>>>トレポネーマ症(ウサギ梅毒)とは?
ヒト梅毒の原因菌となる梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum)の近縁のTreponema paraluiscuniculiによる感染により発症します。ウサギのトレポネーマ症はヒトと同様に交尾感染(性感染)が多いと考えられていますが、親から子供への垂直感染(母子感染)でも発症します。
また、病原菌を保菌していても発症せず、キャリアとなる可能性のある不顕性(ふけんせい)感染となる場合もあります。
こうした症状が見られないウサギにおける抗体検査(後述)による陽性率が35%程度あるという報告もあり、ウサギの感染症としては決して珍しいものではないと考えられます。
トレポネーマ感染後にウサギ梅毒を発症するか否かはウサギの免疫状態や原因菌のトレポネーマの病原性の強さによると考えられます。
ウサギのトレポネーマ症はヒトでの性感染症の梅毒を引き起こす梅毒トレポネーマの仲間であるためにそれを想起させる「ウサギ梅毒」という恐ろしい別名がありますが、この病気は人獣共通感染症ではないため、同居のウサギ以外の動物や飼い主さんに感染することはありません。
ウサギのトレポネーマ症では外鼻孔(鼻の穴)の周囲に発赤や丘疹、浮腫、鱗屑(フケ)、痂皮(かさぶた)、皮膚の糜爛(びらん)、潰瘍(かいよう)などがよく認められます。
口唇や眼瞼(まぶた)、陰部、肛門周囲など、体全体に症状が及んでいるように見える反面、体幹部(胴体)には病変が広がらないこと、皮膚病によくみられるような”痒み”がないことが他の皮膚疾患と異なる特徴です。
>>>トレポネーマ症の症状は?
症状は口唇、眼瞼(まぶた)、外陰部などの粘膜と皮膚が接する粘膜皮膚移行部から病変を形成します。
初期には目の充血と浮腫(むくみ)がみられることが多く、やがて紅斑性の丘疹が出現し、表面に痂皮を形成し、周囲には脱毛がみられることもあります。
下の写真は肛門の周囲(皮膚粘膜移行部)に発生した病変の写真で、痂疲と鱗屑が見られています。
左下写真は眼瞼の病変に伴ってみられる眼脂(めやに)と流涙を示す写真です。(右隣の写真は治療後のものです。)
外鼻孔に症状が出た場合は”くしゃみ”が認められることもあり、その場合はウサギでよくみられるスナッフルなどの上部呼吸器感染症と類似した症状がみられます。この”くしゃみ”はトレポネーマ症を治療することによって改善していきます。
左下の写真は外鼻孔からの鼻汁(鼻水)です。外鼻孔周囲の皮膚が糜爛(びらん)を起こしているのが観察されます。右隣は治療後の写真です。
>>>トレポネーマ症の診断は?
ウサギのトレポネーマ症の診断にはヒト用の梅毒検査に用いられるRPR(Rapid Plasma Reagain)テストキットをウサギで使用することができます。
この検査法は抗体検査と呼ばれるもので、病気が疑われるうさぎの血清にトレポネーマに対する抗体(感染をすることで免疫反応によって体内で作られるタンパク質の一種)が存在するかどうかを簡便に調べるものです。(下の写真はRPRテストキットのイメージです)
ところが、抗体検査では疑わしい症状がみられても抗体検査が陽性とならずに確定診断に至らないケースもあり、確定診断には至らないことがあります。また、保菌していても不顕性感染で症状がない場合にはそもそも検査に至ることがありません。
以上の理由から特徴的な臨床症状によりトレポネーマ症であると疑われる場合には、抗体検査を省いて治療による改善をもって診断とするような治療的診断が行われることもしばしばです。
>>>トレポネーマ症の治療は?
ウサギのトレポネーマ症の多くの例では抗菌薬としてクロラムフェニコールを第一選択薬とします。通常1~2週間で症状が改善していきますが、そこで休薬すると再発することが多いため、病変が消えたあとも最低2週間は治療を継続します。
ヒトの梅毒と同様に抗生物質のペニシリン系薬物も有効とされていますが、その副作用によりウサギのデリケートな腸内細菌のバランス、腸内細菌叢(そう)が乱れてしまう可能性があるため、多くの場合はクロラムフェニコールを用いて治療が行われます。
ウサギのトレポネーマ症は治療後に不顕性感染となり、後に再発するケースもあるため、一旦発症したウサギは交配には用いずに、可能であれば不妊・去勢手術を行うべきかもしれません。
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文責: あいむ動物病院西船橋 宮田 知花