便中に含まれる幼虫による経口感染と、運動性の幼虫が体の表面から直接体内に入る経皮、粘膜感染があります。また、授乳期の母犬から仔犬への経乳感染も見られます。
糞線虫の皮膚、経粘膜からの感染力は強く、幼虫に汚染された糞便に皮膚や粘膜が触れるだけで感染します。さらに感染犬では自分の大腸にある糞便から粘膜感染を受けるほどです。
>>>犬糞線虫症の症状は?
無症状のこともありますが、軟便や下痢が多くみられます。粘液や血液を含む下痢を起こし、特に授乳期に仔犬が経乳感染を生じたり、免疫力に問題のある犬では重症化しやすく、衰弱したり致死的な経過をたどることもあります。
長期間治療されなかったり大量寄生などの場合に糞線虫が肺組織を貫通して寄生虫性肺炎を生じ、呼吸器症状を起こすことがあります。
左下が胸部レントゲン写真で、寄生虫性の肺炎、気管支炎を示しております。写真のワンちゃんは生後1年弱、糞線虫が治療されていませんでした。右下の写真は正常レントゲン写真です。
>>>犬糞線虫症の診断は?
下の4枚の写真が犬糞線虫の幼虫の糞便検査での顕微鏡写真です。糞線虫は虫体が激しく運動している状態で観察されますが、写真でもその活発な糞線虫の運動がイメージできるのではないでしょうか。
糞便検査で糞線虫の虫卵がみられることもありますが、診断はこの「ラブディティス型」と呼ばれる幼虫が見つかることによってされることがほとんどです。
>>>犬糞線虫症の治療と予防は?
線虫駆虫薬のフェンベンダゾール、フィラリア予防薬として知られているイベルメクチンなどが糞線虫に対して有効性を持つ治療薬です。
>>>犬糞線虫症の人間への感染は?
犬糞線虫は人間に感染する恐れがあり、一緒に暮らしているご家族にとって潜在的な衛生上の脅威となり得ますのでその扱いには注意を要する寄生虫です。
何らかの病気や高齢、小児など免疫力の弱っている場合などでは糞線虫感染が「重篤な病態」の原因になる可能性があるため、家庭内で犬糞線虫の発生があった場合には速やかな駆虫と環境の清浄化が必要です。
ご参考までに、人間にももちろんヒト糞線虫症があります。ご興味のある方は次のリンクをご参照ください。
ー>人の糞線虫について、メルクマニュアル
———————————————-
文責:あいむ動物病院西船橋 病院長 井田 龍