>>>猫ヘルペスウィルス性角膜炎とは?
猫ヘルペスウィルス感染症は猫ヘルペスウィルス1型(以下、FHV-1とします)によって引き起こされる感染症の総称で、いわゆる「ネコ風邪」の症状としてよく見られる上気道炎、鼻炎、結膜炎などを生じます。
こういった角膜に潜伏するFHV-1が猫の角膜炎や角膜潰瘍の大きな原因となります。猫では角膜の病気は起こりにくいものですが、このFHV-1による角膜炎や角膜潰瘍(かいよう)をはじめとする眼疾患の多くに関わっております。猫の角膜には正常に見えるものでも、おおよそ半数にFHV-1の遺伝子が検出されます。その発病のかたちはよく見られる結膜炎をはじめ、樹枝状角膜潰瘍、角膜黒色壊死症、好酸球性角膜炎など治療が難しかったり時間がかかる眼病と多岐にわたります。
>>>猫ヘルペスウィルス性角膜炎の症状は?
角膜に何らかの損傷が起きた場合には非常に強い痛みが生じます。「目が開かない」、「涙が止まらない」、「目をしきりに気にする」というように、痛みや違和感があるということを予想させるような症状がよく見られます。
下写真がFHV-1の感染と考えられる重度の慢性再発性の角膜炎の写真です。「黄色矢印」が褐色に変化した角膜実質、「緑矢印」で示した赤い部分が血管の侵入と周囲の強い角膜炎を示しています。また、広い範囲で白く不透明になっている部分には重度の角膜浮腫がみられています。
この「褐色の角膜」はその後に続く難治性の角膜黒色壊死症につながりかねないものです。
>>>猫ヘルペスウィルス性角膜炎の診断は?
下の写真が猫ヘルペスウィルス感染症による慢性再発性の角膜炎を起こしている猫の角膜染色像です。画面はブルーライトにより、検査のための蛍光物質が鮮やかな緑色に見えています。これは緑色の部分で角膜の構造が壊れていることを意味しています。
「黄色矢印」の先に見える「樹状の染色像」がFHV-1感染による角膜びらんや潰瘍が起きている特徴的な変化です。
最近では、一部の検査会社でこのFHV-1 のPCR法(わずかに存在する遺伝子を増幅させて検出する検査法)による遺伝子検査が可能になり、FHV-1の感染が遺伝子レベルで正確に評価できるようになりました。こういった検査と上の写真のような角膜染色検査によりヘルペスウィルス性角膜炎、角膜潰瘍の診断を行います。
>>>猫ヘルペスウィルス性角膜炎の治療は?
FHV-1の感染が疑われる場合には角膜疾患への対症療法に加えて、ファムシクロビルなどの経口の抗ウィルス薬を用いて治療いたします。こういった抗ウィルス薬による治療は効果的なものではありますが、使用される抗ウィルス薬は一般的に薬価が高く、さらに3か月程度の長い期間がかかるという医療コストの問題があります。
FHV-1をはじめとするさまざまなウィルス感染症による慢性鼻炎、慢性再発性の口内炎や、難治性の眼疾患などでよく併用される猫用サプリメントとしてL-リジン(商品名:メニニャン、メニコン製)は補助療法として有用と思われます。
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〇FHV-1感染と角膜黒色壊死症
角膜黒色壊死症はペルシャやヒマラヤンに多く発生する発症のメカニズムのはっきりしない角膜疾患です。黒色から焦げ茶色に変色して「湿ったカサブタ」のように変化した角膜実質の壊死組織が角膜に付着して、その周囲の強い炎症や痛みなど、特徴的な症状を引き起こす難治性の角膜疾患です。(下写真)
角膜黒色壊死症は何らかの原因による慢性再発性の角膜炎、角膜潰瘍や眼瞼内反などによる被毛の角膜への刺激が原因とされており、猫ヘルペスウィルスによる慢性の角膜潰瘍、角膜炎が深く関係しているといわれています。
治療は外科的に壊死組織を取り去った後、角膜炎ができるだけ再発しないようにコントロールすることです。慢性再発性の角膜潰瘍にFHV-1の関与が疑われる場合にはヘルペスウィルス性角膜炎に対するものと同様な治療を行います。
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文責:あいむ動物病院西船橋 病院長 井田 龍