診療コラム
#猫バンバン
いつの間にかもう師走ですね。
今年の冬は多少過ごしやすいのでは?とは思いますが、それでも冬真っ盛りとなって参りました。
連日、寒さが続いて外に出るのもちょっと億劫になっている方も多いのではないでしょうか?
もちろん、屋外生活の猫たちにも、我々よりさらに過酷なかたちでその季節が訪れています。
この季節、屋外生活の猫はできるだけ暖かく安全そうな場所を探し回り、そうした場所に身を潜めていることでしょう。(下の写真は近所の駐車場の常連さん達です。)
ところで、ドライバーの皆さん、車に乗ろうとドアノブに手をかけた途端に車の下から猫が慌てて飛び出してくるのはよく目にする光景だと思います。突然ですからびっくりしますよね。
車体の陰は猫の外敵から身を隠しやすい場所であり、特に冬季には車の余熱が残る場所は寒さしのぎの避難先にもなっていることはご存知の方も多いでしょう。
”エンジンがかかれば、猫は逃げちゃうでしょ?”
もしかしたら、多くの方は漫然とそう思っているのではないでしょうか?
まさか、エンジンルームに猫が入っているなんてことが想像できず、エンジンをかけている方がほとんどなはずです。毎日、膨大な数にのぼる「まさか」のうちの幾つかが悲劇を生み、その都度ひとつの命が危機に見舞われています。
獣医師であればすべてといっていい程、こうした悲劇の猫たちの姿を多かれ少なかれ必ず忘れ得ない記憶として残しているものです。
エンジンルームの隙間でタイミングベルトなどに巻き込まれて動物病院に運ばれてくる猫の状況は一般の方にはまさに正視に耐えない状態であることも数多く経験します。
生後、まだ数か月程度の子猫の被害が目立つのですが、仔猫は体が小さいため狭い隙間に入りこみやすいということと、まだ経験が少なく車の危険性を学習できずに逃げ遅れるなどの理由からではないでしょうか。
統計などありませんが、病院に連れて来られることもなく、もしくはその場で犠牲となっている猫はかなりの数に上ることは間違いありません。
動物病院にいらっしゃる自動車修理関係の飼い主さん達からは、猫がエンジンに巻き込まれて持ち込まれる車両は多いという話を実際に何度も聞いたことがあります。
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社会の片隅に埋もれてしまっているこのような実態に対して、我が国を代表するグローバルメーカーの日産自動車が光を当て続けています。
この日産自動車が推進するCSR(企業の社会的責任)事業の一環?だろうと思うのですが、私たちの生活に身近な猫の悲劇を防ぐために継続的な啓発活動を行っていることを皆様はご存知でしょうか。
毎年、冬季に日産自動車のホームページやSNSなどでそのような啓発を見かけた方もそれなりにいらっしゃると思います。
「猫バンバン」という標語は、車のエンジン始動の前にボンネットを”バンバン”して猫をエンジンルームから追い出す行為を指します。広い意味では車体の下やタイヤハウスなどの物陰に潜んでいる猫に”危ないぞ”というサインを送って、猫を危険から遠ざけましょうという意味合いも含むものと思います。
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実際にはボンネットなど車体をバンバンしたり、ドアの開閉を繰り返したような場合には猫が恐怖を感じてさらに奥へと逃げ込んでしまうという指摘もあるのは確かです。
最終的ににボンネット開けてエンジンルームまでしっかりと確認する必要もあるのかもしれませんし、それでも見つからない場合さえあるようです。
エンジンルームなんて滅多に見ないといというユーザーも多い中、そうした可能性の問題まで対策を求めると「猫バンバン」自体のハードルがとても高いものになってしまいますからそれは考えものです。
完璧を期すのはなかなか難しいものですが、少なくともこうした事実や最低限取るべき行動を多くのドライバーがシェアすれば、全てではないものの痛ましい事故が多少は減る方向には向かうのではないでしょうか。
不充分かもしれないけれど、とにかくやってみましょうということはとても大事なことです。
ー>「猫バンバン」とは?(Wikipedia)
企業が収益と一見無関係にみえる事業を行うことを単なるイメージ戦略のひとつといえばそれまでですが、大小の社会への貢献を表明するために多くの企業がそういった事業を行うご時世です。
社会貢献を行う企業から消費者へのメッセージは誰もが受け入れらえれ、わかりやすく印象に残るものでなければならないでしょう。
そういった意味で「猫バンバン」という目を引く猫のアイコンとワンフレーズによる、インターネットを賢く利用した啓発活動を選んだ日産自動車の着眼点には素晴らしいものがあると思います。
多額の費用をかけずとも、痛ましい猫の死への世間の認知度を上げるという社会貢献も果たしつつあるでしょうし、自社のイメージアップにもそれなりに成功したのではないでしょうか。
さらに今後の展開として「猫バンバン」という呼びかけだけに留まらず、車のあり方に関わるような何かより実効性のある対策があれば文句なしの出来栄えとなるでしょう。
残念ながら車側のコストアップにつながるような対策のハードルはけた違いに高いと言わざるを得ませんが、それはその時点で動物愛護の視点の問題ではなくなるということでしょうから致し方ありません。
「猫の侵入による外的要因による故障」が車の品質問題だという認識が消費者、それも世界的に起こらない限りはコスト競争に血眼になっている製造業にその選択をさせるのは難しいのは確かなことでしょう。
まあ、購入の際にディーラーオプション品として、猫の侵入を防ぐような装置などがあれば、「猫バンバンプロジェクト」と合わせて日本国内ではそれなりの需要はあるかもしれませんが。。。
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この「#猫バンバンプロジェクト」に好意を感じるような潜在顧客層は普段から猫に何らかの愛情や関心を感じているか、それが昂じて猫を飼っているという社会全体から見ると多いとはいえ限られた人々と言えるでしょう。
猫好き脳のフィルターを通して見ると、そんなことないのでは?と感じるかもしれませんが、実際には猫の飼育世帯率はわが国では昨今の「ネコノミクス」などという造語の話題性にも関わらず世界的に見ても低いわずか9.9%でしかありません。
(2016年、一般社団ペットフード協会調査による)
一方で、さまざまなレベルの「猫嫌い」は猫好きな層に対して無視できないほどの割合で存在していると思われます。そうした無関心以下の層に対してはこのプロジェクトは訴求力はおろか、場合によって嫌悪感さえ生じかねません。
また、さらにこの話題は猫好きに対しても、かわいらしい猫のキャラクターに隠れて表立っては表現されないものの、車という自社が製造しているプロダクトが引き起こす可能性のある猫の死などの凄惨性の強いネガティブなイメージを伴っています。
強調しすぎれば、なんでも他責の世の中(特に企業には)ですから、藪蛇的にあらぬ方向から話が自社製品の問題に及んだり、なぜ対応をユーザー任せにするのか?などという責任の一端を負わされかねない、なんてこともあるかもしれません。
とりわけ猫にシンパシーのない層にとっては迷惑な猫によって大事な車の価値が損なわれたり、事後処理や故障への金銭的、精神的負担を生じる可能性のある問題でもあるわけですから。。。
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このプロジェクトが、その受け手によるマイナス面を持っているのかどうかは実際には分かりません。
いずれにせよ日産自動車が事故に巻き込まれる猫に自社プロダクトが関係する可能性がある、という微妙なリスクをとりつつこうした活動を継続的に行うということは意義深いものがあると思います。
万人受けを狙うばかりに「木を植える」ような優等生的な活動が人や資金の投入に見合わずイメージ戦略としていまひとつであったり、差別化できずに金太郎飴的に埋もれてしまったりとイメージづくりとはなかなか大変なものでしょうが、「猫バンバン」がターゲット層に与える印象はそうしたものとは対照的です。
日産自動車の判断はココと決めた層には非常に分かりやすく強い印象を残すことができるという点でイメージ戦略とはこうあるべき、といういいお手本といえるのかもしれません。
今後の展開としてあるかどうかわかりませんが、もし、こうした取り組みがメーカー1社にとどまらず業界全体に、さらに異業種などをと巻き込んで起これば「我々、猫が好きでたまらない層」に留まらず、ちょっとだけですが世の中が明るくなるような気がいたします。。。
今年も「#猫バンバン」プロジェクトは継続されているようですので、微力ながら応援させていただきたいと思っております。
何やら余談が長くなってしまいましたが、さて、皆様いかがお感じになるでしょうか?
ご興味のある方はぜひ下のリンクをぜひ訪れてみてください。
ー>「のるまえに猫バンバン」
(日産自動車のサイトへリンクします)
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文責:あいむ動物病院西船橋
病院長 井田 龍
”狂犬病予防”とは何か?
はじめに。。。
ワンちゃんと生活している方にとっては、春先のこの時期にお住いの自治体から郵送されてくる、毎年同じ「狂犬病予防接種のおしらせ」を手に取ることが一年の節目?のようになっている方は案外多くいらっしゃるのではないでしょうか。。。
今回はあまりにありふれていて、飼い主さんも時として獣医でさえ、それぞれの立場でなんとなく分かっているつもりでいる狂犬病とその予防について、余談も含めていろいろと書いてみました。
皆さまは、「狂犬病予防」と聞いて何を思い浮かべますか?
もしかすると、世間一般的には、”公園に飼い主さんと犬がワイワイと集まって、獣医さんが次々と打つアレでしょ?”などという、狂犬病予防の集団接種の会場の風景が頭に浮かぶというものかもしれません。
実際に、狂犬病がいったい何なのか、何で問題になるのかがよく分からないという方が多いのではと想像します。
ワンコとの生活が長い方でも、狂犬病はとても怖い病気らしいということは分かるけれども、もう日本にはないはずなのに、”なぜ?”予防接種をしなきゃいけないのだろうと毎年、なんとなく続けていらっしゃる方が多いかもしれません。
狂犬病は半世紀以上も昔に国内から撲滅された感染症です。
もはやその病気を実体験として知る方は非常に少なくなり、戦後の出来事と同様に人々の記憶からは消え去ろうとしています。日ごろから予防行政に関わっている私たち獣医師にとっても、狂犬病は既に”教科書の中の伝染病”となって久しく、この病気への関心は高いとはお世辞にも言えません。
ちなみに私(筆者、50代)も当然この病気の実体験は当然ありません。
小さい頃に祖母から狂犬病についての逸話や生家の周りで以前あったという「野犬狩り」の話を聞かされたことがある程度です。地元は横浜のはずれでしたが、まだ野犬が出るから危ないと伝えられている場所があったと子供心に記憶しています。
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ところで上記の、なぜ狂犬病予防?”、というくだりの答えは「狂犬病予防接種」とそれに伴う自治体への「畜犬登録」、「鑑札を着けること」は犬を飼育するに上で飼い主の義務となっているからです。(答えになっていないかもしれませんが敢えてこう書きました。)
この義務というのはやった方がよいという努力目標などではありません。それは我が国で犬を飼育する上で狂犬病予防法による法律的な義務を誰であろうと負わなければならないからです。
では、同じように生活している猫は?ウサギやハムスターは?。。。
もちろん、犬以外の動物を飼う上での法律上の義務はありません。
では、なぜ犬だけなのでしょうか?
それは、人間の生活圏で起こる都市型の狂犬病は犬をはじめとする人との関係の深い動物がもたらす伝染病であるためです。かつて日本国内で流行した狂犬病は犬が人にもたらす病気としての特徴を強くもっていました。
戦後に流行した狂犬病は、犬の登録義務や予防の実施のみならず、病気を発症した疑いがある犬はもちろん、野犬など感染の可能性のあるのものを排除することで撲滅に成功しました。我が国の法令や義務的予防接種のしくみはこうした歴史の延長線上にあるものです。
ところで、この狂犬病予防法に違反した場合には罰金、さらに起訴や拘留に至るまでの重い処罰の対象となる可能性があります。
ご参考までに、法律に定められた飼い主の義務に違反した場合には「20万円の科料」となっており、これは「予防接種をしなかった」だけではなく、単に「鑑札を着けていなかった」ことにも及びます。
いかがでしょうか?随分と重いと感じられたはずです。
実際にはかなりの方が法律違反を犯しているのではと推測できますが、その実態は「あまり取り締まられない交通違反」のようなものです。
つまり、”ノルマを課してまで”熱心に違反を取り締まる警察に比べると、狂犬病予防法を管轄する行政の姿勢が各自治体ごとにバラバラで総じて鈍いためです。
狂犬病予防法の義務や罰則がやや重く感じるのは、狂犬病の制圧を求められていたという法律の制定時の時代背景もありますが、この法律がいつか起こるかもしれない狂犬病の発生という”緊急事態”を想定したものであることもその理由のひとつでしょう。
狂犬病が発生していない”平時”の行政の取り締まり姿勢が”意図的に緩い”のもそういう理由かもしれません。
ちなみに当院は千葉県船橋市と市川市からの患者さんが大部分を占めますが、市境にお住いの患者さんの話よると未接種世帯への督促は、市川市>>船橋市のようで、”お隣なのに船橋は緩くて、市川は厳しい”という意見がよく聞こえてきます。
市境を家一軒分跨ぐだけで自治体の対応が違うというのはどうなのかと正直思いますが、こうした行政側の都合が法律の順守を曖昧なものにしている点は否定できません。
罰則を伴う法律の運用が自治体によりまちまちで「行政の一部門のヤル気に依存する」というのはどうも困ったものです。。。
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ちょっとここで一旦、法律的な問題は横に置いておくことにしましょう。
日本国内での犬の咬傷事故は届け出だけで年間6000件はくだらないだそうです。この数字をぱっと見ると何やら少ないような気もしてきますが、実際のところはよく分かりません。
ところで、こうした事故の際に、予防をしていない犬がもし他人を噛んだりケガをさせた場合、またはその疑いをかけられた場合、狂犬病未接種だった場合には意外なリスクが潜んでいることをご存知でしょうか?
以前、通りすがりに足首に歯が当たったということからトラブルに巻き込まれた、おとなしい小型犬の例を経験したことがあります。そうしたまさに貰い事故みたいなものであって、仮に加害者に非がない場合でも狂犬病予防を怠っていた場合には、それはもう法律違反ですから、その一点で加害者の立場はより悪くなるわけです。
咬傷事故を起こしたと申し立てられた加害者の飼い主さんは、噛んだ犬が予防をしていない場合には狂犬病に罹っていないことを獣医師の診断を何度も受け、費用、労力、時間をかけて証明してもらわなければなりません。
この作業を狂犬病鑑定といいますが、獣医師は時折、咬傷を起こしてトラブルに巻き込まれている飼い犬の鑑定依頼を受けることがあります。私が過去に依頼を受けた加害者の方が狂犬病予防接種をしていないという落ち度により、賠償などに関して不利な立場に追い込まれているケースを何度も見てきました。
本末転倒な話ですが、”狂犬病予防をしていない”ということは法律違反であるということだけに留まらず、犬との生活に潜む予想外のリスクを高める可能性があることも知っていただければと思います。
狂犬病予防のシーズンになると、動物病院の診察室では、”うちのタロー、もう10歳だから狂犬病予防接種は受けさせたくないんだけど、大丈夫ですよね?”、”かわいそうだから狂犬病予防をしないようにできる書類をもらえませんか?”などという話が毎年、繰り返されるものです。
私自身、室内飼育の老チワワの飼い主の1人ですから、こういった飼い主さんの心情は個人的にはとてもよく理解できますが。。。
”狂犬病予防接種をやりたくない”というご相談には獣医師として、ことあるごとに予防の義務を丁寧に説明を申し上げるのですが、なんだか納得いかないという気持ちを投げかけられることも少なからず経験いたします。
インターネット上でも「個人的事情」をはじめとする不要論、業界利権だとか「副作用で多数が犠牲になっている」などのデマに至るまで様々なものがみられます。
否定的なものの一部にはページビューやアフェリエイト等のために注目されやすい極論で煽るようなサイトも見受けられますが、こうしたことも含めて現行の狂犬病予防の運用の仕組みを不満に感じている方がそれなりの数いらっしゃる現れといってもいいのかもしれません。
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たくさんの意見があるのはもちろんよいことでしょうが、我々獣医師は国家資格をもらって仕事をしておりますので、狂犬病予防法に基づく予防の必要性を説明してその促進するという責務を負っています。
この点には議論の余地はありません。
こうしたことは税理士さんが「税法」による納税の義務を説明したり、自動車の整備工場が車検の必要な車の所有者に「道路運送車両法」に基づく車検の義務を説明することと何ら変わらないものです。
上記のタロー君に関してのご相談を獣医師に投げかけることはつまり、”もう年だし税金もきついから今年から納税しなくて大丈夫かな?”、と税理士に尋ねたり、”クルマはあまり乗らないから車検を延期できる書類を書いてくれ”、と整備工場に直談判することと同様に意味がないことであるとお察しください。。。
法律的義務などというものは、個人的な心情で納得いかないとか面倒だと思いながらも、法律違反によるペナルティや不都合ゆえに従わざるを得ないものでしょう。狂犬病予防も表面上は業界の悪習や利権のように見える部分があるのかもしれませんが、これも国が定める国民の義務のひとつでしかありません。
なぜか狂犬病予防の「是非の矢面」に立たされることが多い獣医師ではありますが、我々には狂犬病予防法の解釈を変えたり、凌駕するような超法規的なパワーなんてものはそもそも持ち合わせていないということ、狂犬病予防事業は獣医師にとっても「義務」であることも、ご理解いただければと思います。
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では「狂犬病」とはいったいどういった病気で、なぜ犬の予防接種が必要なのでしょうか?
狂犬病は診断・治療の非常に困難なウィルス感染症で、毎年全世界で5万人以上が死亡する重大な人獣共通感染症、人間と動物の間で起こる感染症のひとつです。
日本国内ではすでに撲滅されており過去の感染症となりましたが、戦中戦後の混乱期には数多くの死者を出して猛威を振るいました。現在でも世界中で発生しており、アジア、アフリカ、南米が流行地域になっています。
狂犬病は一旦発症してしまうと有効な治療がなく、その死亡率は限りなく100%というなんとも恐ろしい病気です。
さらに症状が出るまでの潜伏期間が1~3か月と長いために感染に気付きにくく、その病気に感染したという診断に至らず、しばらく経過した後に発症して「けいれん」や「マヒ」をはじめとする狂犬病に特有な激しい脳神経症状を起こして、急速に死に至ります。
感染の疑いのある場合には暴露後(ばくろご)ワクチンを何度も接種してその発症を防ぐしかありません。2012年、米国で8歳の少女が奇跡的に狂犬病を発症した後に生還したことが大きなニュースになりましたが。こうした例は記録の上で10人に満たない稀有なものです。
狂犬病はインフルエンザなどのように人から人への感染を引き起こさないため、現在の国内での感染症対策では優先度は高くありません。
ただし、罹ってしまった場合の死亡率は悪名高いエボラ出血熱ウィルスなど、あらゆるウィルス感染症を上回り、”最も死亡率の高い病気”としてギネスに記載もあるということに驚かれる方は多いのではないのでしょうか。
狂犬病は国内での発生は昭和31年以降は公式には記録がありません。このため日本は数十年の長期にわたって狂犬病清浄国となっておりますが、平成18年にフィリピンより帰国した男性が現地で狂犬病ウイルスに感染し、帰国後に発症、死亡したことが確認されています。
また、昨年9月に日本と同様に清浄国であったお隣の島国、台湾での発生が認められました。台湾での発生は海外からの侵入ではなく、野生動物(イタチアナグマ)によって長い年月、保持されていた狂犬病ウィルスが突如として犬に感染したものでした。狂犬病ワクチンの不足も手伝って台湾社会を震撼させたのはまだ記憶に新しいニュースでしょう。
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多くの方が「狂犬病」と聞いて想像されるイメージはおそらく下のイラストのような犬の姿ではないかと思います。
ところが、こうしたイメージは犬での狂犬病という病気を単純化したものとしては正しくもあるのですが、この病気の本当の理解や予防啓発という意味では誤ったメッセージを発する可能性があります。
つまり、狂犬病と聞くと、”犬の病気だから人間には関係ないのでは?”という類の病名による勘違いが多く見受けられるということです。それが転じて「狂犬病が発生していないのに狂犬病予防接種が何でうちの子に必要なの?」と考える方が多くいらっしゃるのでしょう。
狂犬病は人間生活に近い動物である犬が人間への感染の橋渡しをすることが多い伝染病です。日本語で「狂犬」となっているため、犬の病気?であるとか、犬だけが関係するものという誤解がしばしば生じています。
「狂犬病」は英語では「Rabies」ですが、そこに「犬だけの病気」という意味合いはありません。日本語へ翻訳する際に生じてしまった表現上の誤りがその理由です。
狂犬病の実態は人間生活に身近な犬のみならず猫などの伴侶動物、牛馬などの家畜、げっ歯類などの野生動物を含めた「すべての哺乳類」や鳥類に幅広く感染を起こし、そうした媒介動物が人間社会に脅威を与える伝染病です。
各国で、どんな動物が狂犬病もしくは、「狂〇〇病」というかたちで脅威となっているのかはそれぞれ随分と異なります。下図をご覧になってみてください。
※図は厚生労働省のホームページより引用しました。
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犬への狂犬病予防接種は人への感染機会の多い犬を予防することで、再び狂犬病が侵入した時に飼い犬の集団免疫によって、その蔓延を阻止するための手段です。
つまり、現在の狂犬病予防法で求められている狂犬病予防接種は接種をした犬1頭への狂犬病感染を防ぐことではありません。犬の集団から人間社会への感染経路を絶つことこそがその目的なのです。
こうした仕組みをかたちづくるために、法律が定める義務的予防接種として飼い主さん達に課しているというものです。
「高齢」、「かわいそう」、「お金をかけたくない」などの個人的理由で予防接種をしないという選択権は飼い主さんにはありません。いわば罰則を伴う社会責任のひとつと言えるでしょう。
我が国で狂犬病予防が犬のみに義務付けられているのは過去に蔓延した狂犬病の感染経路や、狂犬病予防法によりそれを根絶した実績があり、それが理にかなっているためです。
例えば、発生国の米国では犬だけではなく猫に対して接種義務があったり、清浄国のイギリスのように義務はない代わりに、感染を疑う動物の徹底排除とする国もあるなど、狂犬病を蔓延させないための手段やルールは国により異なっており、優劣のつく問題ではありません。
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狂犬病予防接種を義務化していない西欧諸国や予防そのものを禁止している豪州を例に出して、日本の予防行政の「後進性」が動物愛護と絡めてしばしばやり玉に上がります。
しかし、国としての対応はその国が狂犬病の侵入に際して、どの点を厳格にして狂犬病のリスクに向き合うと決めたかの違いでしかありません。当然、個人の心情としての動物愛護云々とも無関係なことです。
わが国では狂犬病ワクチンによる平時からの抑止を選んでいますが、一見して煩わしくみえるこうした仕組みは、緊急時には「ワクチン済みの犬の生存を許す」という暗黙の了解を与えるものでもあるでしょう。
一方で義務化をしていない西欧諸国の場合に、合理主義の彼の国々ではその対応がどのようなものになるのか想像してみてもいいかもしれません。
動物及び人に関わる重大な感染症としては、時折ニュース報道などで騒がれる鳥インフルエンザなどが代表的ですが、その発生時には動物には治療はもちろんのこと、ワクチンさえ使われることはありません。
重大な動物の感染症を封じ込めるという目的のため、発症した動物だけではなくその疑いのある動物、さらにその地域の健康な動物を含めての殺処分が広範囲に行われるのはご存知の方もいらっしゃるかもしれません。動物たちにとってみればまさに手段選ばずのこうした事実を私たちは感情論抜きにして受け止めなければなりません。
つまり、切迫した感染症の蔓延を防ぐために、人間社会は動物達をどのように扱うか?ということに行き着くでしょう。次回の狂犬病の再流行の場合にはいかなる対応となるでしょうか?その時々の社会情勢次第ではあるでしょうが、こうした例えは決して極論ではないのです。
人や動物の国際間の行き来がより頻度を増した現在では、国内への狂犬病の侵入の恐れはむしろ増大しているのが現状です。
わが国では海外から見境なく輸入される様々な種類の愛玩動物に対して、その検疫体制は決して充分とはいえるものではありません。むしろ、狂犬病が予想外の動物や経路から侵入することを常に想定しなければならないのが現状です。
もしかしたら既に国内に侵入して野生動物の間で犬や人間への感染の機会をうかがっている状態かもしれないのです。
さらに、日本国内では狂犬病ワクチンの接種率が年々低下して、その実態はおおよそ4割を下回っています。これは国連の世界保健機関(WHO)が勧告している狂犬病の流行を防ぐために最低限必要とされる接種率70%を大きく下回る予防水準です。
狂犬病は撲滅された過去の病気だから、もう日本では発生しないだろうという楽観的な根拠は全くありません。
犬は太古の昔から、時代とともにそのかたちを変えながら常に人間の最良の友であるとよく言われます。しかし、その一方で、時には狂犬病という恐ろしい感染症をもたらす危険な隣人にもなり得る存在だということを私たちは忘れるべきではないでしょう。
最後に下の図をご覧になってください。赤とピンクで塗られた地域は狂犬病が現在発生し続けている地域です。それと比べると日本をはじめとする青い色の狂犬病清浄地域はわずかでしかないという現実をご理解いただき、狂犬病予防の重要性をあらためて考えてみられてはいかがでしょうか。
※図は厚生労働省のホームページより引用しました。
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文責:あいむ動物病院 西船橋
井田 龍
獣医の視点からみる”トキソプラズマ症”
>>>猫のトキソプラズマ症とは?———————————————-
トキソプラズマ症というのは数ミクロン程度の虫というよりむしろ細菌の大きさに近い原虫、トキソプラズマ原虫(Toxoplasma gondii)が引き起こす全身感染症です。トキソプラズマ原虫は哺乳類や鳥類に広く感染する寄生虫(単細胞動物)の一種であり、豚肉や鶏肉、牛肉などの家畜の生肉や汚染された土壌や水を感染源として世の中に広く存在しています。
下の写真がトキソプラズマの顕微鏡写真で、緑色のツブひとつひとつが原虫です。
猫と人間を取り巻くトキソプラズマの感染のしくみは下図で(a.)~(f.)で示します。
上記の写真と図は国立感染症研究所のサイトから引用しています。
ー> 「トキソプラズマ症とは」、国立感染症研究所
猫や人間をはじめとする動物への感染の多くは筋肉など内臓の中に潜むトキソプラズマの組織シストに汚染された生肉などから感染する経路(e.)(d.)、もうひとつがトキソプラズマに感染した猫の糞便中に含まれる腸管型オーシストを口から摂取することです。(a.)(g.)
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腸管型オーシストによる感染経路は、糞便を介して猫から猫へ(g.)、猫から人間への感染源(a.)となるため、これが公衆衛生的な問題となります。さらにその原因が人間生活と密接な関係性を持つ猫であるということから、医療と医療という異なる分野を横断する問題となっています。
人間へのトキソプラズマの感染元には分かりやすくすると「食肉」、「猫の糞」の2通りが存在します。重要な点はどちらの感染経路でもトキソプラズマに初感染の妊婦さんであれば、経胎盤感染(f.)によって、胎児に先天性トキソプラズマ症を引き起こす可能性があります。
つまり「妊婦とトキソプラズマの問題」はただ猫を遠ざければよいという問題ではないことを、まず最初に理解することが重要です。
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トキソプラズマは環境への強い抵抗性を持つ「オーシスト」として糞便中に排泄されます。1日程度でオーシストの中で「スポロゾイト」という形態に変化したトキソプラズマは、他の動物への感染力を獲得します。このスポロゾイトはオーシストの中に潜みながら数か月以上の間、感染能力を保ち続けます。
感染に成功したトキソプラズマは体内で急激に増殖する「タキゾイト」(b.)に変化して数を増やします。その後、宿主の免疫により増殖が抑えられ、ゆっくりと増殖する「ブラディゾイト」に変化して、脳や筋肉などで多数の組織シストを形成して潜伏します。(c.)そして、次の感染と繁殖のチャンス、つまり最終的に終宿主のネコ科動物に食べられてしまうことを待ち続けます。
下の3枚がトキソプラズマの形態変化を示す顕微鏡写真です。
左から順に糞便中にみられる卵状の腸管型「オーシスト」、感染初期にみられる三日月型の増殖型「タキゾイト」、被捕食者の筋肉や脳に形成され青い粒のように見えるブラディゾイトを多数含む「組織シスト」です。
写真は千葉県獣医師会のサイトから改変(拡大のみ)引用しています。
ー> 「トキソプラズマ症」、千葉県獣医師会
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猫とその他の動物での違いは糞便中に感染力のあるトキソプラズマのオーシストを糞便中に排泄するかどうか、つまり繁殖できるかどうかです。自然界では人間をはじめとする中間宿主の哺乳類は食物連鎖の上でネコ科の動物に捕食されるという想定からか、トキソプラズマを繁殖してオーシストをつくれるのは終宿主のネコ科の動物に限られています。
トキソプラズマ症はネコ科の動物が深く関与する感染症ですから「猫に関わる病気」というイメージで語られること多いものですが、実際にはトキソプラズマに感染した猫が症状を出したり、飼い主さんが気付くことは通常はほとんどありません。
このため、猫のトキソプラズマ症は我々獣医師が治療対象とする感染症としてはなじみのない病気のひとつです。
トキソプラズマ症は猫に起きる重大な感染症というより、むしろ猫から人間へと伝播する感染症という公衆衛生の上での重要性が強いため、人間の医療方面から問題とされる感染症です。
特に妊娠を予定している女性や妊婦さんとその胎児へ与える問題という点と、多くの女性との濃厚な接点を持つ猫との強い関係性から、通常の人獣共通感染症よりもかなりセンシティブな扱いを受けている問題です。
>>>人間の病原体としてのトキソプラズマについて—————————-
人間のトキソプラズマ症は典型的な「日和見感染症」のひとつです。日和見感染症とは通常の免疫力があれば感染を起こしていても症状を出すことがなく、病気や薬剤など免疫機能が低下している場合に発症する感染症のことです。
人間では、例えば後天性免疫不全症候群(AIDS)や臓器移植を受けた患者さんなどに重大な感染症として発症する可能性があります。トキソプラズマが関与する感染症として脳炎や肺炎がよく知られています。
猫と人間を取り巻くトキソプラズマ症の重要性は妊婦がトキソプラズマに感染した場合に、胎盤を通じて胎児に感染して流産や先天性トキソプラズマ症などの重大な障害を起こすことがあるという点にあります。実際に動物病院で受けるトキソプラズマに関してのご相談の多くは、妊娠する予定であるとか妊娠中の方からのものがほとんどです。
人間のトキソプラズマ症の詳しい情報に関しては以下のリンクが参考になりますのでご覧ください。
ー> 「トキソプラズマ症とは」、国立感染症研究所
また、トキソプラズマについての分かりやすい説明、医療機関と動物病院にどのように相談すればいいか、という点に関しては下記のサイトがご参考になると思います。
ー>「愛猫の動物病院のかかり方は?」、トーチの会
>>>猫のトキソプラズマ感染症の症状—————————-
トキソプラズマに感染した猫がなんらかの症状を発症することは少なく、多くの場合は無症状で経過します。発症があった場合には数日間の発熱やリンパ節の脹れ、下痢を起こす程度のことがほとんどあるため、飼い主さんがそれと気づくことは難しいと思われます。
トキソプラズマは猫に初感染を起こすと腸管の細胞内で激しく増殖するタキゾイトとなります。稀ではありますが、この急激な増殖が体内に波及して致命的な腸管外トキソプラズマ症を発症することがあります。肝臓、肺、脳などの中枢神経系が急速に侵され、特に子猫が経乳感染や胎盤感染を起こした場合には劇症の腸管外トキソプラズマ症によってほとんどが死に至ります。
また、猫の免疫の問題によっては重大な慢性のトキソプラズマ感染症が起こる可能性もあります。眼内に生じるブドウ膜炎が代表的ですが、その他に発熱や体重減少、元気・食欲低下、てんかん様発作や運動失調などの神経症状、膵炎、下痢など消化器症状、黄疸など多岐にわたります。
これらの原因の特定が難しい症状がみられる場合には慢性トキソプラズマ感染症を疑う必要があります。
>>>猫のトキソプラズマ感染症の診断—————————-
猫のトキソプラズマの診断には虫体の検出をする以外にはありませんが、実際にはどのような検査でも虫体そのものが検出できることは稀であり、病気が重度になる程難しくなる傾向があります。
トキソプラズマ症による下痢を起こしている場合には糞便中のオーシストでトキソプラズマ感染を疑うことはできますが、オーシストは同種のコクシジウム類との外見上の区別が困難で目視による顕微鏡検査ではトキソプラズマ症を確定することができません。
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妊娠を予定されているもしくは妊婦の飼い主さんから、トキソプラズマ抗体価を依頼されることが時折ありますが、この抗体検査は飼い猫が今までにトキソプラズマの感染を受けたことがあるかを確認するための検査です。
「猫側の視点」からみる妊婦さんの危険度は以下のように解釈できます。まず、愛猫のトキソプラズマ抗体が陽性であれば、通常は初感染で起こるオーシストの排出は妊娠期間中にはほぼないであろうと判断されるため、安心材料となります。
逆にトキソプラズマ抗体が陰性の場合には今まで感染を受けていないと考えるか、とても少ない確率ですが初感染を受けているが、まだ抗体価が上がっていないという可能性があります。この場合には「感染を受けていないから大丈夫」ということではありません。むしろ妊婦さんは猫との関係に注意を払う必要があります。
ある調査では妊婦の方の0.25%が妊娠期間中に人間のトキソプラズマ抗体が陽転したというデータがあります。これは妊娠中のトキソプラズマ感染を示唆するものですから、この間にトキソプラズマ感染の疑いはおおよそ1000人に2人前後で起こりうるということです。この中に猫からの感染がないとは言い切れません。
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猫でのトキソプラズマの発症率は低いものの、猫自身のトキソプラズマ症を疑う際にも抗体検査を行います。実際には妊婦さんの検査の一環という猫の病気の診断とは異なる使われ方をされることが多いのですが、本来は猫のための検査です。
そもそも抗体検査というのは評価が曖昧な側面を持ちます。トキソプラズマ抗体の陽性という結果は感染が少なくとも数か月以上前にあったということを示します。つまり抗体価が陽性の猫はトキソプラズマを排泄することがほぼないため、妊婦さんには安全だろうという判断ができます。
しかし、抗体検査では起きている異常の原因が本当にトキソプラズマなのか?という確定診断にはならないため、検査を複数回行って抗体価の変化を評価する必要があり、手間も時間もかかってしまいます。このため、その他の検査を組み合わせながら診断を進める必要があります。
猫では慢性トキソプラズマ症として、眼内にブドウ膜炎を起こすことがよく知られています。ブドウ膜炎がみられる猫ではトキソプラズマはまず考えなければならない原因のひとつですので、まずトキソプラズマの抗体検査を行います。
疑いがある猫には、眼の中の眼房水をもちいた遺伝子増幅によるPCR法によって高い精度でわずかなトキソプラズマの遺伝子を検出して病原体が存在するという診断を行うことができます。
このPCR法は糞便でも可能で、従来の顕微鏡による糞便検査とは比較にならない精度でトキソプラズマの有無を明らかにできるため、便検査でオーシストがみられない場合や、発見されたオーシストがトキソプラズマかどうかを診断することができます。
>>>猫のトキソプラズマ感染症の治療—————————-
猫トキソプラズマ症の治療はクリンダマイシンやアジスロマイシンなどの抗生物質や、トリメトプリム・サルファ剤などの抗菌薬を使用します。
残念ながら、猫の体からトキソプラズマを完全に取り除いたり、オーシストの排泄を完全に抑え込む抗トキソプラズマ薬はありません。このため慢性経過をとるトキソプラズマ症は再発を繰り返す可能性があります。
>>>猫のトキソプラズマ感染症の予防—————————-
猫は通常、トキソプラズマに初感染した後数日から10日程度にわたって糞便中にオーシストを排泄しますが、その後に繰り返し排泄が起こるようなことは非常に稀です。ただし、2回目以降の感染を受けた場合にはその都度オーシストの排泄が起こることもあります。
しかし、実際にはオーシストの排泄をする猫は無症状なことがほとんどで、予測するのは初感染も含めて不可能なため、いつオーシストが排泄されているかは分かりません。
一般的にオーシストを排泄している間はトキソプラズマ抗体価が陰性であり、その後に抗体価が陽性になるとオーシストの排泄はほとんどなくなります。
また、猫はとてもきれい好きなため、グルーミングによって一週間以内に汚染された糞便ごとオーシストは除去されますので、通常は体表面に付着し続けることはありません。トイレの便はすぐに取り去るようにして常に清潔を保てれば環境中にトキソプラズマの汚染が起こることは少ないでしょう。
>>>人間を含めたトキソプラズマ感染症の予防—————————-
冒頭に記載した通り、人間へのトキソプラズマ症の感染源としての猫がクローズアップされがちですが、人間へのリスクは加熱されていない肉類などを含めた汚染環境からの経口感染の重要性も高いため、猫からの感染リスクを含めて注意を向けなければなりません。
猫を含む人間へのトキソプラズマの症の予防には「環境中のオーシストの摂取を防ぐ」、生の肉類に含まれる「トキソプラズマの組織シストの摂取を防ぐ」ためのいくつかの留意事項があります。
〇オーシストの摂取を防ぐために
・生肉や、充分火の通っていない肉を猫に与えない。
・小動物などトキソプラズマの宿主を遠ざけ、猫に狩りをさせない。
・猫のトイレは毎日掃除し清潔にして、糞は残さず洗い流す。
・猫のトイレは定期的に熱湯で洗浄・消毒する。
・土いじりの際には手袋をつけ、その後はよく手を洗う。
・生野菜の摂取を避けるか、よく洗ってから食べる。
・子供が遊ぶ砂場や庭に屋外の猫を入れない、排せつさせない。
・生水を食品に付着させない。飲むときには必ず沸騰させる。
・オーシストを排泄させる可能性のある猫を抗トキソプラズマ薬で治療する。
〇組織シストの摂取を防ぐために
・生肉、肉製品は66度以上の温度で調理したものを食べる。
・生肉を扱うときは手袋をつけるか、調理後はよく手を洗う。
・生肉を扱った調理器具、食器はそのまま使用しない。
・生肉は、肉製品は調理前に3日間以上凍結する。
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文責:あいむ動物病院西船橋 病院長 井田 龍