>>>犬の精上皮腫(セミノーマ)について
犬でみられる精巣の腫瘍は生殖細胞の腫瘍である精上皮腫(セミノーマ)、生殖細胞を支持する組織(性索や性腺間質)の腫瘍であるセルトリー細胞腫、間質細胞腫(ライディッヒ細胞腫)の3種類が知られており、これらの腫瘍が同時に生じる混合腫瘍のタイプもあります。
このうち、間質細胞腫が精巣腫瘍の4割と最も多く、精上皮腫、セルトリー細胞腫(下記リンク)が次いで多くみられます。
精巣腫瘍・精上皮腫は陰睾丸(停留睾丸)である場合、その発生率が高くなる傾向があります。これは停留睾丸が正常な精巣よりも長期間、高体温に晒されるためと考えられます。精上皮腫のうち、おおよそ3割超がこうした潜在精巣で生じます。
精上皮腫はその多くが良性の挙動をとりますが、おおよそ10%超の確率で転移を生じます、主に局所リンパ節がそのターゲットになりますが、少ないながら肺やその他の臓器に転移することもあります。
>>>精上皮腫(セミノーマ)の症状は?
精上皮腫は正常な陰嚢内精巣に発生したよりも、鼠径部(そけいぶ、足のお腹側の付け根部分)の皮下の陰睾丸から発生したものはより大きくなりがちですが、小型犬で5センチ以上に及ぶものであっても腫瘍そのものの圧迫や痛みで症状を示すことはほぼありません。
また、お腹の中の陰睾丸から発生した精上皮腫もそういった傾向がありますが、大きさを増してくるにつれて周囲にある消化管などの臓器を圧迫して痛みや消化器症状など何らかの症状を発生させるかもしれません。
一部の精上皮腫にはセルトリー細胞腫でよく見られるような雌性化(しせいか、オスでありながらメスの特徴を持つようになること)が稀にみられることがありますが、これは混合腫瘍、または別々に同時発生して潜在しているセルトリー細胞腫の影響の可能性を否定できません。
>>>精上皮腫(セミノーマ)の診断は?
大きさを増した陰嚢内精巣や鼠径部の皮下陰睾丸がみられれば、精上皮腫をはじめとする精巣腫瘍を疑うことができます。正常な陰嚢内精巣に発生した精巣腫瘍の場合には精巣の左右の大きさの違いを感じる程度でしかないものが多く見られます。
一方で鼠径部の皮下や、お腹の中の陰睾丸(停留睾丸)のものは正常な精巣よりもかなり大きな腫瘤になることがあります。
また、精巣腫瘍はお腹の中の陰睾丸の場合には症状もなく、大きくなるまで見つからないことがほとんどですので、超音波検査はお腹の中の腫瘤や腹腔内のリンパ節や臓器への転移の有無を確認するために必要な検査です。
健康診断や尿検査の際に超音波検査で偶然発見されることも多くみられるため、お腹の中の陰睾丸が摘出されていない場合には中高齢期以降では定期的な陰睾丸のチェックが必要です。
精巣腫瘍が疑われる場合、針生検による細胞診を行うこともありますが体表面から明らかにそれと確認できる精巣腫瘍は異常な睾丸を取り去ってしまえば腫瘍を完全摘出できることが多いため、診断は手術後の病理検査でなされるのが普通です。
なお、お腹の中の腫瘤が精巣腫瘍かどうかを事前に鑑別するためには針生検は有用です。
>>>精上皮腫(セミノーマ)の治療は?
精上皮腫を含む精巣腫瘍は巨大な腫瘤になったもの、腹腔内で大きくなったもの、転移病巣があるものを除き、通常の去勢手術に準ずる方法で完全摘出が可能であり、合併症のない多くの腫瘍を治癒させることがでます。
下の2枚の写真は鼠径部の皮下の陰睾丸に発生した精上皮腫(セミノーマ)です。左写真はで画面上のペニスの脇、赤矢印の間に腫瘤による大きな隆起がみられます。腫瘍化した睾丸を摘出したものが右写真で、診断は良性の精上皮腫でした。精上皮腫は「中~大型化の柔らかく表面に凹凸の少ない腫瘤」を特徴とします。写真では、摘出したおおよそ5センチの腫瘤と比較して、右の正常な睾丸は萎縮しているのが分かります。
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文責:あいむ動物病院西船橋 病院長 井田 龍