>>>犬の上皮小体(副甲状腺)機能亢進症とは?
上皮小体は副甲状腺とも呼ばれ、甲状腺に付着するように左右にある3ミリに満たない非常に小さな内分泌を担う組織です。上皮小体からは上皮小体ホルモン(パラソルモン、PTH)という、生き物が生存しつづける上で必須のホルモンが分泌されています。
このパラソルモン(PTH)はビタミンDと共に血液中のカルシウム濃度やリンの濃度をコントロールする重要な役割を担っています。
パラソルモンはカルシウムの腸からの吸収と骨からの血液中への放出を促進します。また、腎臓からのカルシウムの排泄や骨へ沈着を抑制して、血液中のカルシウムを上昇させる働きがあります。
このパラソルモンの分泌がさまざまな理由で過剰になった結果生じる病気を上皮小体機能亢進症、不足することによって生じる病気を上皮小体機能低下症といいます。
パラソルモンが過剰となる上皮小体機能亢進症には上皮小体そのものに問題のある原発性上皮小体機能亢進症と、カルシウム代謝の破綻を原因として二次性に起こる、栄養性や腎性上皮小体機能亢進症があります。
上皮小体機能亢進症は原発性と二次性、腎性か栄養性によっても病気が発生するしくみとその症状、診断・治療の進め方が全く異なるため、異なる病気ととらえた方がよいかもしれません。当コラムでは原発性と二次性の上皮小体機能亢進症を分けて説明しています。
上皮小体機能亢進症の3つのカテゴリーの説明は下の段落に示しました。
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〇原発性上皮小体機能亢進症
の原因は、高齢犬でまれに生じる上皮小体そのものの腫瘍性増殖などにより、パラソルモンの分泌が過剰になり生じるもので、持続的な高カルシウムを特徴とします。
〇二次性・栄養性上皮小体機能亢進症
カルシウムが少なくリンの多い、またはビタミンD欠乏を起こすような不適切な食餌や、活性型ビタミンDの不足にって持続的な低カルシウムによってパラソルモンの過剰分泌が引き起こされたものです。
ビタミンDは、カルシウムやリンの代謝を調節する上でホルモンのような役割を持つ物質です。ビタミンDは植物由来のビタミンD2(エルゴカルシフェロール)と動物由来のビタミンD3(コレカルシフェロール)からなる物質の総称です。
食物から摂取されたり、体内でつくられたビタミンDは肝臓や腎臓で代謝を受けて活性化してその機能を発揮します。活性型のビタミンDはカルシウム、リンの腸からの吸収を促進して尿への排泄を減らします。また、骨に含まれるカルシウムを血液中に放出させてカルシウム濃度を高める働きがあります。
人間では「日光浴不足」がビタミンDの不足を起こすことが有名ですが、それはビタミンDは食物から吸収されるもの以外に、紫外線によって皮膚でつくられる主要な経路を持つためです。犬猫では日光浴がビタミンDをつくる仕組みに占める割合はわずかで、食物からほぼ全てのビタミンDを補給する必要があります。
〇二次性・腎性上皮小体機能亢進症
慢性腎臓病に続いて生じる上皮小体機能亢進症です。
腎機能不全の進行に伴って、リンの排泄がうまくできずに体にはリンが蓄積してきます。リンとカルシウムにはシーソーのような調節関係があり、高リンの持続によって体には低カルシウム方向への圧力がかかります。また、腎機能不全によって腎臓でのカルシウムの再吸収がうまくできずに尿中に失われ続けることによっても同様なことが生じます。
こうした低カルシウムへの圧力を打ち消すためにパラソルモンが過剰に分泌され続けることで生じるのが腎性上皮小体機能亢進症です。栄養的な問題や腎不全によって二次性に起こる上皮小体機能亢進症では原発性のものとは異なり、高カルシウム血症は見られません。カルシウムの値は正常か、むしろ低下します。
>>>二次性上皮小体機能亢進症の症状は?
病気が長期間に及ぶと体のカルシウム量の需要を補うために、骨が壊れてカルシウムが脱出してしまい骨量から骨が弱くなり、病的骨折が生じやすくなります。
二次性の腎性上皮小体機能亢進症の場合にみられる症状はその大部分が原因となっている腎臓病によるものです。腎機能不全にる水分保持機能の喪失、尿毒症性物質の蓄積、カルシウム、リンなど塩類の代謝異常、腎性貧血などによってさまざまな慢性消耗性の変化が起こります。脱水、多飲多尿、削痩、元気食欲低下、消化器症状など多岐にわたります。
>>>二次性上皮小体機能亢進症の診断は?
犬では原発性上皮小体機能亢進症が稀な上皮小体腫瘍を原因とすること、二次性の栄養性上皮小体機能亢進症も通常の飼育状態での発生は稀なものですから、上皮小体機能亢進症は実質的に、慢性腎臓病によって二次性に発生する腎性上皮小体機能亢進症によるものといっていいでしょう。
つまり、慢性腎臓病が診断された場合にはこの二次性腎性上皮小体機能亢進症を念頭に置く必要があります。
腎性上皮小体機能亢進症はその原因となっている慢性腎臓病が診断されており、カルシウム濃度の異常やそれに伴うパラソルモンの高値で診断されます。カルシウムやリンや可能であればパラソルモン、マグネシウムの測定を定期的に行い、カルシウム・リン代謝のモニタリングをいたします。
二次性の腎性、栄養性上皮小体機能亢進症ではリンは上昇しやすく、カルシウム値は上皮小体そのものの異常で起こる原発性上皮小体機能亢進症のように高カルシウム血症(リンは低下)ではなく、正常かむしろ低下します。
>>>二次性上皮小体機能亢進症の治療は?
腎性上皮小体機能亢進症の治療は元になっている慢性腎臓病(慢性腎不全)に対する輸液による脱水や電解質の改善、摂取カロリーの維持などの対症療法をはじめとして消化器症状、腎性貧血などのさまざまな合併症の管理を行い、まずは全身的な症状の改善を図ります。
高リン血症の有無によらず食事中のリン摂取制限やリン吸着剤の投与を行い、カルシウム・リン代謝の正常化を図ります。また、低カルシウムであればカルシウム剤や活性型ビタミンD3製剤(カルシトリオール等)も合わせて実施して、カルシウム代謝の正常化を図ります。
二次性腎性上皮小体機能亢進症は慢性腎臓病(慢性腎不全)の管理の上でもとても重要な疾患です。過剰なパラソルモンは腎臓への悪影響を生じ、慢性腎臓病でみられる症状をさらに悪化させてしまうという悪循環を引き起こします。
つまり、腎性上皮小体機能亢進症の治療を行うことによってパラソルモンの分泌を抑制できれば慢性腎臓病の症状の改善、さらには腎臓病そものの進行を抑えることが可能です。
栄養性上皮小体亢進症では、原因となっている食物の中止と、カルシウム、リン、ビタミンDをバランスよく摂取できる適切なペットフードへの切り替えを行います。
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文責:あいむ動物病院西船橋 病院長 井田 龍