>>>ウサギのブドウ膜炎とは?
ぶどう膜炎というのはあまりなじみのない用語ではないでしょうか。ぶどう膜は眼球を内貼りする構造ではありますが、実際にぶどう膜という「膜」があるわけではなく、眼の中にある水晶体周辺にある「虹彩」,「毛様体」,「脈絡膜」という3つの部位で構成されるエリアをそのように呼称します。
下の写真は左が眼球を真横から見たもの、右がそれを拡大して斜め内側から瞳孔(瞳の部分)を見たイメージです。三つの星印がそれぞれ虹彩(黄色星印)、毛様体(青星印)、脈絡膜(緑星印)の位置関係を示しています。中心にある透明な円盤状構造が水晶体(レンズ)です。
「ぶどう膜」を構成する3つの組織は眼の中への血液や栄養の供給やさまざまな目の機能を担っています。
虹彩はカメラの「絞り」としての機能を持ち、光の強さによって瞳孔(瞳の大きさ)を調節する働きを持ちます
毛様体は水晶体を囲むようなリング状の組織で、栄養供給と代謝を行う眼房水とその圧力(眼圧)をつくりだして目の大きさと機能を保つ働きがあります。
脈絡膜は眼の奥に広く広がる薄い膜状の組織で、隣り合う網膜などに栄養供給と代謝を行う働きをしています。
ぶどう膜炎とは上記のエリアに起こる炎症のことを指しますが、「ぶどう膜炎」は人間の眼科では「内眼炎」ともいわれ、いわゆる目の中に炎症を起こす病気の総称となっています。
ぶどう膜炎はその発生部位により、黄色と青星印の部分に起こる前部ぶどう膜炎(虹彩毛様体炎)と緑星印の部部に起こる後部ぶどう膜炎(脈絡膜炎)、それらが一緒になった汎ぶどう膜炎に分類されます。
ぶどう膜炎の原因は感染、外傷、免疫性、腫瘍、他の眼の病気からの波及などと多岐に渡り、治り難い目の病気のひとつです。
ウサギのぶどう膜炎の原因として特徴的なものは細菌や寄生虫による感染によって生じるぶどう膜炎です。ウサギでの常在菌でスナッフルをはじめとする、さまざまな感染症の原因となりやすいパスツレラ(Pasteurella multocida)や幼若なウサギが母親から感染する寄生虫のエンセファリトゾーン(Encephalitozoon cuniculi)は原因として特に注意すべき病原体です。
その他の原因には何らかの外傷、異物による穿孔(穴が開くこと)、慢性の眼疾患によって引き起こされるものや腫瘍などが考えられます。
>>>ブドウ膜炎の症状とは?
感染性のものでは虹彩の脹れや「白色の結節」がよく見られます。急性期にはぶどう膜炎に伴う結膜充血、縮瞳(瞳孔が小さくなって固定化すること)、房水フレア(元々透明な前眼房が濁ること)、眼圧低下、経過が長くなり慢性化した場合には二次性の白内障や虹彩角膜癒着、逆に眼圧の上昇を起こして緑内障などの危険を生じます。
>>>ブドウ膜炎の診断は?
結膜充血や光を通過する部位の中間透光体(眼房水、角膜、水晶体、硝子体)の評価、虹彩の脹れや構造変化をスリットランプ(下写真)などによる眼検査により詳細に観察します。可能であれば眼圧を測定して診断します。
注意すべきパスツレラ感染では併発症の有無、エンセファリトゾーンによる感染症の判断には発症年齢を考慮して診断を行います。血清学的に血液中の抗体価を測定することが診断を補助することができるかもしれません。
>>>ブドウ膜炎の治療は?
ぶどう膜炎治療の重要な目的は眼内に生じた炎症を速やかに消失させ、この内眼炎による変化を最小限にすることです。この理由は炎症によって眼内が構造的、機能的に破壊されてしまうと、それに続いて緑内障や網膜剥離、虹彩癒着、二次性白内障など後戻りできない変化が連鎖して引き起こされてしまうためです。
ぶどう膜炎を抑えるためには全身投与、点眼薬のプレドニゾロン等の副腎皮質ステロイド製剤を必要に応じて使い分けますが、ステロイドの投与が難しい場合にはそれを代替してメロキシカムなどの非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)を全身的投与することもあります。ジクロフェナクナトリウム等の非ステロイド系抗炎症薬も点眼薬として使用されます。
ぶどう膜炎に対する治療と同時に、ウサギでは頻度の高いパスツレラ等の細菌感染が疑われるようであれば広い抗菌スペクトラム(幅広い菌腫に対して効果を持つこと)の抗生物質を選択し、重症度に応じて全身投与と点眼を組み合わせて治療します。
また、エンセファリトゾーンによるぶどう膜炎が疑われる場合にはフェンベンダゾールなどのベンゾイミダゾール系の抗原虫薬を使用します。
ぶどう膜炎の合併症には虹彩癒着、緑内障などの治療の難しい眼疾患が起こりやすく、その維持・管理は難しいものですが、早期に診断・治療することによってこういった合併症を回避して眼の健康を保ち続けることがぶどう膜炎の治療の目標となります。
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文責:あいむ動物病院西船橋 病院長 井田 龍