>>>上皮小体(副甲状腺)機能低下症とは?
上皮小体は副甲状腺とも呼ばれ、甲状腺に付着するように左右にある3ミリに満たない非常に小さな内分泌を担う臓器です。上皮小体からは上皮小体ホルモン(パラソルモン、PTH)という、生き物が生存しつづける上で必須のホルモンが分泌されています。
このパラソルモン(PTH)はビタミンDと共に血液中のカルシウムやリンの濃度をコントロールする重要な役割を担っています。
パラソルモンはカルシウムの腸からの吸収と骨からの血液中への放出を促進します。また、腎臓からのカルシウムの排泄や骨へ沈着を抑制して、血液中のカルシウムを上昇させる働きがあります。
このパラソルモンの分泌が、何らかの理由で不足することによって生じる病気を上皮小体機能低下症、過剰になった結果生じるものを上皮小体機能亢進症といいます。
パラソルモンが不足する上皮小体機能低下症は上皮小体の形成不全であったり、原因の特定できない特発性の上皮小体萎縮を原因として若齢~中年齢で発生します。
上皮小体は甲状腺に付着する小さな組織のため、甲状腺腫瘤や周囲の圧迫性の病変によって破壊されたり、甲状腺摘出によって治療したような場合、上皮小体が甲状腺と一緒に除去されたり、外傷などで損傷を受けるなどで発症することもあります。
上皮小体機能低下症の特徴は重度の低カルシウム血症が引き起こす様々な症状としてみられます。
>>>上皮小体機能低下症の症状は?
上皮小体機能低下症によって低カルシウムとなった場合には発熱、パンティング、食欲不振、振戦(ふるえ)、無気力、虚弱や「硬直した歩行やふらつき」などによる運動失調、不穏状態や過敏症、攻撃性、「顔をこする、押し付ける」などの神経骨格筋をはじめとする、さまざまな症状が現れます。
さらに悪化すると痙攣(けいれん)や意識消失から死に至る可能性があります。また、白内障が上皮小体機能低下症の約半数で見られます。
>>>上皮小体機能低下症の診断は?
低カルシウム血症(7mg/dL以下)と高リン血症(6mg/dL以上)が特徴的で、低カルシウム血症であるにもかかわらずパラソルモン値が低値~正常値であれば上皮小体機能低下症と診断できます。
神経や筋肉に影響が及ぶような重度の低カルシウムは上皮小体機能低下症の他に病気としては産褥テタニー(授乳期に大量に消費されることで生じる低カルシウム血症)など限られており、腎機能が正常であるならば、上皮小体機能低下症の存在はその病歴や症状から予想することができます。
>>>上皮小体機能低下症の治療は?
低カルシウム血症による緊急時には低カルシウム血症に対しては注射用のグルコン酸カルシウムを用いて速やかに静脈内投与による治療を行います。
急性期を脱したら、初期には経口カルシウム製剤と活性型ビタミンD3製剤(カルシトリオール製剤)を用いて維持療法を行います。慢性経過をとる上皮小体機能低下症やカルシウム濃度の安定がみられたら経口カルシウム剤をゆっくり減量して、活性型ビタミンD3製剤での維持を行います。これは適切な食事中には充分なカルシウムが含まれているためです。また、高リン血症に関しては別途治療を行います。
適切に治療を行うことができれば上皮小体機能低下症の予後は良好ですが、カルシトリオール製剤など活性化ビタミンD3による治療とカルシウム濃度の定期検査は生涯必要となります。
下記に犬猫の上皮小体機能低下症に関してやや専門的ですが分かりやすいサイトがあります。ご興味のある方はご覧ください。
-> 役に立つ動物の病気の情報~獣医学「上皮小体の疾患」
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文責:あいむ動物病院西船橋 獣医師 井田 龍