診療コラム
犬のブドウ中毒とは?
ネットには数多くの記述があり、少量であっても“死に至る可能性”さえあるという解説が随所に見られることも、この中毒に対しての世の中での危機感や関心の高さを窺い知ることができます。
ところが、この“ブドウによる中毒”らしき現象には、「どのような物質がどう引き起こすのか?」、「どのくらいの量で起こるのか?」という、中毒の原因となっているモノと理由が不明なままという、いささかもどかしい状況が獣医療の現場では長らく続います。
この中毒の特徴として、獣医師が診断・治療をどうすすめるの問題点として、困ったことに同じ量を食べても全く症状が出ない犬がいる一方で、少量でも体質や条件によって重い腎障害につながる犬がいることが分かっています。
また、”そのままのブドウ果実”はもとより、その加工品のレーズン等の水分の抜けた乾燥果実では中毒成分が製法やその重さに対して様々に濃縮されている可能性があること、また原形をとどめないブドウ原料を含む加工食品では、ブドウの量で換算できないため危険度の評価が難しい面がつきまとっています。
そのため、食べた量が明らかであっても「少量だから大丈夫」、「以前食べても平気だったから今回も問題ない」とは判断できません。
ブドウ中毒の危険性の目安がよく分からないため、通常の判断基準(どのくらい食べたか?)で予測が難しい中毒といえるでしょう。
最近では(まだ確定的ではありません)ブドウに含まれる酒石酸(しゅせきさん)が関与している可能性があり、原因物質として酒石酸(tartaric acid)、酒石酸水素カリウム(potassium bitartrate)が原因物質の候補として考えられるようになりつつあります。
いずれも中毒を起こす「生のブドウ」・「レーズン」・「サルタナ」(※ブドウの品種と乾燥方法・製法が異なるレーズンの一種)・「タマリンド(※マメ科タマリンドの実)」で共通に高濃度に含まれる物質であること、犬ではこれらの有機酸を排泄する能力が弱いため、という説が説得力を増しています。
また、食べた量と中毒量が一致しないのは犬の個体差によるのではないか、という根拠が一定の説得力を持っています。
現在では患者動物からの集積データから中毒量の目安として下記のような基準が公表されています。
◎ブドウ:約19.6 g/kg・レーズン:約2.8 g/kg
※ただし、上記の基準はあくまで不確定な部分を含むため、これ以下であれば大丈夫であるという保証はありません。
実際にはブドウという我々には当たり前の食材が、実は犬に”致死的な中毒”を起こす可能性など想像さえできない方も多いことと思います。
中には気付かずに食べさせているけれど”問題がない”というレベルのものから、”原因不明の急性腎不全”として動物病院で対処されているケースもあるかもしれません。
ネットで偶然に、”一粒でも死に至る可能性”というセンセーショナルな情報をご覧になり、“知らずにブドウを食べさせてしまったけれど大丈夫なのか?”というご不安は獣医療の現場ではかなりの切迫感を持って伝わってくることがしばしばです。
現在の獣医療では、食べた量だけではなく、食べてからの「経過時間」、「症状の有無」、「吐かせる処置」などにより胃からブドウを回収することが十分に行えたかどうか?
また、血液検査や尿検査の結果や患者動物の状態を総合して対応方針を決定します。
一般的に早い段階で処置を行えるほど、腎臓への影響を減らせる可能性があります。
もし犬がブドウ・レーズン・その関連食品を口にした可能性がある場合は、症状がなくても早めに動物病院へご相談ください。
>>>なぜ早めの受診が必要なのですか?
一般的に犬のブドウ中毒では、食べた直後には元気に見えることがほとんどです。
しかし、腎臓への影響は食べてから最低でも数時間以上経ってから現れることが多く、症状が出る頃にはすでに”体内へ成分が吸収されている”場合が多いと考えられます。
繰り返しになりますが特に問題になのは、「食べた量だけでは重症度を正確に予測できない」という点です。同じ種類・同じ量でも、犬によって反応が異なり、症状が出ない場合もあれば、少量でも腎機能に影響が出る場合があります。
そのため、ご家庭で様子を見て安全かどうかを判断することが難しい中毒と考えられています。
早い段階で受診していただくことで、状況に応じて”吐かせる処置(催吐)”や検査による評価を行い、体内へ吸収される前に対応できる可能性が高まります。また、必要に応じて血液検査や尿検査、点滴治療を行い、腎臓への影響を早期に評価・予防できる場合があります。
一方で、”食べてから時間が経過して体に吸収されている場合”、すでに嘔吐・元気消失・食欲低下などの症状が出ている場合は、原因となる食べたブドウの除去が既に間に合わないために、腎機能の評価や治療を優先的して対処されます。
「元気だから大丈夫」と判断せず、食べた可能性がある時点でご相談いただくことが、結果として中毒リスクを低減して、負担の少ない対応につながる最短の方法です。
>>>病院ではどのような処置を行いますか?(催吐・検査・点滴などについて)
動物病院では、まず胃の中のものを”吐かす処置”(催吐処置)を行います。
ただし、すでに嘔吐等、何らかの中毒症状が発現している場合や、食べてから時間が経過している場合、”何らかの原因で吐かせたものが誤って気管に入る危険が高い場合”などでは、催吐処置を行えないことがあります。
■ 吐かせる処置(催吐)
食べてから時間があまり経っておらず、安全に実施できると判断した場合には、まず体内へ吸収される前に吐かせる処置を検討します。
ブドウやレーズンは胃に比較的長く留まることがあるため、早期に内容物を回収できると、その後のリスクを下げられる可能性があります。
犬がブドウ・レーズンを食べた場合、「どのくらい食べたか」だけではなく、「いつ食べたか」、「現在症状があるか」を確認しながら、食べた時間からの経過時間を重要視して必要な検査・処置を行います。
■ 血液検査・尿検査
当初は症状が出にく、病態は数時間で進行するために、腎臓への影響が始まっていないか確認するために検査を行います。
◎下記のような項目を確認します
・腎臓の数値(クレアチニン、尿素窒素など)
・電解質バランス(ナトリウム、カリウム、塩化物イオン濃度、リンなど)
・尿の濃さや尿量
・脱水の有無
検査結果によって、経過観察でよいか、治療や入院が望ましいかを判断します。
■ 点滴治療(輸液)
必要に応じて点滴治療を行います。
◎点滴の目的は下記の通りです。
・脱水の改善
・腎臓への血流維持による腎機能の維持
・体液バランスの調整と維持
・排尿を促して、腎機能の変化を観察する
◎獣医師は上記を前提に、治療方針の提案をいたします。
・「食べた量がどのくらいか?」
・「消化管(胃)からの除去が十分か?」
・「血液検査等の結果」
・「症状の有無」
■ 入院が必要であるか検討する
一般的に動物病院では重症化している(可能性がある)場合のリスク回避のために検査・治療を最大限に優先して、「ブドウを食べたら、無条件に可能な限り入院して長時間点滴」を行う、という考え方による、「危険サイドへの備え」を理由に提案が行われることが多いとお考えください。
※治療・検査内容は一律ではなく状況に合わせてご提案します。ご不安な点やご事情がある場合は、遠慮なくご相談ください。
>>>どのような場合に入院が必要になりますか?
■ 食べた量が多い、または正確にわからない場合
食べた量や内容が不明な場合は、安全性を優先して一定期間の観察や治療をご提案することがあります。特にレーズンや加工食品は成分が”濃縮されていたり”、”確認できない”可能性があります。
■ 吐かせる処置が行えなかった、または十分に回収できなかった場合食べてから時間が経過していたり、安全上の理由で催吐を行えなかった場合は、その後の体内への吸収リスクを考慮して、可能な限りの中毒の抑制、軽減を目的として点滴や積極的な検査を選択する可能性が高くなります。
■ すでに関連する症状がみられる場合
次のような症状がある場合は、入院での管理が必要になることがあります。
・繰り返す嘔吐・悪心(気持ち悪そうな仕草)
・食欲低下や消失
・元気がない、など活動性の低下
・水を飲まない、または飲めない
・下痢等、嘔吐以外の消化器症状がある
・尿量の変化(少ない、出ない、極端に多い)
■ 検査で腎臓への影響が疑われる場合
血液検査や尿検査で腎機能の問題を示す変化や脱水が疑われる場合は、症状が軽く見えていても、早期治療を目的として入院をおすすめすることがあります。
■ ご自宅での観察が難しい場合
”夜間の様子が確認しづらい”、”飲水量や尿量の管理が難しい”、”通院間隔が空いてしまう”場合なども、より安全な経過観察のために入院を提案することがあります。
※入院は「重症だから入院する」ということのみならず「今は元気でも、起こりうる中毒の発症を予防し、変化を早く見つけて対応するため」に行います。
一方で、早期に受診でき、”吐かせる処置”が十分に行え、”検査でも異常がなく”、”自宅での観察が可能な場合”には入院が必要ないとされるケースなど、状況に合わせて、治療内容や入院の必要性をご相談しながら決定いたします。
>>>帰宅後に注意して見ていただきたい症状(再診の目安)
診察時に問題がなく帰宅となった場合でも、ブドウ・レーズン摂取後は時間が経ってから症状や検査異常が現れることがしばしばで、その予想は難しいものです。
帰宅後は数日間、普段との変化がないか注意深く様子をみていただくことをおすすめします。
ご家庭での観察は治療の一部となります。
迷う場合は「様子を見る」よりも、一度ご相談いただく方が安心につながることがあります。
◎以下のような変化がみられた場合には早めの受診やご連絡をご検討ください。
■ 繰り返し吐く、吐き気が続く
理由もなく何度も吐く、または食後や水を飲んだあとにも吐く、落ち着かない・口をくちゃくちゃするなど吐き気が続く場合はご相談ください。
■ 食欲が落ちた、食べたがらない
普段より食べない(好きなものも食べない)、食べてもすぐやめてしまう場合は体調変化のサインであることがあります。
■ 元気がない、反応が鈍い
寝ている時間が増えた、散歩や遊びに反応しない、呼びかけへの反応が弱い、ぐったりしているなど、普段と違う様子がある場合はお知らせください。
■ 水を飲まない、または飲み方が大きく変わった
飲水量が急に減る、逆に急に多く飲むなど、普段との変化は重要な情報になります。
■ 尿量や排尿回数の変化
次のような変化は特に注意してください。
・半日以上ほとんど尿が出ていない
・いつもより明らかに尿量が少ない
・何度も排尿姿勢を取るが出ない
・逆に急に尿量が増えた
※可能であれば「何時頃に排尿したか」「量は普段と比べてどうか」をメモしていただけると診察の参考になります。
■ 下痢や腹痛がある
”下痢が続く”、”お腹を気にする”、”触られるのを嫌がる”場合もご相談ください。
■ 受診の目安
次の場合は早めの受診をご検討ください。
・繰り返し吐いている
・水が飲めない
・尿が出ない、極端に少ない
・急にぐったりしている
・ふらつきや反応低下がある
後日の経過観察で症状がなくても再検査をおすすめする場合があります。
予定されている再診日や検査予定がある場合は、体調が良く見えても可能な範囲で受診をご検討ください
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文責:あいむ動物病院西船橋
代表獣医師 井田 龍”
デーツ(ドライフルーツ)誤食の注意点
>>>おやつに対しての意識の変化(人間側のはなし)
近年、健康志向のおやつとして、ドライフルーツを食べる方が増えているようですね。
人間が食べる”おやつ”といえば、誰しも”人工的な甘みが強い”であるとか”嗜好性や習慣性の高い”ポテトチップス等の(超)加工食品が思い浮かぶと思います。
一方で、近年ではおやつに対しても「自然志向」を求める層が増え、”プレミアム感の追求”による「無添加」や「砂糖不使用」、「スーパーフード」であるとか「腸活」などといった機能食品的な側面を求める価値観が広まっているようです、こうした背景もあり、以前は専門店でしか購入できなかったような素材由来の製品が入手しやすくなりました。ナッツやドライフルーツ等をおやつとして常備するご家庭も増えてきているのも頷けます。
>>>ドライフルーツ素材として「デーツ」の割合が増えている?
ところで、こうしたドライフルーツのひとつとして近年「デーツ」を見聞きすることが多くなったという印象はないでしょうか?
今回はそのデーツ(乾燥ナツメヤシ果実)に関してちょっと掘り下げたいと思います。デーツは”天然の甘味料”として近年になって食品メーカーが積極的に使用してきており、その背景には「天然由来の糖質」とか「食物繊維やミネラルが豊富」であるという安心感とサプリ的な側面が強い素材です。
また、下の図のようにさまざまなおやつ形態として多様化し、罪悪感の少ない健康スイーツ化が進んだことにより、ドライフルーツ界の主役に躍り出ている勢いある果実の一つといわれています。
>>>犬の「誤食事故」(大量摂取)につながる可能性
人間社会でのこうした「ドライフルーツ」に無条件に抱く“健康的で安全”という印象はかなり根強くみられます。それが転じて、犬に対しても「果物だから。まあ大丈夫だろう。」という安易な認識につながりやすくなっているかもしれません。
そもそもドライフルーツは犬にとって嗜好性がとても高いという条件が揃っており、与えればいくらでも食べ続けてしまいがちな食品です。それはワンちゃんにとって“適度に弾力性があり噛みやすく、水分が抜けて香りと糖が濃縮されている”まさに犬の嗜好を強くソソる特徴を持つためです。
また、袋ごと破って食べやすい包装のため一袋丸ごとという「一気食い」につながりやすく、目を離した隙の”短時間での大量摂取”となってしまう危険性が高い食材ともいえます。
>>>おやつとしてデーツを犬にあげる際の注意点は?
現在のところ、犬においてデーツが”問題のある食材”であることを示す情報はネット上でもあまり見当たりません。食べすぎないように”少量ずつ”節度を守って与える分には問題ないとされています。
他のドライフルーツ、例えばレーズン(干ぶどう)やプルーンでみられるような特定の有害性が指摘されているわけではありませんが、そうした連想から「デーツをたくさん食べてしまったけれど大丈夫なのか?」というお問い合わせは今後、増えてくるのではないかと感じています。
デーツに限らないことですが、一般的には人に対して健康的な食品でも、犬には向かない場合が時折みられますし、その摂取量や条件によっては事故につながる可能性もあるため、安全とされている食材であっても、与える量によっては注意が必要なことがあります。
犬に対しては問題が少ないとされているデーツですが、乾燥により糖質(果糖やブドウ糖)や食物繊維、カリウム、鉄、マグネシウム等のミネラル分が高濃度化している特長が、むしろ逆に犬の消化管への刺激や負荷となって消化器症状を引き起こす可能性も考えられます。
※犬はヒトよりも腸内で糖質を分解する能力が低いとされ、糖質(果糖)の大量摂取は消化不良や嘔吐、軟便や下痢などの消化器症状を引き起こします。子犬や高齢犬、持病がある犬では特にリスクが上がるため与える量には注意が必要です。
※体格の小さな犬では、チョコレート中毒に見られるように、摂取量に対する体重比が大きくなりがちなため、何かあった場合に症状が顕在化しやすい点には注意が必要です。
※上写真は実際に「デーツ一気食い」に至った小型犬が破いた”乾燥デーツ”の外袋です。”茶碗一杯分ほどのデーツ”を食べ尽くし”お腹がパンパン”の状態での来院でした。(下段の胃拡張の説明に該当します。)
>>>実際に、デーツを大量摂取すると何が起こり得るのか?
◆胃拡張
大量のデーツを”一気食い”した場合、胃の中に急に”乾いた塊”が詰め込まれた状態になります。特にドライフルーツは乾燥しているため、さらに胃液によって膨らみ胃の処理能力を奪ってしまうポテンシャルが高い食材です。
実はこの現象はドライフルーツに限ったことではなく、犬では例えばドライフードを極端に食べすぎた場合や一気喰いの後に起こりやすく、その結果として犬では胃拡張を起こす危険性が増大します。
◆小腸で生じるさまざまな消化器症状
小腸での吸収能力を超えた糖質が腸管内に流入し、それが吸収されないことにより腸内にとどまり続けて強い消化器症状(下痢や嘔吐など)が生じ得ます。その仕組みは以下のとおりです。
”高濃度の糖質”による小腸内での浸透圧の急上昇が起こると、体はそれを解消するしくみとして、体内から腸内への水分を移動させるという反応を起こします。
この反応が過剰になって腸内の正常な機能が失われ、またその後に糖質の腸内発酵が加わるなど、結果的に軟便〜下痢、嘔吐、腹部の張り、腹鳴(お腹がゴロゴロ鳴る)、流涎(よだれ)、不快感による落ち着きのなさや苦悶状態などが生じる可能性が高まります。
※「空腹時の大量摂取」、「小型犬」、特に消化機能の弱い「若齢や高齢犬」、「消化器症状を起こしやすい体質」であるとか「消化器の病気を持っている場合」にはこうした有害反応がより激しく出る可能性があります。
>>>デーツの大量摂取が体のしくみに及ぼす影響
胃でうまく処理されても、次に考えなければならないのは過剰な糖質負荷による消化管内の代謝の変化による問題です。
デーツは”乾燥させた果実”のため重さに換算しての”糖濃度”がかなり高く、たくさん食べた場合には小腸での急速な糖質(ブドウ糖)の吸収による血糖値の急上昇リスクが高まります。
健康であれば通常は体内のインスリン応答により大きな問題にならないことが多いと考えられますが、食べた量や特定の条件がある場合(上段の※)には、体への負担が大きくなる可能性があります。
特に糖尿病、慢性腎臓病、膵炎などの消化器疾患を持っている場合には注意が必要です。
また、デーツは本来は膵臓への負担が問題視されるような高脂肪食ではありませんが、大量摂取による小腸への大きな負担や刺激による腸内の急激な代謝変動を引き起こします。こうした腸内環境の激変に続くような膵炎症状を発症する可能性もあります。
このため、繰り返す嘔吐、腹痛、食欲廃絶、著しい元気消失などがみられる場合には、単純な胃腸障害ではなく、膵炎やその他の重大な消化器疾患も含めて評価する必要があります。
>>>デーツの危険性の見逃されやすい重大ポイント
また、デーツの”果実としての大量摂取”の問題とはやや論点がずれますが、”デーツの種”も同時に(特に複数)飲み込んでいるかどうか、これが果実そのものの病害性よりも大きな問題を引き起こす可能性があります。
それは種によって小腸で起こりうる、消化管閉塞などを代表とする異物性障害で、数日から1週間以内に”生命に関わる重大な問題”を引き起こす可能性が増大します。
”種”は犬の消化管内では消化されずに幽門部(胃から小腸への出口)、小腸で停滞・閉塞を起こす可能性が高くなります。(胃に残留し続け、長期に消化管閉塞へのリスクとなり得ることにも注意しなければなりません。)
デーツの種など、何らかの異物を飲み込んだ後にくりかえす強い嘔吐、食欲廃絶、腹痛、排便減少、活動性低下のなどが数時間から数日、場合により数週間以上かけて出現することもあります。
特に小腸の径が狭い超小型〜小型犬ではより注意が必要であり、状況によっては早期に内視鏡的除去や外科手術を検討しなければならなくなる可能性が生じます。
>>>もしも、ワンちゃんがデーツを大量に食べてしまったら?
ご家庭でデーツの誤食が判明した場合には、「どのくらい食べたか?」に加えて「種が含まれているか?」また「食べてからの経過時間」、危険性予測のために「体重および持病の有無」を明らかにして、動物病院に問い合わせを行うことが重要です。
特に「大量に食べた場合」や「種有りの場合」には要注意ですので、直ちに動物病院を受診していただくことをお勧めいたします。
比較的体調が落ち着いており、すぐには動物病院に来られないなど、自宅で経過を見る場合には、嘔吐などの消化器症状がなければ水は通常どおり自由に飲ます(ただし飲み過ぎには注意)とし、食事、おやつを制限して自然回復を待って下さい。
自己判断による催吐処置や食塩、牛乳などを飲ませるなどの”民間療法的な行為”は症状の悪化や別の危険性を生じますので行わないでください。
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文責:あいむ動物病院 西船橋
代表獣医師 井田 龍
猫の”おもちゃ”の危険性
猫の嗜好を刺激するいろいろな”おもちゃ”、愛猫家なら一度は手にしたことはあるものではないでしょうか。
その中で、猫の狩猟本能を最大限に刺激するもののひとつが「ネズミ型のおもちゃ」です。このおもちゃ、その魅惑的な姿形と動きが猫を誘惑するだけではなく、胴体内部にさらにソレを増幅する”マタタビ”が仕込んであるという優れものです。
猫を魅了する姿形といい、それを見る消費者を喜ばす製品としてもとてもよく考えられている製品ですが、その優れた”商品力”が猫にとって仇となります。
猫ちゃんにとっては一時の至高の時間を与えてくれるスバらしいアイテムですが、その快楽ゆえのリスク、「誤飲事故」です。
猫にとって至高のおもちゃが猫キラーに豹変する瞬間です。
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「ネズミのおもちゃ」の誤飲例は後ほど再登場します。
まず、猫で起こる誤飲事故って、どんなもの?どうやって診断するの?という諸々を以下でご説明していきたいと思います。
おもちゃをはじめとする多種多様な異物による誤飲(誤食)事故は犬や猫、フェレットで多発いたします。
おそらく治療件数では犬での発生が異物の種類や件数で一番多いと思われますが、実際は発見の遅れや診断治療が難しく、手が遅れがちになる事故はむしろ猫で多発することが多い印象です。
猫では、例えば石やピーナッツのようなパッとみて、わかりやすい固形物をそのまま飲みこむようなケースは実はそれほど多くありません。
よく問題となる異物は、自らグルーミングした毛玉のカタマリや飼い主さんの髪の毛(特に女性の長いもの)、絨毯や衣類の一部、布やビニール製などヒモ状の異物や、それらが複雑に絡み合って形成された異物が多くみられます。糸の付いた縫い針というのも時々あります。
猫での異物に共通するのは、猫の好きな長いひも状のヒラヒラしたもの、いわゆる「紐状異物」と私たち動物医療関係者が呼ぶような異物や、それに類するのが多くみられる点です。
これは猫はヒモ状であるとか布、ウール状の触感や視覚刺激を好む性質に原因しています。
一般的に異物誤食よる腸管閉塞が起きてしまった場合、程度の差はありますが数日で急速に悪化し、症状の発生から一週間以内に対処しなければ生命の危機に直結するほど重大な状態を体にもたらします。
ところが、猫においては初期に見られる症状は嘔吐や食欲の減退、うずくまっているなど、よくみられる毛玉トラブル、胃腸炎のような症状でしかないことがほとんどです。
つまり、”異物を飲みこんでしまった”、という飼い主さんの訴えがなければ発見が遅れがちになりますが、単独行動の多い猫では飼い主さんが異物を食べてしまったことに気付いていないことが多いためそのリスクは高くなります。
もし、異物を飲んだことに気付けなければ、いつのまにか容態が悪化して、動物病院を訪れたその場でいきなり緊急手術が必要な状態であることも多く、患者さんの状態によっては命懸けになることも決して少なくありません。
我々獣医師は見過ごされがちな嘔吐や食欲減退などの消化器症状の中に、その危険な予兆をできるだけ早く捉えて早期に診断しなければなりません。消化管閉塞は薬では治りませんから、治療のためには外科手術か内視鏡による摘出をしなければなりません。
つまり、まだ充分に麻酔や手術に耐えられる段階で治療を開始することが重要なのです。
ところが、消化管内に異物が詰まっているかどうか?というのは、実は獣医師にしてみると診断上は非常に悩ましい問題でもあります。
それはつまり、飼い主さんの申告がない場合には、その症状からは通常の胃腸の病気や特に猫で多発する毛玉によるトラブルなどとの区別がつかないことが多いためです。
もし、飼い主さんの訴えや身体検査での触診でそれらしい兆候があれば、その場ですぐに腹部や食道のレントゲン撮影を行います。
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レントゲン検査というのは光の代わりに放射線の一種のX線(エックス線)を利用して撮影します。X線を透過しにくい物質、例えば異物が骨、石、硬いプラスティックや木材などであれば、レントゲン検査で体の中の異物をすぐに確認することができます。
ところが、猫で多くみられる毛玉やヒモ、ビニール製品などX線をやすやすと通すような異物はレントゲン検査ではうまく写りません。
写らないけれど、異物の疑いが拭えない場合、バリウムなどの造影剤を使った造影レントゲン検査を行います。消化管造影によるレントゲン検査では、胃や腸管の運動状態や異物の存在を時間を追って撮影することで確認することができます。その仕組みは以下の通りです。
造影剤は「写らない異物」に達すると、例えば布であればそこに入り込み、特徴的なパターンを浮かび上がらせて、異物の存在を知ることができます。
造影剤は「重い液体」でもあるので、消化管が異物で詰まってしまっていればそれ以上は流れることはありません。この場合、消化管内異物は同時に腸閉塞が起きている診断にもなります。
もし、異物が毛玉のような軽いものであれば造影剤によって異物が押し流されて閉塞が解除されてしまう場合もあり、この場合、造影剤は”治療薬”としても働きます。
最近では超音波診断装置の画像向上により、異物は超音波検査(エコー検査)で診断することも多くなってきました。特に猫ではバリウムなど造影剤を安全に飲ませることが難しいことがよくありますので、超音波検査はとても有用な検査方法です。
検査者の技量によるところが大きいのが欠点ですが、現在では超音波検査は異物や腸閉塞の診断方法のひとつとなっています。
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さて、冒頭の猫のおもちゃを食べてしまった猫さんのお話に戻ります。
「猫のおもちゃの袋が破れていて、中にあったはずのおもちゃが見当たらない。」という、いかにも異物の誤食が濃厚な猫ちゃんが来院いたしました。
飼い主さんの談ではちょっとうずくまって気持ち悪そうにしているということです。
こういった場合はまず、レントゲン撮影を行うのですが、診察室でのお腹の触診で、すぐに異常が見つかりました。
お腹の左前(上)の方に人差し指の先くらいの硬いものが触ります。なくなったネズミのおもちゃ(冒頭の写真)の大きさと硬さから、これが小腸を閉塞しているようです。
このように、飼い主さんの訴えとこちらの診断が一致すれば、その後の検査は比較的スムーズに進むものです。レントゲン撮影では案の定、はっきりとは写りません。おそらくこのおもちゃの素材が「塩化ビニール」などであるせいでしょう。
触診で異物の存在が明らかなため、消化管バリウム検査ではなく、まずは超音波検査を実施いたしました。
その結果、小腸に異物による腸閉塞が見つかりました。とにかく早急に、猫ちゃんの全身状態が悪化しないうちに外科手術が必要です。
飼い主さんの決断も早く、術前検査の結果も良好でしたので当日中に腸閉塞の解除と異物摘出のための緊急開腹術が実施されました。
このように早い段階でにスムーズに手術にこぎつけられた場合、緊急手術での緊張感はありますが、治療を行う我々とっても同時に「早く見つかってよかった」という一種の安ど感に包まれるものです。
ところが、開腹して小腸を上から下まで観察してみると、そういった楽観は早速吹き飛ぶこととなりました。
術前検査では1個しか見られなかった異物が2つ、さらにそれらが紐のような構造でつながっているようです。おそらく、エコー検査後に胃から十二指腸に流れ落ちたのでしょう。手術室には緊張感が高まります。
小腸の2つの異物はそれぞれ、口に近い方から十二指腸とその下流にある空腸に2つの2カ所で腸閉塞を起こしており、異物は腸を内側から圧迫して本来のピンク色の色調が赤紫色に変化しています。数日もすれば壊死を起こし腸に穴が開いてしまう恐れがあり、命の危険がある状態です。
さらに悪いことに、2つの異物の間はヒモのようなもので繋がっており、お互いが引っ張り合って、さらに異物の表面がざらざらしているため小腸の壁に密着して動きません。
こういった場合にはまずは異物と異物の間で腸を切ってヒモ情構造を確認後、切断して切り離してから各々の異物をそれぞれ腸切開して摘出しなければなりません。
上の写真は写真左側の十二指腸に詰まった異物摘出の最中の写真です。各々が紐のような構造でつながっていました。
取り出した右の「1匹目のネズミ」に絡みついた女性の毛髪その繊維が編み糸のようになって20cmほどのひも状になっており、摘出中の左の「2匹目のネズミ」に絡みついて長い異物となっているのが確認できます。
大変厄介な異物でしたが「2匹のネズミ」を摘出して切開した腸管を縫合して、本来ならば手術が一段落するはずでしたが。。。ここで、またさらに問題が起きました。
どうやら左の十二指腸の「2匹目のネズミ」を摘出する際に別なヒモ状物がさらに上流の胃の中までつながっているのが発見されました。これはつまり、胃の中にに「3つ目の異物」が存在している証拠になります。
胃内での異物の状態が不明なため、手術と同時に口から内視鏡を使って胃内を検査しているところが上の写真です。
その結果、なんと内視鏡検査で新たに「3匹目」と「4匹目」のネズミが胃の中に留まっていることが判明いたしました。
胃の中の3匹目と十二指腸の2匹目をつなげているヒモ状物を切断した後、内視鏡で「3匹目のネズミ」と「4匹目のネズミ」を摘出いたしました。
このように実際に単独だと思われていた異物が手術中に複数発見されることは多く、それらが紐状異物で絡み合っていることは、実は決して珍しくありません。
ご紹介したこの猫ちゃんの例ではなんと、4匹のネズミが、胃から十二指腸、空腸の全長30cm以上にわたって飼い主さんの髪の毛と衣類、ビニール製ヒモなどが編み込まれたようなヒモ状の異物で数珠のようにつながっておりました。
異物同士がヒモ状物でつながっている場合には、それぞれの両端の異物が振り子のように引っ張り合ってしまいます。本来ならば下流に流れるものでさえその場に止まってしまいます。ヒモ状異物が絡むことで、異物が自然に排泄されることはまずありません。
一方が胃内、もう一方が小腸内にある場合や食道と胃をまたぐような場合、小腸の複数カ所など色々なパターンがありますが、こうした異物は排せつされることなく死に至る可能性の高い危険な異物です。
ご紹介した猫ちゃんの例は、”ネズミのおもちゃを食べてしまった”という正しい情報と飼い主さんの決断により当日の緊急手術ができたこと、さらに手術中に「4匹目のネズミ」までたどり着けたという最もいい条件の元で無事に回復いたしました。
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売れればヨシとばかりに、結果として多くの命を奪っているだろうこのような危険な「おもちゃ」が普通に売られていることには、我々獣医師をはじめ危険性を知る者にとっては驚きを禁じえません。
人の世界とは異なりますから、潜在的な危険性に対して製造者にも罪の意識は皆無でしょうし、そういった不作為を法律的に問われることはまずないでしょう。
このようなおもちゃ類の誤飲事故は病院にかかることもなく亡くなる若い猫の死因のそれなりの割合を占めていると思われます。もちろんメーカーに直接こういった危険性の情報がもたらされる仕組みそのものがありません。
ペット関連商品では、こういったおもちゃやおやつ類など一時、世間を騒がした「こんにゃくゼリー」の比ではないくらい危険なものや、人の食品衛生法ではありえないような食品がペット用としてごく普通に売られています。
誰もそれを咎めることなく規制されることもない。悲しいかな、動物に対しての事故は一番の被害者である飼い主さんの「自己責任」ということになってしまいます。
ペット用品の選択には、くれぐれもご注意なさってください。
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文責:あいむ動物病院西船橋
病院長 井田 龍