>>>犬の陰睾丸(停留睾丸)とは?
精巣はもともと雌の卵巣と同じ起源を持つ組織です。犬では10日齢までには精巣が男性ホルモンの影響で陰嚢を目指して卵巣の位置から下降をはじめて、おおよそ8週齢までには陰嚢内へと移動します。この時期を過ぎても精巣が下降してこない場合には陰睾丸であるとか停留睾丸(精巣)と診断されます。
精巣の下降がストップしてしまった部位がお腹の中であれば腹腔内陰睾(こう)、お腹から出て、鼠径部(そけいぶ)の皮下まで移動したものであれば皮下陰睾(こう)とよばれます。腹腔内陰睾と皮下陰睾はほぼ同じ確率でみられます。
陰睾丸の原因は遺伝性と考えられますが、これは発生率において動物種や家系に偏りがあることと、陰睾丸を持つ個体を選別すると発生率が減ることから明らかです。
下降していない精巣は正常な性的機能が期待できません。本来、睾丸は陰嚢の中でなければ正常に機能できません。これは陰睾丸の存在する場所が陰嚢よりも体温が高いためで、精子の生成機能の面では明らかに劣ります。機能低下は皮下陰睾よりも周囲の体温の高い腹腔内陰睾ではより顕著です。ただし、高体温下でも男性ホルモンは分泌されますので性欲は通常は正常に見られます。
犬では下降していない精巣は正常なものと比べて腫瘍の発生がおおよそ13倍にもなります。精巣腫瘍自体の発生率は正常な精巣でも高く、精巣腫瘍の発生率という意味から停留精巣は非常に大きなリスク要因となっています。
左下の写真は腫瘍化した鼠蹊部の皮下停留精巣です。赤矢印の間に大きく腫瘍化した陰睾丸がみられます。右下写真は摘出した腫瘍です。右側の正常な精巣と比べて巨大な腫瘤となっているのがお分かりでしょうか。腫瘍は精細胞腫(セミノーマ)でした。
上記のような皮下陰睾丸の腫瘍はその発見は比較的容易ですが、腹腔内の陰睾は腫瘍化した場合でもかなりの大きさになるまで発見できないことが多いものです。腹腔内陰睾の場合には早期に摘出してしまうか、腫瘍が起こりやすい年齢に達したら定期的な検査を行うことが必要ではないでしょうか。
>>>犬の陰睾丸(停留睾丸)の診断は?
鼠蹊部の皮下陰睾であれば触診で容易に診断できることが多いですが、鼠径部の脂肪組織により、皮下の陰睾丸が埋もれてしまっていて触診できず、腹腔内陰睾との区別が難しい場合があります。陰睾丸が触診できない場合には超音波検査を実施して、発見しにくい鼠蹊部皮下の陰睾丸、または腹腔内の陰睾丸を診断することができます。陰睾丸のある位置は一定しませんので超音波検査によりその位置と大きさを事前に把握しておくことは手術時間の短縮につながります。
>>>犬の陰睾丸(停留睾丸)の治療は?
停留精巣の犬は繁殖には用いないという原則と、精巣腫瘍の発生リスクを下げるという目的から早期の去勢手術が行われます。皮下陰睾丸の摘出は比較的容易ですが、腹腔内陰睾の場合には開腹手術が必要になります。
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文責:あいむ動物病院西船橋 病院長 井田 龍